第12話

「おかえりなさいませ、カサル様。…ご無事であられましたこと、本当にうれしく思います…!」


「心配をかけてしまってすまないね。でももう大丈夫だ」


 カタリナがオレフィスを言いくるめたことで、カサル教皇はかけら得た疑いを晴らされ、自分が司る教会へと戻ることを許された。彼を慕う多くのシスターが嬉しそうに出迎えに集まっているあたり、それほど彼の人気が高いのだと思わされる。


「カサル様が無理やりに連行された時には、もうどうしようかと思いまして…」

「わ、私もです…。私はカサル様にお仕えするためにシスターとなりましたのに、こんなお別れは絶対に嫌だと思っておりました…!」

「これからも、ずっとここにいてくださるのですよね!?」


 カサルの年上から年下まで、シスターたちは心底嬉しそうな表情を浮かべていた。


「あぁ。なんでもカタリナ様がオレフィス様に言葉をかけてくださったとの事。…これもまた、神のお導きなのだろうか…」


 …彼がカタリナの名を出した途端、シスターたちの雰囲気は一転してピリッとした…。


「…カタリナ様ですか…。いい噂は全く耳にしませんし、むしろそれどころかこの教会を乗っ取ろうとさえしていると聞いていますが…」

「その話、私も聞きました。本人はすっかりその気でいるのだと…」

「今回の事はもちろんうれしいですけれど、ここに踏み込んでこられるのだけは絶対に嫌です…」


 カタリナに対するシスターたちの印象は最悪な様子。自分たちが思い慕うカサルの事を助けてくれたことを加味しても、それでもなおマイナスの評価が勝つらしい。


「だめだよみんな、そんなことを言っては。カタリナ様はこの私などのために、貴重な時間を使われてオレフィス様に頼んでくださったのです。この上ない感謝の言葉をお伝えしなければ」


 カサルはそう言うものの、シスターたちはあまり同調する様子を見せない。


「(…カサル様、それはお人好しが過ぎます…。カタリナと同性の私たちならば本能的に分かるのです……彼女の本性はろくなものではないと……)」


 そして同時にシスターたちは、カタリナがカサルに抱く思いにも気づいている様子。だからこそ彼女にカサルを渡しすことは絶対に嫌なのだろう…。


――――


 ひとまず無事にカサルが教会に戻され、数日が経過した。そんなカサルの元を、2人の人物が訪れた。


「お久しぶりですカサル様!!」


「あぁ、エレーナ様!こうして再びお会いできましたこと、本当にうれしく思います!」


 彼の元を訪れたのはエレーナと、その兄のルークの二人だった。ルークもまたエレーナの後に続き、カサルとあいさつを交わした。

 エレーナはカサルの目を見て、再び言葉を発した。


「心配しましたカサル様!突然王宮に連れていかれたとかなんとか……。もう大丈夫なのですか??」


「えぇ、心配をかけてしまって申し訳ありません。ですがこの通り、戻ってくることが叶いました」


 エレーナとの再会を果たした今のカサルの表情は、シスターたちの時のそれを超えるものだった。…それもそのはず、彼がその心の中に思っていたのは…。


「(私が心から慕うエレーナ様……。こうして再会できたことは、やはり愛の神が私に味方をしてくれているからだろうか…。このチャンスを逃してはいけない…。必ずや彼女の心をつかんで見せましょう…!)」


 エレーナに宿る女神の力を見抜いたのは、ほかでもないこのカサルだった。彼はその時からずっと、エレーナに恋をしていたのだった。

 しかしエレーナの心はすでにバラン伯爵のもとにある…。この関係はこれからどうなっていくのだろうか…?

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