第12話 落着いた時間でも色々ある


 考査前にバイト先の店長にお願いして中間考査中だけは、バイトを休ませてもらった。その代わり次の土日は出ないと行けなくなった。代わりの時間は午前十時から午後二時まで。シフトを調整した結果らしい。



 土曜日、私は来店したお客様に注文したビールを持って行くと

「置き方分かってねえな。いきなり後ろから出すんじゃないよ。俺がちょっと動いていたら体にビールが掛かる所だったじゃないか」

「すみません。お客様」

「全く、それより、つまみ頼んでいるだろう。一緒に出すのが当たり前だ。早くしろよ」

「すみません。直ぐに持ってまいります」

「おっ、結構可愛いじゃないか」


 私の手を掴もうとしたので直ぐに手を引いたけど。

「お前、客に逆らうのか?」



「お客様、すみません。当店ではそう様なサービスはしておりません」

「なんだよ。お前?」

「ホールマネージャです。何か問題ありましたら私がお聞きします」

 私に戻れという目配せをしてくれた。


 直ぐに配膳室の中に入って少しするとマネージャが戻って来た。

「友坂ちゃん、大丈夫?」

「あっ、薬丸さん、ありがとうございました。いきなり手を握られそうになって」

「あの人はブラックリストに載っているお客様だ。俺が担当するよ」

「ありがとうございます」



 薬丸マネージャは、この店のNo2でイケメンで皆に優しい人だ。レジの担当でも有る。その後は、何事も無く過ごしてバイト時間が終わった。この時間に働いている人はまかないを食べれる。遅いお昼変わりだ。


 厨房の隅っこで祐也と一緒に食べていると薬丸さんが、

「いつもそうだけど君達仲いいね。付き合っているの?」

「はい、祐也は私の彼氏です」

「お、おい」

「あははっ、正直で宜しい」


 それだけ言うと仕事に戻って行った。その後は二人で着替えて、家に帰ると言っても行先は祐也の家だ。


 今日は祐也のお母さんはお仕事。午後六時まで帰って来ない。そして私は女性の大切な日が終わった後。アレがいらない日。


 祐也の家に上がって直ぐに彼の部屋に入った。後は…。うふふっ、自然とそうなる。私も彼も嫌いじゃないみたい。二人で思い切り楽しんだ。


 一度終わると

「美琴、バイト中何か有ったの?途中でいきなり配膳カウンタの所に来て、その後薬丸さんが来たからさ」

「うん、ちょっと嫌な客が居て手を掴まれそうになった所をマネージャが助けてくれた」

「えっ!そんな事有ったの?」

「うん、その客はあのお店のブラックリストに載っているんだって。今度来たら注意しないと」

「美琴、気を付けて」

「うん」


 二人で見つめていたらまたしたくなっちゃった。



 午後六時になり、彼のお母さんが帰って来ると

「お邪魔してます」

「いらっしゃい。美琴ちゃん」

「お母さん。美琴送って来る」

「分かったわ。気を付けてね」

「分かっている」


 本当は一緒に食事もしたいけど、今美琴の家は微妙な時期だ。だからなるべく家族が一緒に居る時間を多くした方がいいというお母さんの考えも有って、こうしている。


 

 次の日も二人でバイトに出かけた。今日は昨日の様な事はなく、時間が過ぎて行くのだけど、配膳カウンタに行って、厨房から出て来た料理を取ろうとして、祐也にお客様担当の柏木さんが声を掛けている。今忙しいのに。


 柏木さんはこのファミレスでもう一年以上働いている大学生。すっきりした美人でバイトの男の子の噂になっている事が多い。



 バイトが終わり、厨房の隅でまかないを食べ終わり着替えていると柏木さんも終りなのか更衣室に入って来た。


 制服を脱ぐと、スレンダーな体なのに思い切り胸が大きくお尻もしっかりしている。私がつい見ていると


「どうしたの?」

「いえ、素敵だなあと思って」

「ありがとう、でも友坂さんも素敵じゃない。祐也君とは仲良いの?」

 私の彼氏を名前呼びした。


「はい、付き合っています」

「そうなんだ。大切にしてね」

 どういう意味で言っているんだろう?



 二人でファミレスを出ると

「祐也、今日仕事中に柏木さんが話しかけていたでしょう」

「ああ、食器洗っている時だな」

「何話していたの?」

「つまらない事。何処の学校だとか。趣味は何だとか。忙しい時間なんだから勘弁して欲しい感じだったよ」


「そうなんだ。帰りの着替え中、話しかけられて。祐也って名前呼びするし、祐也の事大切にしてねとか言われたから気になって」

「えっ、俺に話しかける時は葛城って名字で呼んでいるけど」

「えっ、そうなの?良かった。名前呼びしていいのは私だけなんだから」

「美琴の前だから名前呼びしたんじゃないか?」

「なんで?」

「俺にも分からない」


 柏木さん、祐也に興味持っているんじゃないよね。



 この日は、祐也の家にはお母さんがいる。だから私の部屋に連れて行こうと思ったけど、お父さんは彼の事を快く思わなくなっている。


「ねえ、祐也、今日、どうしようか?」

「そうだな。美琴の部屋も行き辛いし。やっぱり俺の部屋に来るか」

「うん」



 祐也の家に行くと

「いらっしゃい。美琴ちゃん」

「お邪魔しまーす」

「祐也の部屋なのよね」

 どういう意味で言っているんだ?


「お母さん、これから二時間位出てくる。午後五時には帰って来るから」

「えっ?!」

「驚く事ないでしょう。ねっ、美琴ちゃん」


 完全にバレている。私は耳まで赤くなっている事が分かった。下を向いて顔を上げられない。

「美琴、いこ」

「う、うん」


 二人で部屋に入ると

「バレてるね」

「いつバレたんだろう。お母さんいない時にしているのに」

「あっ、ゴミ箱、お母さんが片付けてくれている」

「それじゃあ、バレるよ」

 二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


 少しして、玄関のドアが閉まる音がした。

「美琴、せっかくだから」

「うん」


 ふふふっ、祐也のお母さんありがとう。



 午後五時には二人リビングに居た。流石にバレていると帰って来るまで部屋に居るのは恥ずかしい。



 今日も美琴を午後六時過ぎに送って行って家に戻って来ると

「祐也、美琴ちゃんとするのは良いけど、気を付けてね。赤ちゃんを作るのは十八才過ぎてからよ」

「気付いていたんだ」

「当たり前でしょ。最初から知っていたわ」

「えっ?!なんで?」

「私は祐也のお母さんよ。その位分かるわ。美琴ちゃん大事にしなさいね」

「うん、分かってる」



 祐也との楽しい時間を過ごして気分よく家に帰って来た。両親とはなるべく一緒に夕食を摂る様にしている。


 朝も一緒だけど、あまり話をする時間はない。お父さんも真司の事は言わなくなっている。


 だから少しずつだけど、前の様な時間を持てるようになった。食事が終わりそのままダイニングで寛いでいるとスマホが鳴った。


 画面を見るとあいつからだ。もう忘れていたのに。しつこく鳴っている。

「美琴、真司君じゃないのか?」

「出たくない」

「何回も掛けて来るわよ」


 無視しても最後は出なくてはいけないので、なるべく待たしてから出た。用件は勿論会って欲しいという事だった。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る