第10話 バイトは楽しい


 家の事で色々有ったけど、金丸真司の事はなるべく頭から忘れる事にしている。あいつの事を考えても気持ち悪くなるだけだ。


 それより、バイトを始めてからは祐也とずっと一緒に居れるのが嬉しくて仕方ない。今日も学校が終わって、バイト先であるファミレスに向っている。


 学校が終わると昇降口で履き替えてから祐也と手を繋いで駅まで行って、そこから四駅、私の家の最寄り駅について、直ぐ目の前に有る。


 ファミレスに入って、そのまま事務室に行き、更衣室に入って着替える。祐也も同じ。彼は裏方でまだ入って間もないので皿洗いとか多いと言っていた。後、フリードリンクの補充とかもやるらしい。もう少し経つと料理とかもさせてくれると言っていた。


 私はホールと呼ばれている、お客様エリアでお店の制服を着てお客の対応をする。先輩に教えて貰いながら、お水やナイフフォーク、お箸のセットケースをテーブルに置く。


 注文は、テーブルからタブレットで申し込むので、いちいち注文を取りにいかなくていい。厨房から出て来た、テーブル番号が着いた料理を持って行くだけだ。


 本当は、料理を出すのもロボット化したいらしいが、費用対効果の関係で導入出来ないと言っていた。だから私達のバイトが成り立つんだけど。


 それと午後四時から午後七時までは結構お客様が多い時間帯なので、あっという間に時間が過ぎてしまう。


 そして終わると祐也と一緒に私の家まで帰って、それから彼が駅に向かって暗くて見えなくなるまで私が見送って終わり。


 いつも手を繋いで歩いているから本当に祐也が傍に居る事を感じる。でも明後日あいつと会わないといけない。

 待合せ場所は同じ所。土曜日だけ時間がスキップしてくれないかと思ってしまう。



 学校に行く時、前は学校の最寄り駅で待ち合わせしていたけど、今は祐也の家の最寄り駅のホームで待合せ。


 私の家は学校から四つ目だけど、祐也の家は学校から二つ目の駅。今日もホームで待っていると直ぐに祐也が来た。


「おはよ、美琴」

「おはよ、祐也」

「明日は、雨みたいだけど大丈夫かな?」

「あいつの話だと、話だけしたいと言っているから、駅の近くの〇ックに入って、終わらすつもり。だから雨は関係無いよ」

「そうか、また午前十時に会うのか?」

「うん、話だけだから三十分位でバイバイする。その後、またあそこで待ち合わせしようか」

「ああ、俺も午前十時には渋山に居るよ。本読んでいれば三十分なんて直ぐに過ぎるし」

「そうだね」



 そんな話をしている内に学校の最寄り駅に着いた。

「美琴、家の方は落ち着いている?」

「うん、取敢えず回っているみたい。お父さんも営業に必死。そのおかげで受注も有るみたいだし」

「そうか良かったな」

「うん」


 家業を継いだとはいえ、今のご時世では、早々に立ち直るのが難しいのは高校生の俺でも分かる。なんとか順調に行って欲しいものだけど。



 その日も放課後になると一緒にファミレスでバイトして祐也に家まで送って貰った。


「祐也、再来週の火曜日から中間考査じゃない。休みの日は一緒に勉強しよう」

「ああ、それがいいな。あと考査ウィークに入ったら、バイト時間まで図書館で勉強してから行くか」

「うん」


「じゃあ、明日いつもの所でね」

「うん」


 彼の姿が暗闇で見えなくなるまで見送ってから家に入った。

「ただいま」

「お帰り美琴」


 お母さんも吹っ切れているのか、融資問題が始まったあの頃から比べると顔色も良いし穏やかな顔つきになっている。私も嬉しい。


「美琴、もうご飯だから」

「はーい」


 着替えて手を洗ってダイニングに行くと、もうお父さんは椅子に座ってビールを飲んでいた。


「お帰り美琴」

「ただいま」

「明日、真司君と会うんだろう?」

「だから?」

「いや何でもない」


 なによ。あんたの所為であんな奴と話をしなくちゃいけないんじゃないない。こんな事思っても親は親。子供は親を選べない。


 高校卒業して大学に入ったら、祐也の家で同棲?いえ、お母さんが居るから間借りか、でもしよう。




 そして当日、雨が降っている。じとじとして嫌だけど、約束しているから行くしかない。

 午前十時に待ち合わせ場所に行くとあいつは来ていた。少し傘を上げてあいつを見ると嬉しそうな顔をした。気持ち悪い。


「おはようございます。美琴さん」

「ねえ、前から思っていたんだけど、あなたに名前呼びされる理由は無いわ。名字で呼んでよ。出ないと今日の話は無しよ」

 これで諦めろ!


「でも、お付き合いしているから…」

「勝手に付き合っているなんて思わないでよ。私は仕方なくあなたと会っているだけ。勘違いしないで」

「わ、分かりました。友坂さん。じゃあ、近くに素敵な喫茶店が有るので…」

「結構です。話なら信号を渡った所にある〇ックで出来るでしょう」

 またかよ。仕方ない。しかし、もう少し柔らかい言い方出来ないのかよ。周りの人が面白そうに見ているじゃないか。


「分かりました。〇ックにしましょう」


 色気もへったくれも無い。せっかく素敵なコーヒーショップが有るのに。〇ックのコーヒーの三倍はするんだぞ。


 私は、〇ックに入ると自分のお財布からお金を出してカウンタでバニラシェイクを頼んだ。あいつはコーヒーとポテトだ。


 適当に空いている席に二人で座ると

「あの、友坂さんは、コーヒーとか飲まないのですか?」

「飲みません」

「そうですか。紅茶は?」

「飲みません」


 良かった、あそこ飲み物はコーヒーと紅茶しかないからな。入った所で終わりになる所だった。しかし、バニラシェイクなんて。この子はこういう物が好きなのか?


 私が黙っていると何も話しかけて来ない。シェイクが残り半分になった所で


「話無いなら帰ります。じゃあ」

「ま、待って下さい。今日は話をする予定だったんですけど、友坂さんに会ったとたんになんか、胸が熱くなって」

「そうですか。水でも飲んだら如何ですか」

 こいつ、何馬鹿言ってんの。


 この女、こんな事言ったら少しは喜ぶと思ったのに。


「友坂さんは友達といつもどんな会話しているんですか?」

「あなたに教える必要はありません。そちらから話しがないなら帰りますよ」

「すみません。じゃあ、俺の方から話しますね」

 

 それからは学校の友達にはこんな奴がいるとか、勉強は普通に出来て、もうすぐ中間考査だから友達とは競い合っているんだとか、私には全く興味無い事を話している。もうすぐ三十分だ。終わらすか。


「あの、金丸さん。お話中ですけど。私そういう事には全く興味ないので、もう帰ります。あなたの話を耐えながら聞く理由はありません。一応今日は話を聞いたという事で。じゃあ、さようなら」

「そ、そうですか。残念です」


 あーぁ、いちゃったよ。何が悪いんだ。俺の普段の話をしているだけじゃないか。相槌位打ってくれてもいいじゃないか。

 そう言えばバイトしているって父親から聞いている。そんな話題にすれば良かったかな?



 あーっ、面倒だった。さっさと祐也の待っている所に行こう。


―――――

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