第2話頂きに至る。極みに至る。
静は僕が望むように真名に似ている気がしていた。
まだ外見とかパッと見の印象という話でしか無いのだが…
それでも僕はそれが嬉しく感じていた。
僕にも似て欲しいと思う反面…
少しだけ怖かったのだ。
それはきっと高校生の頃に負った傷やトラウマが原因だと思われる。
僕と同じ様な傷を…
静には絶対に負って欲しくない。
そんな事を思うのは親バカでもなく父親として当然な想いなはず。
僕は自分にそう言い聞かせると本日もベビーベッドで眠る静をあやしていた。
静が再び熟睡すると僕は作業着に着替えて作業室に向かうのであった。
本日もリラックスをして筆を執る。
キャンバスに脳内のイメージやアイディアをぶつけ続ける。
脱力して緊張しないように力まないように。
とにかく自然体の僕で絵を仕上げていく。
記憶を取り戻して精神が統合されて初めての作品が出来上がっていた。
僕はそれを眺めてふぅと息を吐く。
今までの作品とはまた違う。
一皮剥けたような作品を目にして僕の心は躍っていた。
やっと頂きに到着したような…
極みに至ったような…
そんな感覚を覚えていた。
間違いなく生涯で一番の作品。
それを確信した僕は真名のいるリビングへと向かった。
「作品出来たよ」
僕の言葉を耳にした真名は嬉しそうな表情を浮かべて作業室へと足を向ける。
作業室へと共に入ると真名は僕の作品を眺めて…
彼女は明らかに作品を観て…
真名は言葉を失っているようだった。
「えっと…なんて言えば良いんだろう…」
明らかに動揺している真名を見て僕の作品は駄作だっただろうか。
そんな不安がよぎっていた。
何か言葉をかけようかと思い悩んでいると…
真名はウンウンと何度も頷いて目をウルッとさせているようだった。
そして…
真名はどうしようもない表情で口を開く。
「凄いね…何ていうんだろう…後世にも残る偉大な作品って感じがする…」
真名の最大限の称賛の言葉を受けて僕の心は完全に救われていく。
嬉しさや感動が余ったのか真名は僕を強く抱きしめる。
感情が爆発した真名は僕を愛おしそうに強く強く抱きしめていた。
僕は今作業着を着ているというのに…
彼女は私服が汚れることに何の抵抗もないのだろうか。
僕を強く抱きしめると優しくキスをする。
「凄い作品が出来たご褒美だよっ♡」
美しい笑顔と優しい言葉。
久しぶりに感じるお互いの温もりに僕らは興奮にも似た感情を抱いていたことだろう。
僕らは向かいあうように抱き合うと真名はそのまま僕の頭を撫でる。
そこから僕らはいい雰囲気になってしまい…
お互いの服を剥ぐとそのまま貪るような行為へと発展していくのであった。
行為が終わってシャワーを浴びていると静の泣き声が聞こえてきて僕らはすぐに脱衣所に出る。
バスタオルで全身を拭いてすぐに静の下へと急いだ。
「お腹すいた?」
真名は静に優しく問いかけるとそのまま授乳の時間にするようだった。
「バスローブ持ってくるよ。風邪引いたら大変だから」
「ありがとう。助かる」
真名にバスローブを掛けてあげると僕はドライヤーを持ってくる。
そのまま授乳中の真名の後ろに立って髪を乾かしてあげる。
彼女の長い髪をしっかりと丁寧に乾かしていた。
そんな僕に少しだけ申し訳無さそうな表情を浮かべて口を開いた。
「髪を切ろうと思うんだけど…」
「ん?長い髪も素敵だけど?」
「うん…私も長いの好きなんだけどね…」
「じゃあどうして?」
「やっぱり家事や育児の時に邪魔で…
乾かすのに時間かかるし…確実に時間を取られるからね。
まぁずっと長くしていたから…気に入っているんだけどさ…」
「そうだね。でも真名さんならどんな髪型でも似合うと思うよ」
「ベリーショートとかでも?」
「もちろん」
「断言するんだね」
「真名さんなら何でも似合うよ」
「ふふっ。ありがとう」
僕らはそこで会話を一時中断すると時計に目を向けていた。
真名はウトウトとしだして授乳しながら寝落ちしそうになっているようだった。
トントンと肩を叩くと真名は気付いてシャキッと背筋を正した。
「ごめん。久しぶりだったから…疲れたのかも」
「そうだね。授乳が終わったら寝たら?」
「うん…そうする…」
僕は手早く真名の髪を乾かすと彼女は授乳を終えて静と共に寝室へと向けて歩き出すのであった。
そして後日…
僕と真名は多田家に訪れておりお祖父様とお父様に出来上がった作品を観せていた。
それを観た多田家の面々は…
信じられないほどの金額を提示してきて僕は少々困ってしまう。
しかしながら多田家は僕の絵にそれ以上の価値を見出しているようだった。
「大丈夫だ。多田はそれぐらいの金額で傾いたりしない」
その力強い言葉を受けて僕は多田家の底力の一端を見たような気がした。
「これからも精進するように。
それにしても今までにない程の素晴らしい作品をありがとう」
そうして僕は真名の車に乗り込んでアトリエへと帰宅するのであった。
再び僕の作品が世界中に轟くのは…
そう遠くない話なのであった。
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