第17話
カタリナとイーリスを両脇に抱え、この上ないほどの笑みを浮かべているオレフィス。欲望に正直な彼は、最初からこの光景を実現させるべく行動していたのだろう。
「(僕は第二王子なのだから、これくらいの思いをするのは当然だとも♪)」
彼はそのまま周囲を見渡してみる。この食事会には様々な貴族や権力者が集められており、その光景はまさに壮観と言ってよかった。そしてほかでもない自分自身こそが、その者たちの頂点に君臨する王国王子。彼がその光景に陶酔しないはずはなかった。
「(…おっと、面白い参加者がいるな…)」
周囲を見回していたオレフィスは、一人の人物をその視界にとらえた。…かつて自分と婚約関係にあり、カサル教皇によって女神の生まれ変わりであると宣告された、エレーナ本人である。
「(…少し、相手をしてやるか…♪)」
オレフィスはそのまま静かにエレーナの方へと足を進める。そんな彼の姿を見て、すぐに目的を察したカタリナとイーリス。二人もまたその後ろに続き、エレーナのもとへ進んでく。ところが、そんなカタリナの様子を見たイーリスが一言。
「これから私たち夫婦だけであいさつ回りをしてくるから、妹ちゃんはここで待っててくれるかしら??…あぁ、寂しくて仕方がないのなら、お姉ちゃんがそばにいてあげてもいいけれど?♪」
「(うっざ…)」
当然、そんな嫌味を言われただけで引き下がるカタリナではない。
「お姉様はよく勘違いをされるそうなので、そばについてご案内して差し上げようと思っていましたのに…。身内の親切を台無しにされるようでは、本当に今後妃としてやっていけるのか、なんだか不安ですわねぇ…」
「(…はぁ?)」
一触即発の雰囲気を醸し出す二人であるものの、二人は変わらず可愛らしい笑みを浮かべている。…その裏に全く違う顔があろうことには、同性である女性にしか気づけないことだろう…。
「心配いらないともカタリナ。イーリスは僕の婚約者なんだ。きっちりエスコートしてみせるとも!」
「そ、そうですか…」
「(クスクスクス……ざまぁみなさい♪)それじゃあ妹ちゃん、またあとでね♪」
イーリスは去り際に自身の手をひらひらとふり、完全に勝ち誇った雰囲気を醸し出していた。カタリナはその心の中で舌打ちをするものの、オレフィスに直接ああ言われてしまっては、この場は一旦退くほかなかった。
そして一方、二人の一触即発のムードになど気付きもしないオレフィスは、そのままエレーナの前に現れ、彼女に声をかけた。
「やぁやぁエレーナ、今日の食事会は楽しんでいただけているかな?」
「どうもお久しぶりですオレフィス様!おかげさまでもう、心の底から堪能させてもらってます!」
「ククク、それならよかった、それでこそこちらも招待した甲斐があるというもの♪」
オレフィスの登場にもかかわらず、エレーナは相変わらず机の上に広げられている豪華な料理を派手に勢いよく食べていた。この場に集められた人々は上流階級の者が多く、特に参加女性は食事に当たっては周囲の目を意識する者がほとんどであったため、エレーナの食べっぷりはひときわ目立っていた。
そんなエレーナの姿を見て、オレフィスの隣に立っていたイーリスが笑顔で言葉を発した。
「あらまぁ、そんなに勢いよくほおばって。いくらなんでも下品が過ぎるんじゃない?そんなだからオレフィス様に愛想を尽かされて、婚約まで破棄されるんじゃなくって?♪」
「え??その方がいいとは思いませんか??だってオレフィス様の愛情より、おいしいごはんの方が何倍も私の事を幸せにしてくれますから!」
「…ふぅん…。つまらない意地を張って…」
「いいじゃないかイーリス。きっとエレーナはこうしてたくさん食べでもしないと、失恋のショックを忘れられないんだよ(笑)」
「失恋??私は今絶賛恋愛中ですよ??」
「…はぁ?」
「…聞こえませんでした??おかげさまで私は今、絶賛恋愛中なんです!これを実現してくれたのはオレフィス様ですから、そういう意味では感謝しています!」
「…」
…エレーナに向かって投げかける嫌味をことごとく跳ね返され、二人は悔しさからか口をつぐみエレーナから視線を逸らす。
「ま、まぁ好きに言っているといいとも…。いずれ僕たちの言っていたことが正しかったと、あとからわかるだろうからね」
「それじゃあ、ごきげんよう」
あからさまに不機嫌さをアピールしながら、二人はエレーナの前から姿を消していた。そしてそれと同時に、一時的にエレーナのもとから姿を消していた兄ルークが戻ってきた。
「ごめんエレーナ、挨拶周りが遅くなって……ってあれ、もしかしてオレフィス様がここに??」
「うん、むしゃむしゃ…来てたよ、むしゃむしゃ…」
「た、食べながら話さなくても…。それで、何か嫌なことは言わなかった?」
「えっと……確か、失恋のショックがなんだかんだって…」
「し、失恋?」
「…もしかしてオレフィス様、失恋しちゃったのかな…。それならちょっとかわいそうかも……。むしゃむしゃ…」
「は、はい…?」
両頬を大量のパスタでいっぱいにするエレーナと、そんな彼女の姿をやれやれと見つめるルークの姿がそこにはあった。
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