第2話 家の事情だからって酷いよ


 私は、祐也との待合せ時間が過ぎている事がとても気になっていた。でも連絡は出来ない。

 お父さんは私に祐也という恋人がいる事を金丸という人に伏せて起きたかったんだろう。だから私のスマホを取ったんだ。


 いま、私の隣、勝手に話している金丸真司という男。自分は日本でも優秀な進学校に入れている。将来は帝都大法学部を出て官僚になり、いずれは国会議員を目指すんだと、私には全く興味無い事を一人でペラペラ話している。


 でもそんな事は如何でも良い。早く帰って祐也の所に行きたい。



「それでね美琴さん。今度ドズニーランドに行きませんか。全部優先パスで乗れるようにしてあるんです」

「そうなんですか。でも私はそういう所に興味は無いので」

「えっ、ドズニーランドの優先パスですよ。勿体ないじゃないですか」

「そういう所は興味無いと言いましたよね。誰か他の人と行って下さい」

「……………」

 この子は、金では釣れないのかな。俺の母親は簡単だったのに。



 俺、金丸真司。父親は親から継いだ不動産業を営んでいる。結構金回りがいい。そんな父親に嫁いできたのが、元モデルの母親。


 そして直ぐに俺が生まれた。幸い俺は母親似でイケメンで背が高い。そして頭は父親譲りだ。


 今回の事は父親が同業の人から融資をして欲しい人間がいるという事を聞いて話に乗った事が始まりだ。


 ご時世、コロナの猛威で中小零細企業は、息切れ寸前だ。でも公共の融資機関はそれなりの担保を持っていない所には、融資なんかしない。


 まして友坂の家業みたいな零細企業は、地元の金融機関だって追加融資は二の足を踏む。

 だから融資先はいくらでも有った。


 少し位金利が高くたって、首吊るよりましだ。でも俺の父親は、こんな仕事の割には変に優しい所が有って、結構低金利で融資している。


 本人曰く、困っている人を助ければ必ず自分自身も報われると言っている。


 だけど、俺の母親はそれに不満らしいが、所詮、金目当てで結婚した様な女。父親には逆らえない。金は親父が全部握っているからだ。


 融資と言っても話が有って直ぐに貸す訳じゃない。将来性とか、仕事に対する思いとか、融資先の現在の負債、返済状況とか色々聞いたり調べたりする。


 その途中で父親が将来の勉強の為だと言って、偶に俺を付き合わせる。その時、今俺の横を歩いている友坂美琴を見た。


 俺の好みにドストレートだった。だから父親に頼み込んでこの子と付き合う事を条件にいれた。勿論書面ではそんな事は書いていないけど、契約時に匂わせればいいだけだ。


 高校時代の遊び相手位の気持ちで付き合えればいいなと思っている。この子だって俺と付き合って良い思いするんだから文句ないだろう。


 さっきのドズニーランドを断った件だって、自分を安く見られない為の方便に決まっている。まあ、時間はある。


「美琴さん、そろそろ家に戻りますか。君のお父さんも少しならと言っていたし、あまり長いと心配するでしょう」

「そうですね」

「あの、頼みがあるんですけど」

「何ですか?」

「家の近くになったら手を繋いで笑顔で帰ってくれませんか」

「えっ?!」

「まあ、君のお父さんと俺の父親への礼儀みたいなものです」


 はっきり言って繋ぎたくなんかない。気持ち悪い。でもこの男の言っている事も分かる。

 私が不機嫌な顔して、家に帰って直ぐに祐也に連絡して出て行ったら、融資の話が無くなってしまうかもしれない。


「わかりました」

「ありがとうございます。では早速」


 男が私の手を握って来た。気持ち悪くてしょうがない。

「笑顔で家に入りましょう」


 仕方ない。

「はい」



 私達は、玄関に入って家に上がるまで手を繋いでいた。


「おお、もう手を繋ぐほどの仲になったのか。良かった。真司良かったじゃないか」

「はい、お父さん、俺も嬉しいです。美琴さんはとても心の優しい方です。これからもお付き合い出来れば思っています」

 この位良い子ぶらないと。


「そうか、美琴。真司君を気に入ってくれたか。では、金丸さん、先程の件、期日中にお願いします」

「分かりました。長いお付き合いになりそうですな」

「はい」


「お父さん、美琴さんとスマホの連絡先を交換したいのですが」

「おお、大切な事を忘れていた」

「美琴、直ぐに真司君と連絡先を交換しなさい」


 一瞬躊躇する私に三人の目が集中する。

「あっ、ちょっと待って下さい。緊張しちゃって」

「美琴さん、ゆっくりでいいですよ」

「真司君は優しいな」

「ありがとうございます」


 私は仕方なく、金丸真司と連絡先を交換した。そして少しして二人は帰って行った。お父さんが二人を見送って家に入ってきた後


「お父さん、どういうつもり。娘を融資の条件に居れるなんて!見損なったわ」

「何言っているだ。お前だって真司君の事、気にいったから手を繋いでいたんだろう」


「何言っているの。あんなのやらせに決まっているでしょう。あんな男大っ嫌いよ。

それに今日、祐也とデートする事知っていて、こんな事したの。お父さん最低。私、祐也と会って来る。

 言っときますけど、私あんな男と付き合う気なんてこれっぽちも無いですから」


「待ちなさい。お前が真司君と付き合わないとこの家がつぶれるんだ」

「えっ?!」

「今回の事は母さんも納得している。美琴には言っていなかったが、事業も限界に来て居る。

 今、金丸さんから融資して貰えなかったら、一家で首吊りでもしないといけない状況なんだよ」

「そんなのお父さんと、お母さんの責任でしょ」


「美琴、お前は負の遺産を背負う事になる。遺産放棄なんてしたって、世の中はそんなに簡単に許してくれない。この家だって無くなるんだ。住む所も無くなる。頼むから真司君と付き合ってくれ」


「なんて事なの…」

 両親の親戚筋は皆、厳しい。とても頼れないことぐらい知っている。


 お父さんが、私の足元で泣きながらお願いしている。どうすればいいの祐也。


―――――

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