第12話きっと永遠…

「お祖父様は病気とかではないですよね?」


現在、多田家に赴いている僕らは使用人の好々爺に問いかけていた。


「もちろん健康そのものです。毎年の健康診断も問題ないですよ。

隠れた病気が存在している可能性も限りなく0に近いです」


使用人の言葉を耳にした僕と真名はホッと一息つく。

安心しきった真名は僕の肩にもたれかかるようにして安堵の表情を浮かべている。

僕は真名の肩に手を回して抱きかかえると安心させるように軽く擦ってあげる。

真名は深く息を吐いた後に深呼吸をして心を落ち着かせているようだった。


「何も無かったでしょ?大丈夫。心配ないよ」


僕は真名に追加で安心させるような言葉を口にしていた。

真名も安心できたのかウンウンと頷いている。


「ですが…年齢的な話をするのであれば…

平均寿命はとっくに超えていますので…

いつ何があるか…

余計なお世話かもしれませんが…

覚悟はしておく必要もあると思います」


好々爺は少しだけ切ない表情でその様な言葉を口にして僕らのことを何とも言えない表情で交互に見渡していた。


「ですね。それは分かっています。

年齢的な話であるならば…仕方がないと言うか…

どうしようもないですからね…

いつかは訪れることです。

そう割り切るしか無いですよね…」


僕は真名の代わりに答えるが隣にいる彼女はやはり苦しそうな悲しそうな表情を浮かべていた。

それに対して慰めの言葉を口にしても…

今は無意味だと思った。

真名自身がこの件について自らの思考で割り切るしか根本的な問題解決にはならない。

残酷だがそんな事を思ってしまった。

でもいつまでも割り切れないようであれば…

僕が手を貸すのだろう。

しかしながら強い真名なら自らでこの苦悩の壁を乗り越える事が出来ると信じている。

だから僕は何も心配せずにただ真名の背中を擦ってあげるだけなのであった。



多田家の仕事を手伝いながら僕らの日々は続いていた。

静はかなり成長して今では普通にお話が出来るほどだ。

光もすくすくと成長しており兄の静に構ってほしくて後をついて回っている。

真はもしかしたら上の二人とは違った性格をしているのかもしれない。

上の二人が興味を示さなかった遊びをしている姿をよく見かける。

不破雪菜もそれを感じているようで僕の疑問に答えてくれた。


「そうですね。上の二人は絵を描いたり粘土で大人しく遊ぶのが得意でしたが…

真様は運動を中心とした遊びが多いみたいですね。

子供らしいと言えば真様が一番子供らしいのですが…

上の二人が大人しすぎたかのように思えます。

私も育児の手伝いをしていますが上の二人を相手にしているときは…

心地よい疲労を感じるぐらいでした。

ですが真様と遊ぶとその日はぐったりと疲れるほどです。

愚痴を言っているわけではないですよ。

ただ真様は上の二人とは違うな。

と思った次第です」


不破雪菜の育児報告のようなものを受けて僕はウンウンと頷いていた。


「真名さんは小さい頃…活発に遊んでいた?」


僕の問に真名は少しだけ照れくさそうに静かに頷いた。


「今になると恥ずかしいけど…男の子に混じって外で遊んでいたよ」


「じゃあ真は真名さんに似たのかもね。僕はずっと絵ばかり描いてきたから」


「そうだよね。静と光は亮平くんに似たんだね」


「そう…かも…。見た目は真名さんに似てほしいものだけど…」


「どっちにも似てほしいわよ」


「………」


そこで言葉に詰まる僕に真名は笑顔を向けてくる。

そして真名は何処か吹っ切れたような表情を浮かべて口を開いた。


「こうやって新しい命が産まれてきて…

私達の生命はリレーのように受け継がれていくんだよね?

お祖父様が亡くなっても…

私達の人生は続いていくし…

子供達が未来へとバトンを永遠と繋いでいってくれる。

多田家もお祖父様も…私達もきっと永遠よね?」


真名の問いかけに僕は柔和な笑みを浮かべると一つ頷く。


「きっと…きっとそうだよ」


僕の感情の籠もった力強い答えに真名は嬉しそうに頷いて応えると割り切ったように柔和な笑みを浮かべていた。

やはり真名は僕が思っている以上に強い女性なのだと改めて理解するとパートナーとして非常に心強く思うのであった。



日常的な話なのだが。

僕はほぼ毎日一度は作業室に入っていた。


気分が乗っている時に筆を動かすのだが。

今までの大事な作品群を眺めると自然と乗り気になってくる。

それなので気分が乗らない時でも自分で気分を乗らせる術を心得ていた。


不思議な話だったがプロになっても気分ややる気に左右される事実を可笑しく思った。

プロは完璧超人でいつ何時でもやる気に満ちていると錯覚していた。


しかしながら僕らも人間であるのは揺るぎ様のない事実。

だからどんな時にでもやる気があるわけではない。


しかしながらそんな事を言っていると仕事がなくなるので…。

僕らプロは自らのやる気を押し上げてくれる術を心得ているのだろう。


僕は過去の大事な作品群を眺めることだし…

他のプロはどうしているか僕にはわからない。

人それぞれということだろう。


そうして本日も僕は過去の大事な作品群を眺めて…

キャンバスへと筆を走らせて過ごすのであった。

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