第23話

 出発の準備が整った二人は近衛兵を伴い、王子が乗るにふさわしいきらびやかな馬車に乗り込み、第二王宮を出発した。

 ゆらゆらと揺れる馬車の中で、レイブンは真剣なまなざしでユーフェリスに言葉をかけ始める。


「いいかいユーフェリス、私はオレフィスとは1対1で話し合いたいんだ。僕たちの会話が終わるまで、おとなしく待っていてくれるね?」

「もちろんそれで構いませんわ。けれどレイブン様が話し合いを終えた後は、私がオレフィス様と1対1でお話をさせていただきますけれど、よろしいですよね?」

「あ、あぁ…」


 その言葉を最後に、第二王宮に到着するまで二人の間で新たな会話が交わされることはなかった…。


――――


 オレフィスたちの住む第二王宮に到着するや否や、レイブンはオレフィスのいる第二王子室を目指して歩き始める。美しく歩くそのふるまいは第一王子として気品にあふれるものであったが、どこか少し焦っているようにも感じられた。


「オレフィス、私だ。入るぞ」


 オレフィスからの返事を待たずに、レイブンは扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れる。そこには金色に塗り染められた悪趣味な机に向かいイスに腰掛ける、オレフィスの姿があった。


「突然やって来て僕の部屋まで乗り込んでくるなんて、兄様も相当暇なのですねぇ。そんなことだからユ―フェリス様から愛想を尽かされてしまうのではないですか?」

「余計なお世話だ。それよりもオレフィス、本当にこのままエレーナとの関係を終わりにするつもりなのか?」

「いつまでそんな話をするんです…。それはもう過去の事でしょう?すでに終わった話をいつまでも繰り返すなんて、何の意味があるというのです?」

「オレフィス…。そもそも私とエレーナがするはずだった婚約を、お前が邪魔してきたことから始まったんだぞ?それを気が変わったなどと言って急にイーリスに乗り換えて…。自分のやった事の意味が本当に分かっているのか?」

「なんですか?逆恨みですか?そのおかげで兄様は愛しい愛しいユ―フェリス様と結ばれることができたのですから、よかったじゃないですか。むしろ感謝してほしいくらいですよ♪」

「…」 


 最初から期待はしていなかったレイブンだったものの、ここまでオレフィスが手が付けられない状態にあるとは考えてもいなかった様子…。


「(…これはもう、どうしようもないかもしれない…)」


 エレーナの力をみすみす手放すということがどういうことを意味するのか、オレフィスとは違ってレイブンはよくよく理解していた。だからこそこの現状に、憂い以外の感情を抱くのは不可能だった…。 


――――


 二人が話をしている一方で、別の二人もまた会話を始めていた。


「あらあら、これはこれはユーフェリス様、はるばる我が第二王宮へようこそ」

「おもてなしどうも(…我が第二王宮、ねぇ…)」


 第二王宮をすっかり我が物としているイーリスと、そんな彼女の事をいぶかしげに見つめるユ―フェリス。


「今日はレイブン様とご一緒だったのかしら?あんなに素敵な旦那様をお持ちだなんて、すごくうらやましいですわ。私なんてせいぜい、この王宮を自由にすることくらいしかできていませんもの」

「(チッ…)私には十分すぎるくらいだと思いますけれど…。それでも足りないとおっしゃるのなら、よっぽど欲が深いのではなくって?」

「まぁ、旦那様にたくさんしてほしいという欲は、女には必要でしょう?むしろあなたのほうにこそ、その欲は強くあるように思えますけれど?♪」


 第一王子と第二王子をそれぞれ旦那とする二人であるものの、その関係が全くいいものではないということは、誰の目にも明らかだった。


「まさかとは思いますけれど、最愛の旦那であるオレフィス様にすり寄ろうだなんて思っていませんよね?絶対に無理ですからやめておいたほうがよろしいと思いますよ♪」

「い、言われなくてもそんなことするはずがないでしょう?誰が好き好んで婚約者の乗り換えだなんて…」

「それなら安心ですわね。あなたとは王族を支える者同士、これからも仲良く協力してやってきたいですから♪」


 完全に勝ち誇ったような表情を浮かべ、ユーフェリスの事を見下すイーリス。一方で自分の考えを完全に読み当てられたユーフェリスは、その心の中にイーリスに対する憎悪の感情を沸々とにえたぎらせるのだった…。

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