第3話 どうしていいか分からない


 俺はいつもの様に学校の最寄り駅で美琴を待った。昨日の事を聞く為だ。絶対に何か事情が有るはずだ。


 駅で待っていると美琴が改札から出て来た。彼女は一瞬顔をパッと明るくしたが、直ぐにその後、悲しそうな顔になった。


「祐也」

「美琴、おはよ。昨日の事だけど」

「その話は、お昼休みできないかな。いつもの様に教室で一緒にお昼食べた後」

「分かった」


 美琴が辛そうな顔をしている。でもいつもの様に直ぐに手を繋いで来た。やはり何か有ったんだ。とにかく昼休みまで待つしかない。


 祐也と手を繋ぎたかった。あの男と手を繋いだ後、何度も何度も手を一生懸命指の隅々まで洗った。でも気持ち悪さは消えない。だからこうして祐也と手を繋ぐ事で忘れようとしている。


「えっ?!」

 美琴が強く握って来た。彼女を見ると下を向いて今度は悔しそうな顔をしている。余程何か有ったんだろう。


 昇降口で一緒に履き替えて教室に入った。中学からの友人、上野と小山内は別のクラスだ。

 美琴が俺の手を放して自分の席に着くと直ぐに隣の子が話しかけている。あんな顔していたら気にするよな。



 午前中の授業が終わり、昼休みになると、俺達は直ぐに一緒にお弁当を食べた。学食は勿体ないから、お弁当は美琴は自分で、俺はお母さんが作ってくれている。


 食べている間はいつもの様な会話は無かった。偶に、これ食べてと言って自分が作って来たお弁当のおかずを俺に分けてくれる。


 食べ終わると、二人で急いで校舎裏のベンチに行った。幸い誰も居なかった。


「祐也」

「うん?」

「今から話す事は祐也と私にとって、とても大切な事。だから落着いて聞いてね」

「うん」


「祐也は、私の家が事業をしているの知っているよね。事業と言っても零細企業だけど、それが今時の不景気で上手く行っていないの」

「うん」

 俺も薄々は感じていた。美琴の両親が偶に俺が行く時、作り笑いしてくれている事を。


「それでね、事業に融資をしてくれる人がいるの。難しい事は良く分からないけど、危ない街金融とかじゃなくて、きちんと不動産を営んでいて、金利も銀行と同じ。家の事業に将来性があるからそれでいいと言ってくれたらしいの」

「うん」


「だけど、…」

 美琴が黙ってしまった。まさかあの事と関係あるのか?


「俺、昨日美琴が待合せ場所に来なかったんで、美琴んちに行ったんだ。そしたら美琴と俺の知らない男が手を繋いで笑顔で美琴の家に入って行った。

 その後も、俺、美琴が出てくるかと思って一時間位待ったけど出て来なくて…帰った」


「やっぱり見られたんだ。何となくそう思った。あれは無理矢理そうさせられた」

「無理矢理?」


「祐也、私ね。その男と付き合わないと行けなくなった」

「えーっ?!嘘だろう。嘘だよな。嘘だよな」

「ほんと、私とその男が付き合う事が融資の条件」

「そんな馬鹿な。自分の娘を融資の条件にするなんて。売春と同じじゃないか」

「でも、それを断ったら、家は消えてなくなる。住む所も無くなる」

「そんなぁ」


「祐也、私はどうすればいいの。私はあんな男と付き合いたくなんかない。手も握りたくもない。一緒に歩くのも嫌だ。祐也がいい。祐也と一緒がいい」

 美琴が俺に抱きついて泣いている。お金の事はどうしようもない。うちのお母さんも仕事に出て何とか俺を養ってくれている。とても余裕がない。


 予鈴が鳴ってしまった。ゆっくりと美琴を俺の体から離すと、彼女の顔はぐちゃぐちゃだ。俺のシャツも濡れている。


 他の生徒に見つからない様に授業が始まって少しした後に

「美琴、保健室に行こう。このままじゃ、二人とも教室に戻れないよ」

「うん」


 俺達は、保健室のドアをノックしてからドアを開けた。中には保健の先生が一人で丸椅子に座っていた。俺達の顔を見ると


「1Aの葛城君と友坂さんね。その様子だと午後の授業は難しいわね。どうする?」

「ここで休ませてもらったら、家に帰ります」

「そう、私は少し出てくるから。担任には、二人とも体調が悪いから保健室で休んでいると言っておいてあげる」

「「すみません」」


 私達はベッドの前のカーテンを開けて二人でベッドに座った。


「家に帰りたくない。私を売った親なんて見たくもない」

「美琴…」


「ねえ、祐也、今日から祐也の家に泊めて。お願い」

「……………」

 俺もそうしたいよ。でも、そんな事出来るのか?うちが良くても美琴の両親は反対するだろう。それに美琴と無理矢理付き合えって言って来た男の家の方の事も有る。


 とにかく、一度俺の家に帰ってお母さんに相談してみるか。解決策は無くても何か糸口が見つかるかもしれない。


―――――

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