第17話合同制作完成!
僕と慶秋はアトリエにて合同制作に励んでいた。
本格的に作業に取り組んでいる僕らはイメージの共有を忘れなかった。
お互いの認識に齟齬がないように度々確認をしながら僕らの作業は続いていた。
幾度となく疑問を抱いたところは質問を繰り返し作業に取り組んでいた。
そんな日々をどれぐらい過ごしたことだろうか。
一ヶ月もしない内に僕らの作品は殆ど出来上がっていた。
現在は最終的な仕上げ作業にまで入り込んでいる。
「最後の仕上げは…」
「最後は僕に任せてもらってもいいかい?」
慶秋は僕に申し訳無さそうに問いかけてくるので僕はどうしようもなく頷く。
「ここで描いていく?」
「あぁ。そこまで長くかからないから…」
「分かった。僕はリビングにいるから。終わったら声を掛けて」
「うん。ありがとう」
そこで僕は作業室を抜けると着替えを済ませてリビングへと向かった。
「どう?今日も順調?」
リビングに顔を出すと真名はにこやかな笑顔を僕に向けてきて何かを伺っているようだった。
「うん。最後の仕上げを慶秋が描いているところ」
「そう。仕上げは任せたんだ?」
「まぁ結果的にはそうなるけど…慶秋からの打診だよ」
「そっか。慶秋さんも今回の合同制作で何かを掴んだんじゃない?」
「そう思う。日に日に上達している…って偉そうだけど…そう思ったよ」
「偉そうなんかじゃないよ。立ち位置的な話をすると亮平くんの方が上でしょ?」
「今でも僕はそう思えないけどね…」
「思えるようになると良いわね」
真名の言葉に僕は苦笑のような表情を浮かべることしか出来ないでいた。
そこから僕は不破雪菜が作ってくれた昼食を持って庭に出た。
庭の椅子に腰掛けながら昼食を頂く。
長閑でキレイに整理された庭を眺めながら僕は未来のことを考えていた。
この先…
僕はどの様な人間になり…
どの様な人生を過ごしていくのだろうか。
今以上に成長することは出来るのか…
新たな高みへと登ることは出来るのか。
そんな事に思考を割きながら昼食を有り難く頂くのであった。
昼食を頂いてから数時間が経過した頃。
慶秋は疲れ切った表情を浮かべてリビングに顔を出す。
「終わったよ…感想を聞かせて欲しい」
慶秋の言葉に頷くと僕らは再び作業室に向かう。
僕は作品の仕上がりを目にして言葉を失いかけていた。
「やっぱり慶秋は凄いな…」
「え…?」
「うん。間違いないよ。慶秋はすぐにでも世界的画家になる」
「そんなことは…」
慶秋が否定の言葉を口にしようとして…
僕が続けて称賛の言葉を口にしようとしていたのだが…
すぐ後ろに控えていた真名が僕らをまとめて叱るような表情を浮かべていた。
「二人は変なところが似ているね…
意味のない謙遜は美徳じゃないわ。
ちゃんと自分の実力を認めないと。
評価されているのに否定するのは良くない。
ちゃんと自分を認めて褒めるのを忘れないで…」
真名は最後の言葉を少しだけ泣きそうな表情で口にしていた。
僕と慶秋は少しだけ気まずい雰囲気になりながらもどうにかして頷く。
「凄い作品ね。
二人の全身全霊をぶつけたようで…
きっと…いいえ…絶対に後世に残る作品だわ」
真名は僕らに称賛の言葉を贈るとにこやかに微笑む。
「ありがとう。やったな…慶秋」
「ありがとうございます。僕もやりきったと思うよ」
「だな。今度合同で個展を開かないか?
僕も多田家に尋ねてみるから…
慶秋もスポンサーに尋ねて欲しい」
「良いのか?僕にはメリットしかないが…」
「あぁ。この作品をお披露目するためには合同で個展を開くのがベストだろう」
「そうか…国内で良いのか?」
「もちろん。多田の個展会場を使わせてもらえないか尋ねてみる」
「わかった。後日連絡する」
「あぁ。今日までの長い作業…本当にありがとう。実りある時間だった」
「僕こそ。本当にありがとう」
そうして僕らは互いに握手をすると長い作業は終りを迎えるのであった。
後日のこと。
僕は多田家を訪れて今回の事情を説明した。
そして話が通じたのか…
慶秋のスポンサーと多田家が話し合いをした結果…
僕と慶秋の個展は急遽決まる。
僕らは初の合同個展に向けて新たな作品作りに取り掛かるのであった。
僕は日課の瞑想に取り掛かっていた。
毎日数分だけ入れる宇宙空間に浸っていると心は無になり思考は真っ白でクリアだった。
脱力して自らの存在すらを忘れて全てが空間に溶けていくような感覚が広がって…
そしてまた僕は新たなステージへと登りつつあるのであった。
次回。
慶秋との合同個展へ向けて…!
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