第16話

「こんなところにいたのね、カタリナ。背が小さくって全然気づかなかったわぁ。今日はこんな素敵な食事会に招いてくれたこと、どうもありがとうね♪」


「これはこれはお姉様、直接お会いするのはあの日以来でございますね。あの時はなにか盛大な勘違いをされていたようでしたけれど、今日は間違えることなく無事に会場まで来られたんですね!」


 会うや否や、さっそく二人は不敵な笑みを嫌みの応酬を始める。


「あなたがついさっき話していたの、カサル教皇様でしょう?人当たりは丁寧で心優しいお方だといわれているけれど、その本心は何を考えているかわからない薄気味悪い人物だって、知る人ならみんな知っていてよ?この前だってあろうことか、お屋敷でゆっくりしていた私に襲い掛かってきて…。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?……まさかそんな彼のことが好きな人間なんて、どこにもいないわよね…?」


 明らかに自分を攻撃してきている、イーリスのその言葉。カタリナはそれを聞いて確信した。


「そうでしょうか?カサル教皇様はそれはそれは素敵な方だと思いますけれど?(へぇ…。それじゃあカサル様に言われのない罪を押し付けて処刑させようとしたのは、やっぱり私への当てつけのつもりだったってわけね。お兄様にみっともなく泣きついていたみたいだし、どこまで性格の悪い女なのかしら…。これほど薄汚れた女を今まで見たことがないわ)」


 カタリナが考えていることは、彼女の雰囲気を通じてそのままイーリスにも伝わっていた様子。


「素直じゃないわねぇ。彼は危険だからやめておきなさいと、アドバイスしてあげているのに…(あらまぁ、私の言ったことがそんなに効いてるのかしら♪まぁ無理もないわよね、所詮妹に過ぎないあなたに、真実の愛で結ばれている私とオレフィスの関係をどうこうすることなんできないでしょうから♪)」


 直接会話を経ずとも、それぞれが心に抱く嫌味が二人の間を行き来する。義理の姉妹の間柄にある二人の関係は、やはり一筋縄ではいかない様子…。

 そして張り詰める二人の間の空気をさあらに悪化させるかのように、第四の人物が姿を現した…。


「なんだいなんだい二人とも!この僕だけのけ者にしてもらっては困るよ!」


 自分の愛する二人が一堂に会している姿を見てうれしく思ったのか、オレフィスはやや嬉しそうな口調を見せながら二人の前に現れた。途端、それまでぴりついた表情を浮かべていた二人はその様子を一変、普段オレフィスに見せる彼女たちの姿へとフォルムを変えた。


「まぁ、お兄様!今日の衣装も素敵でございます!…私、これまで以上にお兄様に心を奪われてしまいそうです…♪」


「そ、そんなことを君から言われたら……は、恥ずかしくなっちゃうなぁ…♪」


 さっそく先制するカタリナに対し、イーリスは婚約者としての余裕を見せつける。


「まぁまぁ。可愛らしい妹と私の愛しいが、こうして仲睦まじい姿を見せてくれて、胸があたたかくなります♪私たちも負けてはいられませんよ、?」


「あ、あぁ!イーリス、僕たちのラブラブぶりをカタリナにもわかってもらわなくっちゃね!義理とはいったって君たちはもう姉妹なんだから、仲良くやってもらわないと僕が困るからね!」


 二人の関係の正体を知る由もないオレフィスは、自分の前で見せる猫なで声の二人が本来の二人であると信じ切っていた。だからこそ二人の関係は良好であり、それでいて等しく自分の事を愛してくれていると確信している様子…。


「(こんなにも僕を愛してくれる、たまならい二人に囲まれて…!なんと幸せな人生だろうか!…エレーナを追放したのはもう、だれが見たって正解だろう!彼女があのまま婚約者であったなら、エレーナのいじめに傷つけられたカタリナはこうして僕に笑顔を見せてくれることもなかっただろうし、イーリスとの関係を結ぶことだってできなかった。…僕はやはり第二王子に相応しいほどの、将来を見る目があると言わざるを得ないな…♪)」


 ここまでの行いを自画自賛するオレフィスであったものの、二人がその心に抱いている考えは全く別なものであるということはおろか、二人が自分の前で猫をかぶっているということにさえ気づかないのだった…。

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