第7話 何でこんな奴と会うのよ
あの男から会いたいという連絡が有った。冗談じゃない。でもお父さんは、一度でいいから会ってくれと言った。
はっきり言って、もう口先だけの親にしか見えない。私を生贄にして自分が助かろうというだけの話だ。
でもその時は仕方なかった。どんなに酷い親でも私を産んでくれて、そして小さい頃から一杯の愛情を注いでくれた。
今、経営がこんな風になっていなければ、それはずっと続いていただろう。でも…。酷い。娘を差し出して金を貰う人間なんて最低としか思えない。
祐也には、明日あいつと会うと教えた。待合せ場所も教えた。そして万が一の時は助けて欲しいとも伝えた。
彼は、絶対に変な事はさせないと言ってくれたことが嬉しかった。
そして当日を迎えた。
俺、金丸真司。今日はこの前融資の件で釣った友坂美琴という女の子と会う事になっている。
スマホで連絡取った時は、全然日付が合わないと言われて頭に来て、あいつの父親に切り替えて連絡した所、会う事が出来る様になった。
どうせ自分を安売りしたくない、言葉変えれば融資額に見合う女だとでも思っているんだろう。
俺としてはそんな事どうでもいい。俺が高校生の間楽しめればいいだけだ。別に遊ぶ相手は友坂美琴だけじゃない。
単に俺の選べる遊び相手の一人に加わっただけだ。最初は綺麗事言っても直ぐに篭絡するのは女の性だ。
今日だって、最初は下手に出てやればいいさ。飴と鞭それだけの話だ。おっとそろそろ来る頃だな。
俺は、渋山の犬の銅像の傍にある交番の前で待ち合わせをした。一応相手の事を思ってだ。
待合せの時間の十分前に着いた。一応俺紳士だから。友坂美琴は待合せの時間午後十時ちょうどに着いた。
エスカレータを上がって左に回ると彼女は俺と視線が合った。面白くなさそうな顔をしているがこれも演技だろう。
格好は、首元迄きっちりとボタンで綴じた色が濃い白のシャツと茶のパンツスタイルだ。一応清潔感は出せている。
こちらに向かって来ると
「お待たせしました」
「いえ、俺も今来た所です」
一応定番返答。
「じゃあ、行きましょうか」
「何処へ?」
「今日は美琴さんにお付き合いの記念に洋服を買ってあげようと思いまして」
どうせこれで折れる。
「結構です。あなたに洋服を買ってもらう筋合いはありません」
「でも、俺がプレゼントするって言っているんですよ」
「結構です。他の方にプレゼントして下さい」
おい、どうなっている。
「じゃあ、映画でも見ますか」
「結構です。他の方と見て下さい」
「あの、今日俺と会う為に来たんですよね」
「はい、こうして今会っています」
「じゃあ、二人で何処か楽しい事しましょうよ」
「楽しい事?」
「洋服を買うとか、映画見るとか、食事するとか、駄目だったら散歩するとか、それも駄目だった…。何しましょう?」
「何もしなくて結構です。そうですね。散歩でもしましょうか」
おっ、そう来たか。じゃああっちに散歩するか。
俺は、一見我儘だが、どうせ自分を高く見せる演技だと思っている。今迄付き合った女は、俺が金の有る事をいい事に欲しい物の金額を吊り上げて来た。
こいつも同じだろう。町工場の零細企業の娘だ。大した思いはしていない。色々見せている内にそのガードも崩れるさ。
俺は、駅方向から回廊坂を歩いた。このまま行って右に曲がればあの通りだ。後はどうにでもなる。
「せっかくですから手を繋ぎませんか」
「結構です。老人じゃないので一人で歩いて下さい」
「なっ、…」
冗談じゃないわ。汚らわしい。
ふーん、まだお高く止まっているのか。まあ、もう少しだ。
「あの、駅戻りません」
「えっ、なんで?」
「いえ、こっちだと何もありません。駅の反対側に出来た新しいビルの中でも見ましょうか」
「そ、そうですね」
ちっ、上手くいかなかったけど、洋服でも欲しくなったのか?
この男の頭の中なんて薄っぺらすぎて面白くない。このまま回廊坂を上がってホテル街でも行くつもりだったんだろう。馬鹿じゃないの。
駅向こうのビルは三つある。一つ一つのショップをゆっくり見れば時間も過ぎる。
いつまで見ているつもりだ。買うでも無しに一つ一つのショップをゆっくりと見ている。
俺が買ってあげましょうかと言っても見ているだけですと言うだけだ。今日は自分を高く売る為の準備か。
だとすればこいつの父親と同じだな。いいもの欲しさに自分の値を吊り上げているだけだ。馬鹿らしいが今日は付き合ってあげるか。この後の事でその自尊心も折れるだろう。
もう午前十二時を過ぎた。
「もうお昼ですね。食事にしましょう。あなたの為に素敵なレストランを予約しているんです」
これでどうだ。
「そうですか。残念ですね。そういう所は私のお財布には合わないので駅前の〇ックにしましょう。勿論割り勘で」
「えっ、いや俺奢りますから」
「あなたに奢られる理由はありません」
「で、でも今日は初デートだから」
「金丸さん、何か勘違いしている様ですけど、私はあなたとデートをするつもりは全く無いです。親の頼みであなたとこうして会っているだけです。勘違いしないで下さい」
「そ、そんなぁ」
どういう事なんだよ。でも今日はこんな感じで高ピーになって自分を高く見せているだけかもしれない。
「分かりました。じゃあ〇ックにしましょう」
「はい」
二人で〇ックに入って別々に精算して食べ終わると
「金丸さん、私はこれで失礼します。用事があるので」
「えっ、今日は俺と一日一緒に居てくれるんじゃないんですか?」
「誰もそんな約束していません。私は親の頼みであなたと会っただけです。充分でしょう。失礼します」
何なんだよ。全く話が違うじゃないか。いきなりラブホとかは考えていなかったけど、高級な洋服やアクセサリを買ってあげて、高級レストランに連れて行けば、女子高生なんて簡単に靡くはずなのに。
あの男馬鹿じゃないの。自分が金持ちだと思わせれば、誰でも靡くと思っているのかしら。
あっ、居た居た。
「祐也、待った?」
「もう良いのか?」
「これでも時間かかった方だよ。行こ」
「うん」
―――――
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