第3話永遠のテーマ

子どもの成長は思ったよりも早い。

毎日一緒に過ごしているというのに日に日に成長していく姿が見て取れた。

僕は父親として喜びを覚えていて…


そんな静が昼寝をしている横で僕は毎日息子の姿をデッサンボードに描いていた。

毎日の成長を一つも見逃さないようにと…

僕は静の毎日の成長を絵に残していた。

きっと僕が生涯で一番多く描くのは家族についての作品だろう。

ただただ毎日息子を描き続けて…。


真名と共に家事を行ったり二人きりの時間を過ごしたり…

変わらずイチャイチャしたりと…

そんな時間を過ごしているのであった。



きっといつまでも何処までもこの様な幸福な日々が待っているのだろう。

僕はそれを確信していた。

きっと真名もそう確信していたことだろう。


そうして静が産まれて一年が経過しようとしたところで真名は再び妊娠する。

今回の妊娠で真名はナーバスになることはなさそうだった。

それは一重に慣れと言っても過言ではないだろう。

二度目の妊娠で彼女は早くも慣れてしまったようだ。

そして今回も真名を休ませようと僕は努力しようとして…


「だからダメだって。何でも一人で抱え込もうとしないで?」


真名に窘められる形で僕は彼女と協力して家事や育児に励むのであった。



そして早いもので…

僕の二度目の海外美術館での個展は再び計画されていた。

多田のお祖父様とJが再び開催してくれるようで…

今回もJがプロデュースしてくれるようだった。

絶対に成功間違い無しと約束された個展へ向けて…

僕は家事や育児の合間に作品作りへと向かっていた。


新作がいくつか出来ていて…

今回はそれを中心に展示となっていた。

息子が産まれた僕の作品がどの様に受け入れられるのか…

僕はそんなことを少なからず不安に思っていたことだろう。

しかしながらそんな僕を見て真名は優しく微笑むと安心させてくれるように口を開いた。


「大丈夫。静が産まれてからの作品のほうが絶対に良いものよ」


真名のその励ましの言葉を真っ直ぐに受け止めると一つ頷く。

今回は現地に行くことはなかった。

代わりに多田家が揃って現地へと赴いてくれたようだった。

開催期間中の様子を多田家の面々は写真にとって僕らのスマホに送ってくれる。

その様子を眺めて僕らは安心する。

今回も満員御礼のようで外にまで行列が伸びていた。

その光景を見ただけで僕の心の中には何とも言えない幸福感のようなものが溢れていた。


後々多田家の面々から聞いた話なのだが…

僕の作品の中で人気があるのは家族の作品だったようだ。

真名や静を描き写した日常の絵画が特に人気を博しているようだった。

僕はそれに何とも言えない喜びを覚えて…

本日も真名と静との日常を描いていくのであった。



様々な技法を用いて僕は本日も家族についての絵を描いていた。

いくら描いても飽きがやってこない永遠のテーマを僕は描いている。

毎日の何気ない様子を僕はキャンバスに描いている。

お腹が大きくなりつつある真名とかなり成長した静。

僕は二人を想いながら本日も筆を走らせていた。


数日掛けて作品を仕上げて真名に観せたところ…。


「毎回思うんだけど…亮平くんの姿がないのはなんで?」


その予想外の一言に僕は何と答えたら良いのかわからずに少しだけ意表を突かれた気がしていた。


「何ていうか…僕目線で描いているから…」


「それでも…亮平くんが絵の中に居ないのは…少し寂しいな…」


「そうか…考えておく」


そんな言葉を残して僕は今までの家族の作品を全て眺めていた。

しかしながら真名からの助言を受けても…

やはりこの絵に僕の姿があるのは蛇足な気がしてしまう。

家族の絵には真名と静…

これから産まれてくる子どもたち…。

多田家の面々に野田家の皆。

それだけで良いと思われた。

僕の絵に僕は必要ない。

そんなことを思ってしまう。


しかしながらそれにより真名が少しだけ寂しい思いをするのも理解できる。

どの作品にも僕は登場しない。

それを寂しく思っても仕方がないだろう。

だが僕は自分が登場することに少しの抵抗感を覚えていたのだ。


それでも真名が言うのであればと…

僕は後日の作業室で自らのことも描くように努める。

僕を含めた家族の絵画を懸命に描いていく。

何処までもいつまでも描いていられるような全能感に包まれながら…

僕は本日も家族の絵を描いていくのであった。


「今度は亮平くんも居る」


真名は描きかけの絵画を見て僕に笑顔を向ける。


「そうだね。でもこれで正解なのか…自分ではわからない」


「正解だよ。亮平くんが居ないと…寂しいし」


「そう?そう言ってくれるなら…これで正しいんだと思うけど」


そんな言葉を残すと僕は自らが描いた絵画を俯瞰で観ながら…

何度と無く頷いてみる。

これで正しいのだと自分に言い聞かせながら…


「静の成長は凄いね。初めて親になって知ったけど…

子どもの成長は早いとかって言葉を聞いたことあるけど…

本当なんだね」


「そうね。将来どんな子になるのかしら」


「そうだね。どんな道でも生きていけるように…僕がしっかりと稼いでおかないと」


「ふふっ。そうだね。どんな夢を追いかけても生きていけるように…

多田もサポートするよ」


「ありがとう。出来るだけ僕の力で…って…

静が自分の力だけで成功するかもしれないからね」


「そうね。私達…心配しすぎだね」


そこで僕らは軽く微笑み合うと本日も二人きりになれる時間に…

二人共癒やされて過ごすのであった。

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