第8話同窓会

「久しぶりに油絵科のメンバーで集まらないか?」


本日慶秋は一人で僕らの家であるアトリエへと訪れている。


「うん。良いけど。どうして?」


「あの頃の僕等がいた元Sグループは全員卒業したでしょ?

だから同窓会的な?」


「あぁー。そうだね。僕は卒業扱いになっているんだろうけど…

色々とあって正式な卒業証書って貰ってないんだよね。

まぁ今後必要になるかわからないけど…」


「それなら真名さんが貰ってきてくれているんじゃない?

記憶を失っている間に取りに行ってくれているかも」


「どうだろう…」


リビングでお互いにコーヒーを飲みながら僕らは他愛のない会話を繰り広げていた。

真名は僕らの会話を聞いていて彼女に視線を向ける。

すると真名は…


「多田家に届いていると思うよ。今度取りに行こうか?」


「あぁ。うん。ありがとうね」


僕の感謝に真名は美しい笑みを浮かべて頷いていた。


「それにしても同窓会…ここでやるなら私も安心だけど…」


真名の言葉を受けた僕は何度と無く頷いて応える。


「そのつもりだったけど…」


当然と言うように答えると真名は嬉しそうに微笑む。


「良かった。慶秋くんもそれで良いかしら?」


「もちろんです。参加者を絞る為に…油絵科だけという提案でした」


「そうですか。

皆さんパートナーやお子さんも一緒に連れてきてくれると嬉しいです」


「わかりました。そう連絡をしておきます」


慶秋は真名とやり取りをするとコーヒーを飲み干して席を立つ。


「帰るの?」


「あぁ。この間も訪ねたばかりだからね。邪魔になっても困るだろ?」


「邪魔だなんて…」


「なんて冗談だよ。早く帰って息子の顔が見たいだけさ」


「そうか。じゃあ気を付けて」


「ありがとう。決まり次第連絡する」


「頼む」


そうして慶秋とやり取りを終えるとそのまま彼を玄関の外まで見送った。

彼は顔に似合う高級車に乗り込んで野田の自宅へと帰宅していくのであった。




慶秋が人を集めた後日のことだった。

元Sグループ油絵科メンバーは僕の自宅であるアトリエへと集まっていた。


「久しぶり。噂はいくらでも聞いているわよ。

私のところにもインタビューが来たぐらいだから」


葛之葉雫はパートナーと共に僕の下へとやってきて軽く苦笑しているようだった。


「インタビュー?ご迷惑おかけしましたか?」


「全然。学生時代の多田亮平がどんな人物だったか。

そんな事を答えるだけの時間だったわ」


「そうですか。もしかして…」


僕は葛之葉雫のお腹の膨らみを目にして表情を明るくさせた。


「そうなの。二人には少しだけ遅れを取ったけど…

私も無事子供を授かれそうだわ」


「それは何よりです。深瀬さんは?」


「あぁー。それは聞かないほうが良いわよ…」


「えっと…そうですか…」


「そう。深瀬さんは恋人すら作っていないみたいだし…」


「どうしてです?そういう機会が無いとか?」


「そうじゃないみたい。そういう機会はいくらでもあるのに…

全然乗り気になれないんだってさ」


「どうしてです?」


「それを二人にだけは聞かれたくないんじゃない?」


葛之葉雫は僕と慶秋を交互に指さして苦笑している。

僕と慶秋も良い大人なので流石に言わんとしていることが理解できて肩を竦めて見せた。

哀れみの言葉も慰めの言葉も意味をなさないと理解していた僕らは苦笑することぐらいしか出来ない。


「お邪魔するわね」


そこに突然…

深瀬キキが現れて…

両手いっぱいに色とりどりの大きな花束を持って玄関から入って来たところだった。


「食事やお酒は間に合っていると思ってね。

雰囲気に色を付けるように花を添えるのも大事な役割でしょ?」


気取った風に口を開いた深瀬キキに僕らは驚きの表情を浮かべながら出迎えた。


「お久しぶりです」


「私は久しぶりな感じがしないわ。毎日の様に多田の作品を眺めている」


「どうして…?」


「当たり前じゃない。

私と同じ活動拠点で…

私よりも何百倍も売れている画家のことをリサーチするのは当然でしょ?」


「深瀬さんに比べて何百倍も売れている実感はないですが…」


「なにそれ?嫌味?」


「まさか。僕は自分の知名度をはっきりと理解しているわけじゃないんです」


「どうして?人気に興味ない?」


「そうですね…僕は描きたいものを描いているだけなので…」


「やっぱり嫌味じゃない…」


「そんなことはないんですけどね」


「人気ばかりを気にしている私が惨めになるって話なの」


「そうですか。人気を気にするスタイルもあると思いますよ。

どちらが良いなんて無いですよ」


「そうかもね。けど真逆のスタイルの多田に言われると…少し苦痛ね」


「そんなことないと思いますけど…。

それよりも本日は皆さん贅沢な食事を楽しんでいってください」


「なに?嫁が作った料理自慢?」


深瀬キキは本日全力で噛みついてくるが僕はそれに適当に微笑んでいなす。


「いえいえ。それはまた次の機会で。今回は多田家お抱えの何でも屋。

不破雪菜さんの豪勢な手料理を楽しんでいってください。

飲める方は好きなボトルを開けていってください。

遠慮なく無礼講で。お好きにどうぞ」


そんな言葉を残すと僕らは久しぶりに集まって立食パーティを始めていく。


「私まで呼んでくれてありがとうね。

私は初代Sグループじゃないのに…」


香川初は少しだけ気まずそうな表情を浮かべていたが僕は微笑んで首を左右に振った。


「いやいや。この間は連絡に気付かなくてごめん。

埋め合わせの意味も込めて…今日は楽しんでいって」


「ありがとう。活躍しているみたいだね。誇らしく思うよ」


「ありがとう。香川さんはどう?」


「うん。好きなことさせてもらっているよ。

自慢の色彩感覚を活かしてね」


「そっかそっか。香川さんの色彩感覚は当時から学生のレベルじゃなかったからね」


「そう言ってもらえて嬉しいよ」


「パートナーは?」


「まだ出来てない。今は活動で忙しいから…」


「そっか。お互いに頑張ろうね」


香川初はその言葉に頷いて仲間たちの輪の中へと向かう。

慶秋と姉の咲に混じって真名や子どもたちは仲よさげに食事を楽しんでいた。

静は拙い足取りで僕の下までやってきて賑やかな現状に戸惑っているようだった。

僕は静を抱き上げると仲間たちに紹介するように連れて行った。

仲間たちは静ににこやかな挨拶をしてくれる。

それに良い気がしたのか…

静は大人たちに混じりながら…

良いのか悪いのかはわからないが…

大人の顔色を確認しながら空気を読んでいるのであった。



夜の帳が降りる頃に仲間たちは帰宅していく。

そして僕ら家族は本日も仲睦まじく夜を過ごしていくのであった。



早くも第三子の気配を感じながら…。

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