第25話

 一度入った亀裂が大きくなっていき、さらに時間が経過すると空中分解を起こす。エレーナの一件を契機に今まさにそのような状態にある王宮では、すでに取り返しがつかないほどの状況が繰り広げられていた。


「…お兄様、これ以上私の愛情を無下にされるというのなら、私はもうずっとずっとお慕いしているカサル様のもとへ行こうと思います。それでもよろしいですか?」

「ちょ、ちょっとまってほしいカタリナ…。ぼ、僕にだって婚約者との関係を優先するという義務があってだね…」

「それでは、前に私に約束してくださったことは嘘だったのですね?たとえ婚約しようと子供が生まれようと、私の事を第一に考えて行動してくださるという約束

…。私はずっとずっと信じていましたのに…」

「だ、だからなんでそんな話に…。ま、前まではそんなわがままを言ったりしなかったじゃないか…。どうして急にこの僕を困らせるようなことを…」

「は、はぁ!?そう仕向けたのはお兄様の方からでしょう!?私のせいにされるのですか!?」

「あぁもううるさい!そんなにカサルの事が好きならそうすればいいじゃないか!もう僕の知ったことじゃない!!」

「ああそうですかわかりました」


――――


「ずいぶんと長くカタリナと話をされていましたよね?やはり私への愛情なんてその程度のものだったと?」

「き、聞いてくれイーリス!!カタリナとの関係はもうなんでもないんだ!その証拠に、彼女はもうここを出ていくと言っている!」

「またそんな言葉に踊らされて…。婚約者である私の事を第一としてくださるのが当然の行いでしょう?なのに言い訳ばかりですね」

「だ、だから何回も言っているじゃないか…!」

「まぁまぁ、逆ギレですか?王子様も随分と器の小さなこと…」

「!!」


――――


「我が夫であるオレフィスがいないとなんにもできないのですから、本当に役立たずな王子様です事…。第一王子の名が泣きますね」

「あら、すべてはあなたのせいなんじゃなくって?私がレイブンと婚約した時には、お二人ともその関係を良好なものにしていたように見えます。…そもそもあなた自身に、何の魅力があるというのです?ただただオレフィス様の力を自分の者のようにして威張っているだけではありませんか?」

「…もういいわ。こんなにも私に対して失礼な言葉を連発してきたんですもの。王宮を追い出されることになったって、文句を言える立場ではありませんわよね?」

「どうぞご自由に。ただ今になってもオレフィス様のちからにすがるだなんて、滑稽でしかありませんわ」

「!!」


――――


 愛情に飢える王宮の人間たちは、このような会話を毎日のように繰り返していた。エレーナの力によって維持されていた安寧が崩壊した今、もはやこれを止められる人間はどこにもいない…。

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