第3話 浮世はクソゲー
『
『グアアアアアア!!』
その声が聞こえたとたんに僕に飛び掛かってきていたオオカミが炎上し、その衝撃で2メートル程先まで転げまわる。
『あちゃ~、毛皮がもったいない!まぁしょうがないか、人命優先!大丈夫?』
その問いかけが僕に向いているのは分かるのに時間がかかり、驚きで声が出せない。
声の主の女は心配そうに僕を見ている。声の聞こえる方を見てみるとそこには、赤い瞳に目を奪われてしまいそうな銀の髪を短く纏めた少女が立っていた。
何が起きた??
この女は何をしたんだ?パイロキネシスか?僕と同じ超能力者なのか?なぜ使えるんだ?この女が僕をここに連れてきたのか?
疑問が次々に湧き出てくる。
『あれ?聞こえてる?』
女は心配そうに声をかけてくる。というか黙っている間に『うおっ、めっちゃイケメンなんだけど。日本人顔しててめっちゃタイプ』など聞こえてくる。
コイツ、あんまり僕のこと心配してないだろ。
「ああ、すまん。助かった。ありがとう」
とりあえず適当に返事をし、相手の反応を伺う。
この女が何者なのか分からない。
「名前を伺っても?」
敵では無さそうだが何故先ほどのようなことができる?
今の僕は力が使えないんだ。正体を探る必要がある。
場合によっては先ほど以上のピンチだ。
『………』
どうした?なぜ何も言わない?言えない名前なのか?
『………』
女は驚きの表情を浮かべ口元が動きだす。
さあ、吐け!お前は一体何者だ!
「日本語!?」
「は?」
……………………
……………
……
「つまりあんたは気づいたらあの場所にいて何もできないまま
僕はうなずき、注いでくれた水に口をつける。
他人には言えない話をするから、と言われて連れてこられて話をしているのは、彼女がとっている宿の一室だ。
にわかには信じがたいが、なんでも彼女も地球で一度死に、生まれ変わってこちらの世界で転生したそうだ。
「じゃあ改めて自己紹介ね。私はリーティア。リーティア・ファグナンよ」
そう言って彼女、リーティアは右手を出して握手を求めてくる。
「僕の名前はホシミ・トワだ。さっきは助けてくれてありがとう」
僕も自分の名前を名乗りながら握手を返す。
このままでは行く当てがないのだから良く接していく必要があるだろう。
そういう打算抜きでも助けてくれてるのだから感謝しかないのだがな。
「それにしても本当に異世界転移なんてあるのね。まぁ私が言えたことじゃないんだけど。あっ、ちなみにここはマジの異世界よ。名前はディポニーね」
「変わった名前だな。誰が考えたんだ?」
「知らないわよ。トワ君は誰がearthって名前を付けたか知ってるの?」
なるほど、たしかにそうだな。
地球は何となく意味が分かるがearthってのは英語が高校レベルの僕じゃよく分からない。
「まあとりあえず、助けてくれてありがとう。僕の超能力は調子が悪くてな、なぜだか使えないんだ。良ければここでの力を使うコツなんかを教えてくれると助かるのだが、何かあるのか?」
リーティアがどれほどの超能力を使えるのかは知らないが依然僕は何も超能力が使えないからな。
身体全体に鉛が寄りかかっているような違和感を感じているが、これが原因なのだろうか。
この問題を解決しないとこの世界では生きていけないだろうな。
「へ?超能力?私が使ってるのは魔法だよ?この世界の一部の住民が使えるやつ。キミだって聞いたことぐらいあるでしょ?ドラ〇エとかで。ていうか超能力って何?トワくん使えるの?すごくね?」
リーティアは興味津々といったように身を乗り出し僕に近づく。
なるほど、魔法か。ここが異世界だってことを失念していた。確かに異世界だったら魔法があっても何も違和感はない。むしろ納得するってもんだ。
「ねぇねぇ、早く教えて!トワくんって超能力使えるの?見せて見せて!」
「ちょっと待ってくれ。こっちは魔法があると聞いて興奮してるんだ。そんなすぐに落ち着けると思うなよ。まあ、地球にいたときは確かに使えたんだけど、こっちに来てからどうも使えないんだ。だからすまない、見せることはできないんだ」
「なんだ~つまんないの」
そう言うとリーティアは興味をなくしたのか全身から力が抜ける。
つまらなそうに座りなおすリーティアを片目にこの世界の魔法について考え直す。
魔法があるとすれば、この世界の僕の力も知れるのがイヤになる。地球にいたころの僕は一般人が100人束になっても傷一つつかない自信があったが、ここではその一般人にも勝てるかどうか分からないな。力の点でもただの高校1年生よりもないだろうし。
いつ力が使えるようになるか分からないし、僕も魔法の習得を急ぐとしよう。
「なぁリーティア、僕にも魔法が扱えるように師事してくれないか?さっきのオオカミとのことを見てもわかるように、僕は自分自身のことを守り切れる自信がないんだ」
「あっ、魔法使いたいんだ。ではここで、お知らせがあります!!」
リーティアはもったいぶるかのように時間を置き、僕は思わず息を止める
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「トワくんは魔法がつかうことが、できません!!」
は?
「いやー、残念だったねー。まあでも、魔法使えない人なんてざらにいるから落ち込まないでよ。ドンマイ!」
なにこのクソゲー
異世界に来たんだから、チートをくれとは言わないがせめて普通ではいさせてくれよ
むしろ超能力が使えない分地球にいたときより弱体化してるんだけど。
「おい、なんで言い切れるんだよ。なんで僕は使えないんだ?証拠はあるのか?」
「お、異議あり!って感じだね。証拠はないけど私にははっきり分かっちゃうんだよね。じゃあ魔法のことを何も知らないトワくんにお姉さんがいろいろ教えてあげよう」
そうしてリーティアが言ったのはまとめると3つだ。
1つ、この世界には魔素というものが大気中を満たしているということ
2つ、この世界の生き物はみんな魔素を持っている
3つ、魔法を使うには、自身が持つ魔素を用いて魔法陣を描く必要がある
「そんでもって、トワ君は魔力を少しも持っていません!私にはわかる。ていうか少し腕が立つ人なら分かる。つまり!魔法を使うのに不可欠な魔素をトワくんはまったく持っていなくて、魔法もまったく使えないということです!!」
・・・・・・詰んだ・・・・・・・
「まあまあ、気を落としなさんなって。確かに異世界に来て魔法が使えないってのがショックなのは分かるけどホラ、いいことあるって」
リーティアが励ましてくれるが返事ができない。
この危険極まる異世界で自衛できない事実を突き付けられて、言葉がでない。
こんな状態じゃ地球に帰るのだってできないかもしれない。
「と、ところでさ、なんでトワくんってガルド語分かるの?履修済みなのは何でなの?」
僕の気分を察してか少し戸惑いながら質問してくる。
気を使わせてしまったか。
しかし、このことについては僕も少し気になっていた。
あのときはオオカミで気が動転していたが、あの後この世界の言語を聞いてみたら何を言っているかは分かるが、ところどころ聞きとりずらい箇所があることが分かった。
「そのことについては僕も不思議なんだ。少なくとも僕はこちらの言語を習ったり聞いたことはない。僕の超能力も言語を聞き取る能力はなかった筈だからな。あったらリスニングテストももっといい点がとれただろうさ」
「そうなの?じゃあ余計に不思議ね。それに少し聞き取りずらいけど、ガルド語って言われたら聞き取れるのよね~。方言って感じ?まあ、私も使ってるうちに出来るようになったしそっちの方面も面倒を見てあげるわ」
「いいのか?」
「しょうがないでしょ、魔法も使えないのに会話もおぼつかないやつを一人にできないよ」
「まあ、私もあんまり魔法は上手じゃないんだけどね」と付け足しているがの僕は現状を再確認して、割とへこんでいた
それにしてもリーティアは思ったよりも面倒見がいいみたいだな。
こんなよくわからない死にかけの男の面倒を見てくれるなんてな。いくら同郷とはいえ、な。
「と言っても、私自身もこの町がホームってわけじゃないからなあ」
そういってリーティアは顎に手を添えて少し考え込むような姿勢になる
なんでも、リーティアの職業はハンターと呼ばれるものであり、東に西に拠点を移して活動する放浪の職業だそうだ。基本的な仕事は魔物の討伐、商人の護衛、腕が立つようになると町や国の危機にそれらを守るようなこともあるそうだ。
異世界行ったらなりたい職業第一位に選ばれそうな職業だけど、僕はイヤだな。もっと安全に稼げるやつがいい。こう、薬草集めるだけで生きていけるとかの。
「とりあえず、トワ君は私と一緒に行動してもらうってかんじで大丈夫?」
「いや、何が大丈夫なんだよ!お前ん中で何があったの?!」
文脈も何もなく発せられた言葉に驚きをもって反射的に言い返した。
しかし少しばかり落ち着いた今もどうしてリーティアがそのような結論に落ち着いたのかが分からない。
リーティアの仕事についていくということは、先ほどのような魔物を相手に仕事をするというだ。
とんでもない。
リーティアがいなければ、先ほどのライガーファング相手でも僕は死にかけたのだ。リーティアの腕がどの程度立つのかは知らないが、奇襲をかけられたら僕まで守れるのだろうか。仕事先で奇襲を仕掛けられないとどうして言えるだろうか。
「リーティア、悪いが先ほどの僕を見てくれれば分かると思うが、僕は完全に足手まといだ。連れてくのはお互いのためにならないと思うのだが」
「私だって自分の行動を制限するような人は連れて行きたくないけどさー、宿に置いておいてもトワ君死んじゃうかもしれないじゃん?」
は?
どうして宿でじっとしているだけで死ぬようなことになるんだ?もしかしてこの世界の宿って『宿』って名前のダンジョンだったりするのかな?
「『宿』には行くなよ。あそこは魔境だぜ」みたいなところだったりしないだろうな。絶賛その『宿』の中にいるんだけど大丈夫?
「知らないと思うから教えてあげるけど、この世界ってかなーり治安が悪くてね、宿に力のない奴が籠ってるって知ったら襲ってくる頭沸いてるやつが割といるわけよ。まあ、それだけ生きるのに必死ってことなんだけどね。そういうわけだから下手に一人でいるより私と一緒にいた方が君のためにもなると思うんだよね。私も目の保養になっていいし。」
「へへへ」と不気味に笑いながら、仕事への同行を進めてくる。
しかし、さすがに異世界とはいえ治安悪すぎるだろう。
まあ、そうなると一人でいるより、リーティアの仕事についていった方がよさそうだな。いや、めっちゃイヤだけど!ほんとーーに、勘弁したいけど!まだ魔物は恐ろしく、超能力も地球にいたころよりも使えないから不安がぬぐえないが、そこはリーティアを信じるとしよう。
「最初の内は私も余裕をもって狩れるお仕事をやるつもりだから安心してよ!それに時間のある時はトワ君に戦い方とかこっちの言語の書き方とか教えるつもりだから」
リーティアが言うにはこの世界で生きていくには、少なからず戦う力が必要だという。そこら辺のおばさんでも、自分の身を守るために『ライガーファング』や『ゴブリン』ぐらいだったらしばけるらしい。
………どうやら僕はそこら辺のおばさん以下になってしまったみたいだな。ついさっきまで地球最強の生物だったはずなのにな。笑えないな。
「リーティアがそう言ってくれるなら甘えさせてもらうが、本当にいいのか?今の僕は平均的な男子高校生より動けないぞ?」
「気にすることないって。同郷のよしみでしょ?それに私だってそこそこ強いんだから」
リーティアは力こぶを見せるように腕を立たせて、安心させるように言い切った。その姿に異世界に来てからずっと、ずっと立ち込めていた深い、不安という霧が晴れていくような気がした。
「―そうか。分かった。それじゃあ、これからよろしく頼む。俺にできることがあったら何でも言ってくれ」
「まかせて、トワ君のことは私が守ってあげるから」
とりあえずは生きていけるように職業の確保が最優先だな。
いつまでもリーティアにおんぶにだっこでは男として立つ瀬がないから、少しでも自分でも出来る職業を見つけないといけないだろう。
「お金を無駄にしたくないから、宿は同じ部屋で生活していくことになるけど大丈夫?ま、大丈夫だよね。こんな麗しい乙女と1つ屋根の下で生活していくなんて、一回は夢に見ることだものね」
なんかつまらないこと言ってる
『手出したらダメよ。ボ・ウ・ヤ』
「フッ……」
『その反応は違うんだよなあ?!』
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