第7話 図書館


 オークロードとの激戦のその翌日、トワたちは町の図書館に来ていた。

 なんでも、この世界のことをあまりにも知らないトワに、色々なことを教えたいということで休暇のついでで訪れていた。


 「ここがクリプン町で一番大きな図書館よ!なんと読むのが無料というなかなかないいい図書館なのよ」


 ディポニーでの図書館では本を読むのにもお金がかかるところがほとんどであり、ここの図書館はかなり珍しい。

 僕たちがなぜ図書館に来ているかと言えば━━━

 

 『えっと、言葉の本は・・・っと、これね。あとは魔法の本も必要よね』


 そういってリーティアが取り出したのは分厚い年季の入った本だった。

 軽く開いてみると意味の分からない蛇のような模様がびっしりと記入されていた。


 「確認だけど文字は読めないのよね?」

 「ああ、何が書いているのかさっぱりだ」

 「そ、じゃあまずは文字の読み方からね」


 リーティアがそう言って、トワに読み方や書き方を教えていく。

 

 「じゃあ、時間が空いたらここにきて一緒に勉強をしていくって感じでお願いね。基本は毎日仕事についてきてもらうけど、10日に2,3回は来れると思うから。」

 「ああ、分かった。苦労をかけてごめんな」

 「気にしないでいいよ。この前は私を助けてくれたわけだしね」


 リーティアとしては本心で言ったこの言葉は、しかしトワにはクリティカルだったようで、トワは自分がリーティアに助けてもらったことの数々を思い出して、それに何の報いをしていないことを恥じて苦い顔をしていた


 また、彼らが捜している本は言語に関する本だけではない。


 「あ、あったよトワ君。『魔法大全』」

 「こっちにもそれっぽいものがあった。『魔法入門書』っていうらしいな」


 そう、彼らが捜していたのは魔法に関して書かれた本である。

 トワが魔法を使えたため、そのやり方をマスターしようという魂胆だ。

 トワは2つの本を開き目を通す。

 いくらか時間が経ちそれぞれの本を読み終えて分かったことが、いくつかあった。


 1つ、魔法陣は定型的であるが、一流の魔法使いは自分で魔法陣を作ることができる

 2つ、魔法を使うための魔素は空気中の魔素でも代用可能

 3つ、魔法を使いすぎると魔力欠乏が起きる


 この3つは『魔法入門書』に記されており、これらは普通に魔素を持つ者のための事項であった。

 しかし『魔法大全』に、トワたちの知りたい内容があった。


 『魔法を使うには体内の魔素を使うことが必要不可欠だが、たとえ魔素量が少なくとも魔法を十全に使うことは可能である。その方法とはただ一つ、体内にある魔素を体外に放出し、その魔素で空気中の魔素で魔法陣を書く、という方法だ。しかし、このやり方を習得するのは並大抵の努力では不可能である。自身の魔素よりも体外の魔素は動かしづらく、また魔素で魔素を動かすのも容易ではないからである。正直に言えば、この方法をやるのだったら魔素量を増やす努力をしたほうが効率的である』


 この本では、空気中の魔素を動かすのは体内の魔素を使う必要があると書いてある所が、トワのケースと違うところであろう。

 しかしそれ以外のところはトワでも参考に出来るだろう。


 「なになに、『コツはイメージすること。魔素をイメージして動かそうとすればやりやすい』って書いてあるわね。後で練習してみよっか」


 そのほかにも『魔法大全』には多くの技術が書いてあり、トワにとどまらずリーティアまでも読むのに夢中になっていた。

 そして読むこと30分、リーティアにもトワにも収穫のある時間となった。

 2人は定期的にこの本を読んでいくということになった。

 言語の学習に使った本と魔法の本2つをトワが片付けていると、リーティアが本を持っていることに気づいた。


 「・・・ん?リーティア、その手に持っている本は何だ?それも言語の本なのか?」


 リーティアの持っていた重そうな本に興味を惹かれたトワは身を乗り出して問う


 「これ?これはね~地球で言うところの聖書って感じかな?この世界の成り立ちとかをこの世界で一番流行ってる宗教観で書いたやつだよ。ちょっと気になったから手に取ってみたんだけど・・・トワ君も読む?」

 「まあ、異世界の宗教も気になるし読んでみようかな。リーティアは読んだことないのか?」

 「そうなのよね。今まであんまり興味わかなかったし、図書館に来ることも少なかったから読む機会がなかったのよね」


 そもそも、リーティアがこの世界に来てからはその日生きることに必死であったため、本を読んでいる時間もなく、そんなリーティアがこの世界の宗教をよく分からないのも、勉強不足と責められることではなかった。


 「じゃあ、一緒に読んでいこっか。」


 そうして彼女ら二人は隣り合わせに座り、ゆっくりとページをめくり始めた。

 最初のページには、この世界が始まる原因となったことが記されていた。

 「何もなかったこの世界に、救済のためにやってきた『始まりの人』が世界に降臨した」と記されている。

 

 「この『始まりの人』っていうのがこの宗派の人たちが信仰している対象らしいわね。人が信仰対象ってのも珍しいわね」

 「たしかに、あまり聞かないよな。普通はこういうのって神とかが対象になってるイメージがあるからな。ちなみにこの宗教って名前はあるのか?」

 「え?あ~ちょっと待ってね。うん、シュルフ教っていうみたいよ」


 トワの問いに表紙に戻って宗教の名前を確認したリーティアは、ページをまた一つめくり読み上げていく。

 次のページに書かれていたのは『始まりの人』をほめたたえる内容であった。

 その『始まりの人』はこの本曰く「人類、魔物を作り出した創造主であり、作り出された存在は彼の思うがままに制御される」という荒唐無稽な内容だった。

 他にも、「彼が魔を生み出し、世界をそれで支配した」などとも書いてあり、それには2人も苦笑いをするしかなかった。


 「さすがにこれはないよね。1人で子供を作ることは出来ないし、ましてや魔物なんて今でも使役できる人はいないんだよ」

 「馬鹿げた内容なのは確かだな。これが本当だったらいったい何のためにそんなことをやったのかも分からないしな」


 いまだに、魔物を有効に使えたためしはなく、むしろ害しか及ぼさない存在なのだ。

 それをわざわざ作ることの意味が分からないという感想しかトワたちは持てなかった。


 「まあ、本当に作ったとしても偶然できちゃったって感じなのかもね。そんでその作っちゃった魔物に本人が殺されちゃったりして」

 「周りにその宗教を信仰している人がいるかもしれないだろ。あまりそういうことは言わない方がいいぞ」

 

 怖くなって周囲を見渡すも幸運にも誰もいない。

 宗教は人の考え方や行動力を歪める危険性があるので、リーティアのこのような行動は控えてほしい。


 そうして読み進めること1時間が経過したころには、トワもリーティアも読みつかれていた。

 それもそのはずであり、すべての章で『始まりの人』が出てきており、それがどれだけすごいことなのか、どれだけ感謝するべきなのかを長々と、冗長的に書かれていてストレスが溜まっていたのだ。


 「それじゃあ今日の勉強はこれくらいにしておきましょう」


 時刻はまだ午前10時ほどで、一日の活動を終了させるにはあまりにも早く、何よりまだ何も覚えられていないのだ。到底帰るわけにはいかないのだが。


 「さすがに終わるのは早くないか?僕に気を使ってくれてるのなら大丈夫だぞ。昨日の疲れが完全に取れたわけではないが、言葉の習得は出来るだけ早い方がいいからな。」

 「別に気を使っているわけじゃないよ。調子に乗るなよ」

 「いきなり語気が強いんだけど。どうした?なんかに憑かれた?この一瞬で」

 「ハハハ。まあ冗談はさておいて、今日はトワ君に町の紹介をしたくてね。昨日の戦利品でかなりの額が手に入ったし、今日はパーッと無駄遣いをしたいんだよ。付き合ってくれるよね」


 どうやらオークロードを討伐したことは、ギルドにとって大きなことだったらしく報奨金をかなりもらえたらしい。帝王種ともなると、ギルドでは常に報奨金を出しておいているほどで、発見しただけでもそれなりの額がもらえるとリーティアも言っていた。


 「そういうことなら付き合うよ。どこに行くか決まってるのか?」

 「初デートは遊園地・・・って都合良いのはないからそこら辺をぶらぶらするだけだよ。そんでなんか気になったら買っちゃう・・・って感じなんだけど、どう?」

 「いいんじゃないか?僕は何も知らないわけだから解説を頼むぞ」

 「お姉さんにまかせなさい」


 この後の予定を決めたトワたちは一度宿に戻り、荷物を整理してから町に繰り出した。

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