第9話第三子。末息子

どうやら連続的で非常に気まずいような空気を感じているのだが…

真名は第三子を妊娠したようだった。


「体力的にもこれで最後だと思う」


「そっか。ありがとうね」


「うん。最後まで気を抜かないね」


「そうだね。無理はしないで。何かあったらちゃんと言ってね?」


「うん。頼りっぱなしでごめんね」


「そんなことないよ」


不破雪菜が真名を病院に連れて行って…

帰ってくると真名は僕に妊娠の報告をした。

僕は少しだけ不破雪菜と目を合わすことが出来ずに居た。


「私も出来ることは全て協力いたします。何でもお申し付けください」


不破雪菜は僕の逸らした視線に気付いたのか深く頭を下げると口を開いた。


「雪菜さん。ありがとう。また大変苦労をかけると思うけど…」


「いえいえ。苦労だなんて思いませんよ。

亮平様と真名様の為ですから」


「本当にありがとう」


真名と僕は揃って不破雪菜にお礼を言うと頭を下げるのであった。




そこからの約一年間の出来事。

僕は国内の個展に向けて作品を作り続けていたし…

何度目かの海外美術館での個展へ向けても作品を作り続けていた。

作品に没頭する日々だった。


真名は育児をしながら自らの体調面を気にして過ごしていた。

三度目の妊娠出産ということで真名は慣れたものだったようだ。

約一年で真名は第三子である息子を産む。


名前は真名がどうしてもと言うので…

しんとなった。

母親から一文字頂いた名前を僕も気に入った。

両親である僕らと息子を繋げる名前をいつか気に入ってくれたら嬉しいのだが…。



そんな事を思いながら…。

僕らはついに多田家の集まりに呼ばれるようになったのであった。



「まぁ。今日は気軽に構えなさい。真名は私の動きを覚えなさい」


お父様の言葉に真名は緊張の面持ちで頷いていた。


「亮平はこっちに来い」


お祖父様に呼ばれて僕は少し離れた場所へと向けて歩き出した。


「ここで静かに座っておれ。本日はお主の存在が大きく作用する」


「あの…どういった…」


「いいから。ほれ。座っておれ」


お祖父様の言葉に頷くと僕は黙ってその場の椅子に腰掛ける。

しばらくすると見覚えのある好々爺など数名が部屋へと入室してくる。

面々が席に腰掛けて僕のことを眺めていた。


「芸大の講師陣だ…」


僕は思わず声が漏れてしまい本日僕が招集された理由が分かったような気がしていた。


「本日はお越しいただき誠に感謝する。

早速だが本日の議題だが…」


「支援金の話かの…」


芸大講師の好々爺が早速話に割って入るとこころなしか寂しそうにあごひげを触っていた。


「そうなるな。芸大卒業生で亮平に続く第二の存在を排出できていない。

多田はそれを危惧している」


「ですが…亮平さんは初めから特別な存在でしたから…」


講師陣の一人が申し訳無さそうに口を開いて僕の方へと視線を寄越す。

発言を求められていると気付いた僕は一つ咳払いをして口を開いた。


「えぇー。私は初めから特別だったとは思いません。

交友関係は確かに初めから恵まれていたと思います。

真名さんとの交際のお陰で初めから多田家と繋がりがあったのは恵まれているの一言でしょう。

しかしながら僕の技術が初めから突出したものじゃなかったのは講師陣の皆様もご存知でしょう?

私は入試首席合格ではないのですよ。

芸大生活の中で自らレベルを上げてきた自負もあります。

初めから特別ではないと明言しておきます」


僕の断言した言葉に多田の人間は少しだけ困ったような表情を浮かべて…

しかしながら話を合わせるように頷く。


「まぁ。亮平が高校生の頃から優れていたのは認めよう。

それ故に多田はサポートすることを決めたのだから。

光るものがあったのは事実だ。

しかしながら世界的画家にまでなるとは思わないだろう。

それは亮平の努力の賜物だろう。

故に芸大側は危惧して欲しい。

第二の存在を排出できず…

国内外で有名な画家と聞けば多田亮平と答えられる現状。

多田としては悪くない状況だが…

しかしながら全体的なレベルアップに繋がっていない。

この国の芸術レベルをもっと押し上げないとならない。

多田が危惧していることが分かって頂けたか?」


多田のお祖父様が僕に視線を送った後に芸大講師陣に目を向けた。

講師陣は了承の言葉を口にして頷いていた。


「では。本日は注意で留めておこう。

カリキュラムの見直しなど…

多方面からのアプローチを期待する。

でなければ…支援金打ち切りとなる。

そう心に留めておきなさい。

では解散」


最後の締めの言葉をお父様が口にして講師陣は返事をすると退室していく。


「どうだ?簡単に多田の仕事を目にして。初めてで緊張したか?」


お父様は真名に問いかけており彼女は少しだけ深く息を吸う。


「そうですね。思った以上に緊張感はありました」


真名とお父様の会話を端で聞きながら…


「亮平はどうだった?」


お祖父様に問いかけられて僕は苦笑する。


「上手に動けなかった気がします。反省です」


「いやいや。初めてにしては素晴らしかった。

今後は呼ぶ機会が増えると思うが励んで欲しい」


「かしこまりました」


そんな言葉を口にすると僕らはそのまま多田家で食事会をして帰宅する。

もちろん僕らが仕事中…

多田家の屋敷で静と光と真は不破雪菜や使用人たちにあやされていたのであった。

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