第18話個展についてとそれぞれの日常

多田家の個展会場にて僕と慶秋の合同個展が開かれることがアナウンスされていた。

噂はたちまち広がって…

僕と慶秋が芸大時代の先輩後輩関係であることまで世の中には知れ渡っていた。


そんな日常を繰り返し過ごしながら僕は現在アトリエにて新作の作業へと取り組んでいた。


「新作どう?」


短いチャットだったが慶秋から進捗確認のチャットが届いている。


「順調だよ」


短いやり取りなのはお互いに作業中だからだと思われた。

慶秋も現在作業中なのだと僕の画家としての直感が告げていた。


「そう。僕も頑張るよ」


「あぁ。お互いに精進して良い個展にしよう」


僕のエールのようなチャットに慶秋は喜びを表現したスタンプを送ってくる。

それに軽く破顔すると再びキャンバスに向き合うのであった。




「亮平も順調のようだよ。僕も合同制作をしてから何処か調子がいいんだ。

亮平のお陰で次に進むヒントを得たんだと思う」


作業を中断して昼食を頂きながら僕は咲と義母に正直な思いを口にしていた。


「そう?でも全てが亮平の御蔭じゃないでしょ?

感じ取ったのは慶秋なんだから。

もっと自信持っていいと思うよ」


「ありがとう。個展に向けて頑張る」


咲と二人でその様な会話を繰り広げていると義母は糸をあやしながら口を開いた。


「亮平が誰かの為になっていると思うと不思議な気持ちね。

慶秋くんのレベルアップの役に立ったのであれば…

私は二人の母親として嬉しい限りだわ。

ありがとうね」


義母は何故か僕に感謝の言葉を口にして柔和な笑み浮かべていた。

けれど僕も一児の父として義母の想いも何処か感じ取れることができていた。

しかしながら理解できた想いは、ほんの一端だけだと思われた。

それなので僕はぎこちない微笑みを浮かべて同じ様に感謝の言葉を口にするだけだった。


昼食を終えた僕らは片付けをしていた。

僕が洗い物をして咲はテーブルの上をきれいに片付けている。

義母は料理を作ってくれたため今はソファで少し休んでもらっていた。

あっという間に食器類を片付け終えると僕は再び作業室へと向かう。


「無理しないでね」


咲は僕に柔和な笑みを向けて忠告のような言葉を口にしていた。

僕は意味がわからずに軽く首を傾げてから静かに頷く。


「いやいや。亮平と合同個展だからって張り切りすぎないで?

壊れたら元も子もないよ」


「あぁ…分かった」


やっと咲の言いたいことが理解できた僕は作業室にて再び筆を持つのであった。



個展のアナウンスが出ていたがすぐに個展が開かれるわけではない。

流石に準備期間というものが必要なのは当たり前だ。

証明や音楽や演出などにも凝るのが多田家の個展会場だった。

それを多田が認めた外部の人間に発注しているようで、もうしばらくは僕らも個人作業を行う必要がある。


新作の作業が順調に行われており僕のノルマは既にクリアされていた。

何度も完成された作品を眺めては完璧だと自らに太鼓判を押していた。

しかしながらハイになっているだけで思い過ごしの場合もある。

そんなため日を置いて後日再び眺めても完璧だと思えるまで作業を行ったのだ。


確実に今回は今までにない程に成長した僕が全面に押し出された絵画になっていることだろう。

それを理解した僕は何度と無く頷く。

全ての作業が終わった僕は子供たちと過ごす時間を増やしていた。

静と光とはお絵かきに付き合っていた。

その間、真は動き回りたいようで真名と共に庭で追いかけっこをして楽しんでいた。


静と光はすごい集中でお絵かきに励んでいた。

僕は不破雪菜に二人を任せると庭へと向かい真の遊びに付き合っていた。


「良い息抜きになった?」


真名は疲れたのか庭の椅子に腰掛けて少しだけ息を切らせていた。


「うん。運動はあまりしないからね。たまにすると脳内の思考がクリアになるよ」


「そう。それなら良かった。それにしても真は凄い体力ね…」


「本当だね。僕は運動不足でもあるんだけど…

真名さんより動けるとは思わなかったよ」


「本当にね。

私だって体型を崩さないようにしっかりと運動して過ごしているんだけどね…」


「静や光も凄い集中力なんだ。お絵描き途中に話しかけても…

まるで聞こえてないほど集中している。

きっと大物になるね」


「そう。真は将来スポーツ選手とか?」


真名は少しだけ表情を崩して冗談のような言葉を口にしていた。


「いや…本当になるかもよ?子供には可能性しかないからね」


「だね。好きなことしてほしいわね」


「本当にそう思うよ。僕が好きに生きてきた人生だから…

余計にそう思うし…そう願うよ」


「そうね。きっと上手く生きられるわよ。いつまでも幸せでいてほしいわね」


「あぁ。本当にそう願うばかりだよ」


僕と真名はそこで肩を寄せ合って微笑んでいた。

そんな彼女を愛おしく感じて僕は思わず彼女を抱きしめていた。

少しだけ久しぶりに僕らは熱くキスをして子供たちの未来が明るいことをいつまでも願い続けるのであった。



次回。

同様に個展関係について…!

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