第21話色々と

完全に裏社会から足を洗った神戸歌月だった。

不破雪菜と同棲する様になっていた彼は自室で考え事をしていた。


「何を考えているの?」


雪菜は同棲という初めての経験に胸を高鳴らせていると同時に少しの不安のようなものを抱いていた。


「ん?今後の事を考えていてな」


「今後?」


「あぁ。仕事をやめてしまったからな…何か仕事を探さないと…」


「仕事ね…歌月くんは人に雇われるタイプじゃないと思うな」


「と言うと?」


「うん。

ピンクピクシーの時みたいに自らが経営者になる方が性に合っていると思うよ」


「そうか…どの様な仕事にしようか…」


「考えがあるんだけど…」


「ん?何だ?」


「えっと…結婚相談所みたいなマッチングアプリを作るとかは?」


「どうしてそれが俺の性に合うと?」


「裏社会で沢山の人と付き合ってきたでしょ?

歌月くんが経営者になればトラブルがあったとしても自分で解決できるんじゃない?

出会いを求める場だから真剣な人が多いでしょ?

真剣だからこそ喧嘩やトラブルになることもあると思う。

だからそれを事前に回避したり自らで解決したり…

今までの経験を色々と活かせるんじゃない?」


雪菜からの言葉に歌月はウンウンと頷いて応えていた。


「マッチングアプリか…でもどうやって制作するんだ?」


「それは任せてよ。私は何でも屋だから」


「でも…一人で制作するのは大変じゃないか?」


「まぁ…そうね…」


「人員を募集するとか?」


「そうだね。多田家にも相談してみようと思う」


「大丈夫なのか?俺と交際していることは伝えた?」


「うん。私なら大丈夫だって…

多田家の皆様にも私達の交際を認めてもらえたよ」


「良く認めてくれたな。

俺がピンクピクシー元オーナーって知っているんだよな?

紅くるみの関係者だとも知っているんだろ?」


「もちろん知っているわよ。でも私が選んだ人だからって…

それに何かあったら多田家が動くそうだから」


「そうか…とりあえず人を集めようか」


雪菜はそれに頷くと一度家を出て多田家に向かうのであった。



雪菜は多田家当主にお願いをしていた。

彼女の願いを叶えてくれた多田家当主は使用人数名を貸してくれたのであった。


そこから不破雪菜の休暇中。

彼ら彼女らは神戸歌月の仕事のためにマッチングアプリを開発するのであった。




不破雪菜に休暇を言い渡してからいくつかの日々が過ぎていた。


「静。ご飯の支度手伝って」


「はーい」


真名はキッチンで料理を作っており静に手伝いをお願いしていた。


「なにをすればいいの?」


「じゃあ出来たもの運べる?」


「うん」


「ゆっくりね。急がなくていいから」


「わかった」


静は真名の言葉に従って丁寧に配膳を行っていた。


「そういえばゆきなおねえちゃんは?」


「ん?お休み中だよ」


「もうここにはいないの?」


「うん。雪菜さんは家族みたいなものだけど…家族ではないのよ。

まだ静には難しい話かもしれないわね」


「かぞくじゃないの?」


「まぁ…家族みたいなものよ」


「ほんと?」


「本当よ。何か心配なの?」


「うんん。すこしさみしかっただけ」


「そう。雪菜さんのこと大切に思っているのね」


「うん!ゆきなおねえちゃんだいすき!」


「ふふっ。そうね」


真名と静はそんな会話を繰り返していた。

静は丁寧に配膳を終えて次の仕事を待っているようだった。


僕はと言えば…

本日の作業を終えて光の世話をしていた。

真は日中に運動をしすぎたのか今は眠っていた。

光は僕のスマホフォルダの中に入っている音楽が気に入ったようで曲を聴きながら絵を描いていた。


「光は芸術家になるかもね」


集中している光を置いて僕は真名の下へと向かい声を掛けた。


「本当にね。子供の中で一番亮平くんに似たんじゃない?」


「かもね。静は絵を描くの好き?」


僕は続けて静に問いかけてみる。

息子の静は元気よく頷くと満面の笑みを浮かべる。


「ようちえんでいちばんうまいってせんせいにいわれた!」


「そうか。好きなことをして過ごすと良いよ」


「うん!えをかくのだいすき」


「流石父さんの子だな」


「うん!」


静は嬉しそうな表情を浮かべると光の下へと向かっていく。

静は光と同じ様に画用紙を広げると色鉛筆を持ってお絵かきの時間が始まってしまう。


「もう…御飯の時間なのに…」


真名は困ったような嬉しそうな表情を浮かべている。

僕は軽く苦笑すると真名の料理の手伝いをしていた。


「あぁなったら完成するまで終わらないね」


「そうね。誰に似たんだろうね」


真名は僕に美しい笑みを向けてくるので再び苦笑の表情を浮かべざるを得なかった。


「何かアドバイスしてあげないの?」


「まだそんな段階じゃないよ。今は好きに描くと良いと思うな」


「おっ!プロの意見って感じ」


「いやいや…プロなんですよ」


「そうだね。でも父親だからこそ早いこと勉強させると思っていたよ」


「それはないよ。絵を好きになれないと続かないと思うからね。

何事もそうでしょ?

父親に矯正されるように絵を描くのと…

自分の思う通りに描くのでは好きになる度合いは違うでしょ?

どんなことにでも言えるけど自由にやるっていうのが好きになる一番の近道でしょ」


「そうだね。色々と考えているんだ」


「それはそうだよ。父親だし…真名さんとの子供だからね」


「そうね」


僕と真名はそこで微笑み合うと久しぶりに熱いキスをするのであった。


子供たちが絵を描き終えるまで僕らはリビングの椅子に腰掛けて眺めて過ごす。

お腹を空かせた子供たちと家族揃って食卓につくまで僕らは子供たちの成長した姿を眺めていたのであった。

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