第6話 真司と会う事になった


 俺は美琴と一緒に家を出た。出る時お母さんが、

「これ、祐也と美琴ちゃんの分」


 そう言って二人のお弁当を渡してくれた。


 私は祐也のお母さんからお弁当を作って貰えるなんて夢にも思わなかった。今日は少ない小遣いだけど購買でパンでも買えればいいと思っていた。それだけにちょっとだけ涙が出そうになった。


「お母さん、ありがとうございます」

「あら、私をお母さんって呼んでくれるの。嬉しいわ。じゃあ二人共行ってらっしゃい」

「「行って来まーす」」


 あの二人今日もうちに来るだろうな。でも友坂さんの家の事も有るし。うちで泊ってもいいけど、それでは美琴ちゃんちへの内政干渉なる。


 ここはやっぱり美琴ちゃんと両親がしっかりと話して貰って、その上で来るのなら良いのだけど。

 どうしたものかしら。それに美琴ちゃんの言っていた男の子の事も気になるし。



 俺達は学校へ向かいながら


「ふふふっ、嬉しいな。祐也のお母さんのお弁当が食べれる」

「そう言って貰えるとお母さんも喜ぶよ」

「ねえ、やっぱり祐也の家に住めないかな?」

「それは嬉しいけど、その前に美琴の家の事も有るし、うちだけいいと言っても出来ないよ」


「家かぁ。家出しても祐也の所しか行くところないからすぐばれちゃうね」

「そうだな。それに家出は駄目だ。来るならきちんと両親と話さないと」

「無理無理、話して分かる親なら最初から私に話していたわ。勿論断ったけど」



 話をしている内に学校に着いた。今日の美琴は俺んちから登校した所為か、いつもの笑顔だ。


 俺達が通う都立巻島高校はこの土日が文化祭だ。俺達二人は部活には入っていない為、そちらの作業が無い分、教室の催し物を手伝わないといけない。


 初めての文化祭だが、クラスでは喫茶店をする事になった。勿論メイド喫茶とか、執事喫茶とかではない普通の喫茶店。


 クラスにこういうのが好きな男女が居て、やる事になっている。俺は裏方。美幸は可愛いという理由でお客様対応だ。


 放課後は飾り付け等作るのでみんな忙しいけど、昨日俺達は早退してしまったので、今日は参加しないといけない。



 お昼になりお母さんが作ってくれたお弁当を教室で食べた。

「美味しいね。祐也のお母さんのお弁当。私もこの味覚えないと」

「どうして?」

「だって、祐也もお母さんの味のお弁当食べたいでしょう」

「それも良いけど、美琴の味もいいな」


「おい、いつもながらの夫婦仲だな」

「あれ、上野どうしたんだ?」


「教室の前通ったら、お前達の姿見えたんでさ。寄ったんだ。そしたら益々夫婦仲が濃くなっているなぁなんて思って声掛けたんだよ」

「ふふっ、そう見える上野君」

「ああ、二人の結婚式の時は呼んでくれよ」

「早いってばぁ」

 美琴が顔を赤くして上野に言っている。これが美琴なんだよな。でもあの事考えると…。


「どうしたの祐也?」

「いや何でもない」

「へんなの」



 午後の授業も終わり放課後になり、教室の飾りつけを手伝った後、俺達は学校を出た。

「祐也、今日も祐也の家に行きたい」

「それは構わないんだけど」

「とにかく行く。あの家には帰りたくない」



 美琴の家のある駅で降りなくて俺の家の傍まで来た。

「取敢えず入るか」

「うん」


「ただいま」

「今日もお邪魔しまーす」


 あれ、この靴?

 いきなり美琴のお母さんが出て来た。


「美琴帰るわよ」

「嫌よ。あんな家帰りたくない。私はここで暮らすの」

「何を言っているの。葛城さんに迷惑よ。さっ、帰ります」

「ヤダって言っているでしょう。娘を売る家なんかに帰りたくない」

「美琴!」


「美琴ちゃん、家に来るのは構わないわ。でももう一度ご両親と話し合ってみて」

「…。分かりました。でも両親といくら話しても平行線だと思います。そしたら来させて下さいね」

「美琴、馬鹿な事言ってないで帰るわよ。葛城さん、娘が迷惑掛けてすみませんでした」

「いえ」



 美琴がお母さん連れられて帰って行った。俺は駅に向かう二人を見送ってから


「お母さん、どういう事?」

「一時間前に美琴ちゃんのお母さんから私に連絡が有って。仕事中だったけど、事情が事情なので早退させて貰ったの。

 美琴は祐也と一緒にうちに来るはずだから待たせてくれないかって言われて。断れないでしょ。今の状況だと」

「分かるけど。美琴大丈夫かな」

「こればかりは、私達がどうする事も出来ないわ」



 お母さんと一緒に家に帰った美琴は両親とリビングで向かい合っていた。


「美琴、頼むから言う事を聞いてくれ。真司君と付き合えば、お前だって悪い事ばかりじゃないだろう」

「何がよ?」

「真司君と上手く行けば、将来だって安心だし」


「馬鹿なんじゃ無いのお父さん。金しか見えていない人には何も見えないのね。人の幸せが金で買えるとでも思っているの」

「そんな事言っていない」

「じゃあ、何よ。この家の為に娘を売った人の事なんか聞く耳持たないわ」


「待って。二人共。あなた、私もお金でこの家に嫁いで来た訳じゃないわ。あなたを愛していたからよ。

 それはあなただって知っているでしょう。うちの両親が私達の結婚に反対していたの覚えているでしょう」

「そんな昔の事…」

「あなた、何てこと言うの。呆れた人ね。美琴、お母さんは、お父さんの考えとは違う。お母さんは祐也君と美琴が別れて欲しいなんて思わない」


「嘘よ。彼が来た時、言っていたじゃない。もう私と会わない様にって」

「あれは…。あの時はそうだったけど、あれからお母さん考えたの。祐也君と付き合っていてもいいんじゃないかって。その上で真司君と付き合えばいいって」

「お母さん、自分が言っている事分かっているの。私に二股しろって言っているのよ。呆れてもの言えないわ」


「違うの。真司君とは上面だけで会えばいい。あの人は、美琴を外見だけで判断している。だからある程度会えば、こんな言い方悪いけど飽きてくると思うの。だからそれまで我慢すればいい」


「お母さん、何言っているんだ。そんな事して融資の話が消えたらどうするんだ?」

「そう。そうね。そうしたら、あなた破産宣告しなさいよ。その前に私と別れて。私は美琴と一緒に生きて行くわ」


「そんな馬鹿な事あるか。俺だけに責任負わせるのかよ」

「あなたは私達を大切に思っていないのね。さっきの事もそうだけどもう愛情なんて消えたんだ。じゃあ離婚しましょ。

 私は直ぐに仕事を見つけるわ。これでも大学を卒業した後に会計士の資格を取っているからここで経理出来ているんじゃない。

 仕事探せば見つかるわよ。美琴の親権は私が貰うわ」

「な、なんだと」


「呆れた。夫婦でこれじゃあ、融資受けても事業の先行きなんて見えているわね。私家を出るわ。祐也の家で暮らす。お金なんかいらない。バイトして学費や生活費稼ぐわ」

「「美琴…」」


 その時だった。もっとも話したくない男からスマホに掛かって来た。

「誰だ。美琴でなくていいのか?」

「知らないわよ。こんな男」


 そのまま無視すると、また掛かって来た。

「美琴出なさい」

「お母さん、でも」

「三回も四回も掛け直してくるわよ」

「分かった」



 話の内容は会う日を決めたかったようだ。今週は文化祭がある。当然そんな事は言わずにどうしても用事が有ると断ったら、来週の日曜日でいいから会いたいと言って来た。


 その日も忙しいと言ったら、怒ったらしく切られた。そしてお父さんのスマホに掛かって来た。

 仕方なく、再来週の土曜日祝日に会う事になった。


―――――

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