第14話アトリエにて立食パーティ。仲間と友と共に

真名の妊娠を知ってから時は経つ。

日中は家事を率先して行っていた。

日頃の感謝を込めて真名には休んでもらっている。

僕らの第一子の為に真名には安静にしてもらっていた。

日中の家事が終わると僕は真名に呼ばれるまで作業に集中していた。

短い時間で深く集中するのも僕には性に合っていたようだ。

明確に時間を制限して真名のためだけを思って作業をしていた。

家事だって真名とお腹の子のためしか思っていない。

僕は彼女に生かされてきたのだ。

その恩を返すために僕はここから真名が安定期に入るまでこの様な生活を送り続けるのであった。



安定期に入った四月のことだった。

葛之葉雫は首席で卒業をして宣言通り父親のゲーム会社に入社したようだ。

香川初と白根桃は今年もSグループのようだ。

彼女らに聞いたところ…

僕の存在は芸大の七不思議に含まれているようだ。


「芸大キャンパスには幻の在校生がいる。

その正体は世界的画家の多田亮平らしい」


そんな内容の噂が出回っているんだとか…。

噂ではなく事実なのだが…。

では何故その様な噂が僕の耳まで届いたかと言うと…。



現在。

僕のアトリエでホームパーティが開かれているからだ。

慶秋と咲。

深瀬キキに葛之葉雫。

香川初と白根桃。

奈良鶫に神田杏に四条マリサ。

結婚式に参列してくれた人達に感謝の意味を込めて僕らはホームパーティを開いていた。

それと僕の海外美術館での個展の成功や真名の妊娠などを祝うために皆には集まってもらっていた。


「そんなわけで多田くんの噂は芸大キャンパスでも有名だよ」


立食パーティ方式で食事をしていると香川初が僕に向けて苦笑しながら口を開いた。


「そうなんだ。噂というか…事実だね」


僕も苦笑して応えると後ろにくっついていた白根桃は少しだけ緊張した面持ちで僕のことを覗いていた。


「白根さん。どうしたの?」


香川初の後ろに隠れている彼女に視線を向けて声を掛けると彼女は少しだけオドオドした表情で口を開いた。


「いや…多田先輩が遠い存在に思えてしまって…

今同じ空間にいるのも烏滸がましい気がして…

だって…海外でも評価されている有名人と一緒の空間にいられるなんて…

可笑しな感覚です…」


「そう?僕は芸大に通っていた頃と何も変わっていないよ。

ずっと白根さんの先輩であることも変わらない。

昔と同じ態度で接してくれたら嬉しいな」


「そうなんですか…?

私なんかがフランクに接して良いんでしょうか?」


「当然でしょ?同じ人間同士だし昔と変わらないで居てほしいな」


「わかりました!ではそうさせて頂きます!」


「うん。食事も沢山用意したから良かったらいっぱい食べていってね」


「はい!頂きます!」


そうして元気いっぱいになった白根桃は食事に向かう。

香川初は僕に砕けた表情で向かい合うと戯けた仕草を取った。


「奥様が妊娠中なのに悪いね。

全員で押しかけてしまって…」


「いやいや。僕が招待したんだし。

全然構わないよ。

真名さんだって嬉しそうな表情を浮かべているよ」


「そっか。ってか雑賀先輩は多田くんのお姉様と結婚したんだ?」


「そう。今は野田慶秋で僕の義理の兄」


「なんか不思議だね。

同じ芸大キャンパスで切磋琢磨していた間柄だった二人が…

今では義理の兄弟」


「確かに。元Sグループの僕らは友人同士だったけど…

今では兄弟か…変な感じだね」


そこで微笑んで見せると深瀬キキと葛之葉雫が僕らのもとにやってくる。

彼女らは確実に酔っているようでダルい絡みをしてくる。


「ってか!私の恋は絶対に実らないんですか!?」


深瀬キキは僕と遠くの場所にいる慶秋を眺めて愚痴っている。


「まぁまぁ。世の中の男性は多田くんと慶秋先輩だけじゃないんですから」


葛之葉雫は頬を赤くして深瀬キキを窘めていた。


「わかっているけど…!報われない!」


「その内に報われますよ」


「その内って!?いつ!?」


「わかりませんが…」


葛之葉雫はどうにかして深瀬キキを窘めていたが…

彼女はやけ酒とでも言うように高いワインやシャンパンをひとしきり開けて飲み続けていた。

食事も高級そうなものばかりを口にしていて僕らは苦笑せざるを得ない。

しかしながらそれで溜飲が下がるのであれば…

僕らに文句など無い。



慶秋と咲と真名は三人で輪になっており楽しげに話をしている。

僕はそれを眺めているだけで他の仲間たちと話をしたりして過ごしていた。



深瀬キキはプロとしてスポンサーが付きながら活動をしているようだ。

慶秋と同じスポンサーの元で好き勝手自由に活動に専念できている。

時々慶秋とお互いの作品についてや活動方針について話し合っているんだとか。

今でも仲の良い先輩後輩関係は継続しているようだ。



葛之葉雫は芸大を首席で卒業したという肩書を背負いながら父親の会社に入社。

そして既に一目置かれるような社員へとなっているようだ。

誰も彼女のことをコネ入社だなんて言えない。

その様な状況が肩書とともに存在している。

誰にも文句は言われずに仕事に専念できているようだ。



奈良鶫は美術関係の職場で知識を披露しているようだ。

聞いた話によると彼女は就職先の選択肢がかなり多くあったようだ。

それは一重にSグループの監督を務めていたからだという。

その実績により彼女の評価は凄いものだったんだとか。

そんなわけで現在の就職先は恵まれている環境のようだ。

僕はそれに安堵したのは秘密である。



神田杏は実家に戻って代々受け継がれてきた技術と芸大で培ってきた技術を複合させているようだ。

上手に相乗効果を生めないかと日々試行錯誤しているようだ。

僕はほぼゼロから新しい技術を生み出そうとしている彼女に対して尊敬の念を抱いた。



四条マリサは自らを動画配信サービスを利用して売り込みまくったようだ。

そして本物のプロ演奏者に声を掛けて貰ったり声を掛けていったりしていたようだ。

そして今では複数名の仲間とともに第一線で音楽の仕事をしているんだとか。



各々がしっかりと職につけて…

何よりも第一線で活躍している元Sグループの全員を誇りに思うのであった。



皆が帰った後に僕と真名は少しだけ懐かしい話をしていた。


「病院で俯いていた亮平くんが…今ではこんなに元気になって。

本当に良かったよ。

私も救われた気分…」


「そうだね。僕も本当に救われたよ…」


「あんなに沢山の友達や仲間が出来てよかったね」


「本当にね。普段は孤独で作品に向き合う分…

たまに友達や仲間と一緒にいたくなるときもあるね」


「そうだろうね。皆いい顔していたよ」


「そっか。それを聞けて安心したよ」


「亮平くんもいい顔していたよ」


「ホント?」


「ホントっ♡」


そこで僕らは軽くイチャイチャすると彼女の体に障らないように本日の疲労を癒すようにゆっくりと休むのであった。

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