第10話 ロウの心中


 ロウにやられて帰った次の日もトワたちはクリプン町のギルドに顔を出して依頼を探していた。ベルの音とともにギルドに入ると振り向いたハンターの内に昨日痛い目にあわされたロウがいた。 

 ロウもトワに気づき顔をムスッとしてすぐに顔を背けてしまった。さすがに昨日の今日では居心地が悪いのかもしれない。


 ―――普通、ボコボコにされた次の日にその場所に帰ってくるか?頭おかしいんじゃないか?ホラ、顔のところに傷が残ってるし―――


 「よし、それじゃあ今日も何かクエストを受けようか」


 ―――リーティア!ってまたアイツと一緒にいるのかよ。ふざけんな。俺の方がずっとリーティアと一緒にいたって言うのに。今日はあいつは何の依頼を受けるんだろ―――


 「今日は何かこれまでとは別のタイプのやつをやりたいよね~。………あっ、これなんてどう?共同依頼なんだけどオークの群れの討伐!」

 

 ―――!今、共同依頼って言ったか?―――


 「僕はオークがトラウマなんだが。それに群れってまたオークロードがいるんじゃないか?」

 「大丈夫だって。また現れるようなことは展開的にあり得ないって」


 ―――意味の分からない彼女の言葉に顔を傾けるムカつく男。お前は黙ってリーティアに従ってればいいんだよ。ホラ、早く受付にその紙を持って行ってくれ―――

 ―――よし、いいぞ。紙をもって受付に行ったぞ。アイツは不服そうな感じだが知ったことか―――


 「お姉さん、これ受けるわ」

 「はい、受理しました。そちらの方も受けるということでよろしいですね」

 「そちらの方?」

 

 リーティアが振り向くと、そこにはロウが得意げな表情で彼女の後ろに立っていた。


 「ああ、俺も一緒に受ける」

 

 ふふ、驚いてる驚いてる。

 共同依頼ってやつは1パーティだけじゃ人手が足りないような依頼や力不足を感じられる依頼の時に出る特殊なクエストだ。

 今回は後者だな。

 

 「別にいいだろ?」

 「う、うん。私はいいけど………」

 「僕も構わない。人では多い方がいいからな」


 よしっ。これでコイツよりも俺の方が強くて頼りになるってことを見せてやるぜ。



 

 「いきなりどうしたんだろうね、ロウ。後ろにピッタリくっついててびっくりしちゃった」

 「さぁな。何か対抗心でも燃やしてるんじゃないか?」


 共同依頼はさすがに2チームでは成立しない。少なくともあともう1人か2人いなければ依頼の遂行は保証できないと思われ、あと1人が来るのを待っている現状であった。

 しかし、共同依頼は難易度が高い割に、参加したハンターで報酬を山分けするわけだから収入が悪い。それに即席のパーティで戦わなくてはいけなく、連携が難しいためあまり好かれていない依頼のジャンルであった。


 「もう1人が集まるのはいつになるかな~」


 とリーティアが言うぐらいであった。

 せっかく共同依頼を受けるのならば早めにやりたいと思うトワだったが、そういうことなら仕方ないと、他の人の邪魔にならないように少しでも動けるようになろうと思い、他の依頼はないかとクエストボードと見ていた。


 昨日のようにライガーファングを狩ろうか、と常時依頼の紙を見ていると、受付の方から会話が聞こえてきた。


 「なあ、俺もこれ受けていいか?」

 「え!?あなたがですか?……もちろんかまいませんが、あなたは役不足だと思いますよ」

 「いいんだよ。じゃ、登録しといてくれよ」


 受付の方では体の大きな男が机の上で書面を書いていた。その男の巨躯の前では大きな机も小さく感じてしまうほどだ。

 男は一通り書き終わると振り返りドアへ向かおうとすると、その途中で男と目が合った。


 「わぁ、ジギラスじゃん。やっほー」

 「おお、俺も共同依頼ってのをやってみようと思ってな。これで明日にでもクエストが始まるんじゃねえか?」


 共同依頼を請け負う最後のメンバーはAランクハンターのジギラスであった。トワが知る唯一のAランクハンターであり、いつも飲んだくれているイメージがある男だ。その男が共同依頼に参加するのであれば、失敗はもちろん死者が出るようなこともないだろう。


 「どうしてジギラスがやるの?この依頼の推奨レベルCだよ?」

 「いやー、共同依頼ってやつをやったことなくてな、気になったんだよ。よろしくな」


 ひょうひょうとした様子でトワの肩を叩いてくるジギラスは、それが本当なのか、はたまた嘘をついているのかは定かではないが、これで慣れていないトワも依頼に対する緊張感が薄れただろう。 

 笑みを絶やさずに去っていくジギラスを、トワたちは黙って見ていることしかできなかった。

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