始まりを刻む
桶満修一
一章 異世界転移は唐突に
第1話 超能力者は異世界転生しません!
超能力というものをみんなは知っているだろうか。
手を触れずに自在に物を動かすサイコキネシス
火の気のないところで火を生み出すパイロキネシス
遠くのものを見通す千里眼
誰もが一度は憧れ、そして「妄想はやめよう」とあきらめた常人には使えない力である。
そう、常人なら。
おっと、自己紹介が遅れてしまったな。
僕の名前は星見永遠、高校2年生の超能力者である。
上記に挙げた力のほかにも、空を飛べる空中浮遊であったり、触れただけで相手を爆発四散させたりなど、数々の力を自由自在に使うことが出来る、生まれながらの超能力者だ。
両親の他にはこのことを知っている者もおらず、その両親も僕が子供の頃に事故でこの世を去っているので、僕が超能力者であることを知る者は僕を除いて誰1人として存在しない。
これを聞いたみんなは「羨ましい」と思うだろうか。「素敵!抱いて!」と取り入ろうとするだろうか。
しかし、こんなもの日常生活でまともに使えたためしがない。
物を動かせるサイコキネシス?そんなもの少し遠くのリモコンをとることぐらいでしか使えないじゃないか。
火を発生されるパイロキネシス?チャッカマンがあればそれで済む話なんじゃないか?
遠くを見渡す千里眼なんて………。そんなに遠くを見て何になるんだよ。近くのものすらよく見えないのに。
結局は超能力がなくても暮らしていけるし、それを隠さないといけない分むしろ生きにくいとすら言えるかもな。
それに、何をするにしてもこの超常の力があるから成功してしまって達成感すら感じたことがない。
こんな力、いらないんだけどなぁ。
ああ、だけど………。
最近は妙にその超能力を使っていたかもしれない。
これはおとといの朝のことだ。
いつも通りに登校しようと朝のホームで電車を待っていた時、通貨電車のアナウンスが鳴り響いた直後、ふいに背中に衝撃を感じた。
僕がまどろんでいたこともあり、体は衝撃を受け流しきれず線路の中へと吸い込まれていく。
身体の横からは途轍もない速さで接近してくる電車。背中からの衝撃に身を任すしかないこの状態では避けることなど不可能だ。
普通の者ならば後ろにいた者を呪い、そして走馬灯が頭を駆け巡っていたことだろう。
しかし、僕は違う。
サイコキネシスで体を支え、傾いていた体は完全に静止する。
身体の角度は45度。アフロ頭の骨が得意とする角度を壁もなくやってのける。
傍から見れば違和感しか感じないだろうが、運よく誰にも見られずに済んだ。
僕を押した者も悪気はなさそうだったので見逃してやった。僕以外だったら即死だったとは思うがな。
他には昨日の放課後のことだ。
生活費を下ろそうと近くの銀行に寄れば、タイミングよく銀行強盗が姿を現した。
手に持っていた本物の銃で威嚇射撃とばかりに撃った弾が「これぞ跳弾!」と言わんばかりにはねて僕の頭を正確に狙ってきた。
神のいたずらを思わせる奇跡的なことだったのだが、死が迫っていたことには変わりがない。
近づく凶弾に普通の者であれば、人生を懺悔していたのかもしれない。
しかし、僕は違う。
弾丸の中身は火薬であるのだから、パイロキネシスで僕に届く前に燃やし尽くす。
やろうと思えば、どこかのヤサイ人みたく弾を素手でとることも出来たが、あまり目立ちたくはないのでな。
その後は無事、強盗もお縄につき一件落着であった。
最後に紹介するのは昨日の夜だ。
流石にいろいろとあって疲れた僕はコンビニでスイーツでもと思って向かっていた。意外に思われるかもしれないが、甘いものは嫌いじゃない。
しかし、悲劇はそんなときにもやってきた。
青信号で渡ったのにもかかわらず、トラックが高速で僕をひき殺さんと迫って来たのだ。
高速移動する大質量の物体に、普通の者であれば異世界転生まっしぐらであっただろう。
しかし、僕は違う。
自分の身体を浮かしてスポーツカーのかくやというスピードで高速移動する。
200キロを超えるスピードをだして転生フラグなんて簡単にへし折ってみせる。
なぜだか少し僕を追ってきたのだが、そんなのに捕まる僕でもなくコンビニでスイーツを買うことに成功した。
このように「死」なんてものは長年、いや、傷ついたのも記憶にないほどに超越した存在、それが僕だ。
普段の退屈を代償に、成功の約束を生贄に、死と傷を受けない生を保証された僕は異世界転生などするわけがないのだ。
だから敢えて言わせてもらおう。
「異世界転移した」
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
今日は6話まで一気に公開するので、ぜひご覧ください。
なお、かなりゆっくりの更新となると思います。
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