第14話慶秋との合同制作1

少しだけドキドキとした不思議な思いを抱いていた。

キャンプから数日後である本日は慶秋との約束の日。

少しだけ散らかっていた作業室を片付けると僕はその時を待っていた。


「そう言えば…この間、実家に帰った時に貰っておいたよ」


真名はそう言うと僕に卒業証書を手渡してくる。


「あぁ…忘れていたよ。ありがとうね」


「いえいえ。緊張している?」


「なんとなくね。最近はずっと一人で作業していたから…

作品を通して誰かと意思疎通を図るのは久しぶりなんだ」


「そうね。でも今までやってきたことをぶつければいいじゃない。

きっと慶秋さんも昔以上にレベルアップしていて驚くかもよ?」


「そうだよね。僕だけが進化しているわけじゃないよね」


「そうそう。皆毎日進化しているはずよ」


それに大きく頷いたところで家のインターホンが鳴り響いた。

真名は作業室を出ると玄関へと急いだ。


「お邪魔します」


慶秋は大きな荷物を片手に持って作業室へと入ってくる。

僕は何とも言えないぎこちない表情を浮かべると慶秋を迎え入れた。


「おはよう。キャンプぶりだね」


「うん。世間話は脇においておくとして。僕は今日を楽しみにしていたんだ」


「僕もだよ」


「じゃあ早速打ち合わせをしていこう」


それに頷くと僕らはお互いのイメージを提案していくのであった。




数時間ほどのミーティングの末に僕らは描くべきものが決定した。


「さて…早速…」


慶秋が作業に移ろうとしていたので僕はそこで口を挟んだ。


「待った。休憩にしよう。根を詰めると壊れる」


「壊れる?精神的な話?」


「それもそうだけど。大事なイメージが壊れてしまう。

一緒に共有している大事な想いも壊れる」


「そう…だね…」


「じゃあ庭でお茶をしながら昼食にしよう」


僕と慶秋はそこで薄く微笑み合うと作業室を抜ける。

リビングで不破雪菜に昼食とお茶の準備を伝えると彼女は恭しく頭を下げた。

庭に出た僕らは椅子に腰掛けてキレイに整理されている庭の風景を眺めていた。


「良い庭だね。心が洗われるかのようだ…」


慶秋はその様な言葉を口にして深く深呼吸をしていた。


「あぁ。なんだか上手くいきそうだね。後世に残る作品が出来そうだ」


僕の唐突で呑気な言葉に慶秋は鼻を鳴らして応えた。


「ふっ。そんな当たり前のこと…何故口にするんだい?」


「当たり前のこと?」


「あぁ。だって僕と亮平が力を合わせるんだぞ?当たり前じゃないか」


「そう…。慶秋は昔以上に自信家になったね」


「もう学生じゃないからね。それに結構儲けているし自信もつくよ…

亮平は昔と変わらないところもあるな」


「どういうところ?」


「いつまでも天狗にならないところだよ」


「あぁ…それはそうだよ。なれないさ」


「どうして?」


「僕は僕以外の人の素晴らしさを知っているから」


「そうだね。昔からそうだった」


僕と慶秋は過去を振り返りながら庭を眺めている。

そこに不破雪菜が軽い昼食とお茶を持ってやってくる。

テーブルの上にそれを置いた不破雪菜は恭しく頭を下げると家の中へと戻っていった。

僕と慶秋は昼食をいただきながら長閑な時間を過ごしていた。


のんびりとした時間が過ぎていくと僕と慶秋はリラックスすることが出来て作業室へと向かう。

しかしながら僕と慶州ははぁと息を吐くと苦笑した。



「今日は違うね。また明日にしようよ」


どういうわけか慶秋も僕の言いたいことが理解できたようで先んじて口を開いた。


「そうだね。夕飯食べていく?」


「いいや…帰って糸の顔が早く見たい」


「それもそうだね。じゃあまた明日。ここで良い?」


「あぁ。しばらくはここで良いよ。

けれど新鮮さを味わいたくなったら言ってくれ。

その時は僕の作業部屋に案内する」


「おぉー。それも良いね。じゃあまた明日」


「うん」


慶秋は真名や不破雪菜に挨拶をすると子供たちの頭を一回ずつ撫でて玄関へと向かう。

靴を履くと慶秋はそのまま家を後にするのであった。



僕は慶秋との案をまとめながら明日のことを考えていた。


「あまり考え込まないほうが良いと思うな。

二人ならきっと良いものを作れるよ。

もっとリラックスして」


「ありがとう。脱力を努めるよ」


「そうして。これから長いこと慶秋さんと作業するんだろうから…

張り詰めないように。けれど全力でね」


真名からの有り難いアドバイスを受けながら…

僕はまた明日へと向かうのであった。

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