第2話 初めての臨死体験
いや落ち着け。ここが異世界と決めつけるのは早計だ。
確かに、朝起きたら見知らぬ家の小汚いベッドの上にいたからって、ここが異世界とは決めつけられない。いきなり僕が瞬間移動に目覚めた可能性もある………。
自分で言ってて無理があるな。
ちなみに僕は瞬間移動が使えない。超能力といったら瞬間移動と言う人も多いと思うが、何度試してみてもつかえない。
超能力者も万能じゃないということかな。
まあ、どんな能力も原理が分かっていないのだから、どうしてできないかなんて議論していても仕方ないしな。
閑話休題
そんなことよりもいまの場所を確認しよう。
千里眼を使えば現在地が分かるかもしれない。
そう思い、古びたドアを開けて外に出る。
どんな作りなのかは知らないが、ドアを閉めたとたんに、先ほどまで僕がいた家が塵一つ残さず崩壊してしまった。
いったいどういう造りになっているんだよ。脆すぎんだろ。
まあいい。
現在地を確認しようと空に浮かび上がろうと思ったその時に気づいた。
「飛べない?」
いつもなら意識を向けたら簡単に飛べるはずなのに今は一向に飛べる気配がない。
というよりも、空気中の何かが邪魔をしている感じがする。
何と言うべきか、空気を構成している物体が増えたような、そんな感じだ。
しかしどうするべきだろうか。千里眼も使えないみたいだし手詰まりかもしれない。
超能力の使えない僕なんてそこら辺にいる高校生より弱いだろうし・・・
『ガサガサ』
現実逃避をしていると近くにあった茂みから音が聞こえた。
しばらくするとその茂みから犬が出てきた。
いや、オオカミか?ゴールデンレトリバーくらいのサイズはある。
しかしこのサイズのあるオオカミが日本にいるとは考えられない。少なくとも僕の家の近くではないだろう。
「ガアアアアア!!」
そんなことを考えているとそのオオカミが襲い掛かってきた。
目を血走らせ、よだれをたらし、餌である僕を食さんとばかりに襲い掛かる。
僕はとっさに左手を突き出しサイコキネシスを発動する。
これで安全とばかりに空が飛べないことに再度これからどうするかに考えをめぐらす。
しかしその直後だった。
グシャッ
は?
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
肉が引きちぎられるような音が脳髄に響くと同時に、焼けるような痛みが左手を襲う。
立っていられずしゃがみ込む。
苦しみの中、痛みを訴える左手に目を向けるとサイコキネシスで飛ばしたはずのオオカミが噛みついていた。
どうしてお前がここにいる?
なんでこのオオカミは吹き飛んでないんだ?
サイコキネシスで吹き飛ばしたはずでは?いやそうか、千里眼同様使えてないのか。
そんなことよりコイツをどうにかしたいのに・・・
「あああああああああああああああああ!!!」
経験したことのない痛みが思考を制限する。
痛みを振り払うように大声をあげ、腕をふりサイコキネシスをつかおうとするもやはり発動しない。
痛い。苦しい。辛い。燃えるような、死に近づくような、骨が軋んで、頭に稲妻が走るほどに、体が活動の停止を始めるかのような、目に血が集まるようなな、杭が打ち込まれたかのような、薬で治せる範囲を超越した、叫ぶだけでしか緩和できない極悪の痛みが全身に回っていく。
感じたことがないはずなのに、体験したことがないはずなのに、この感情をこの苦痛をこの激痛を説明する言葉が次から次へと頭の中に飛来する。
生命の根源からくる警鐘が、今僕に人生で初めての言葉を教えてくれた。
『死』
ふと心にその言葉が浮かんだ。
死ぬのか?この僕が?
一度そう考えたらもう止まらなかった。
どうして外に出てしまったのか。
どうしてオオカミをみたときにすぐに逃げなかったのか。
サイコキネシスが使えないことにどうして予測できなかったのか。
どうしようもないことに後悔し、誰にいうわけでもないのに言い訳も次々と出てくる。
頭の中にこれまでのことが高速で思い出される。
走馬灯だ。
子供の時に超能力を初めて使って両親に驚かれたこと。
その両親がすぐに交通事故で死んでしまったときにすごく悲しかったこと。
そこから世界のことを恨んで人に期待しないようになったんだっけ?
約束された成功の人生、あまりにも薄い内容の走馬灯に悲しくなると同時に憤りを覚えていく。
イヤだ 死にたくない どうして僕たちだけが死ぬんだ
死ぬ覚悟なんてものはできていなかった。
死ぬことなんて考えたこともなかった。
僕の力が抜けてきたのを感じたのかオオカミが左手を噛むのを止めて顔に向かって飛び込んでくる。ああ、脳を破壊すれば動けないってわかってるんだな。動物もよく考えているんだな。
もう逃げる気力もない。
(ああ、父さんも母さんもこんな苦しんで死んだのかな)
痛みで意識が薄れゆく中一つの声が聞こえた。
『
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