第11話海外美術館にて個展。日常が変化する予感

海外美術館での個展前日のこと。

僕と真名は多田家のプライベートジェットに乗って現地へと赴いていた。

何時間ものフライト時間が過ぎると再び海外へと足を踏み入れていた。


「美術館に行ってみるか?」


多田のお祖父様は僕と真名に朗らかな表情で問いかける。


「私は仕事を済ませてくる。夕食は共に出来るだろう」


多田のお父様はその様な言葉を口にすると秘書と執事と主に空港を後にする。


「私とお母様はショッピングに行ってくるわね」


多田のお母様とお祖母様は揃って空港を出ると街へと繰り出すようだった。


「では僕らは美術館へと向かいたいです」


「そうだな。そうするべきだ」


お祖父様は断定的な言葉を口にして何度も頷いていた。

僕らは多田の車に乗り込んで運転手に行き先を伝えていた。


海外での初個展。

僕はワクワクとドキドキで変になりそうなテンションをどうにか抑えていた。

それを察したのか真名は僕の手を力強くぎゅっと握る。


「安心して。亮平くんなら成功するから」


言葉にはしなかったが、もしかしたらこの様なエールを送ってくれていたのかもしれない。

それを上手に受け取ると僕は自らを鼓舞するように深呼吸を一つした。


「大丈夫じゃ。安心するが良い」


お祖父様は僕らを交互に見つめると柔和な笑顔を向けてくれる。

それに静かに頷くと目的地まで少しのドキドキを感じながら…

車内で過ごすのであった。



目的地に車が到着すると僕らは降車する。

美術館の前には僕の個展をアナウンスるようなポスターなどが無数に貼られている。

海外の言語で何を書かれているのか僕には理解できなかったが…

真名とお祖父様の表情を見るに…

かなり歓迎されているようだった。


関係者のパスを表示すると僕らは個展前日に中へと入れてもらえる。

そして美術館の中に広まっている異様な光景に僕は言葉を失ってします。


僕が描いたいくつもの作品は厳重な警備体制で守られており一つ一つにしっかりとスポットライトが当たっている。

どの作品も非常に目立っており僕はこの美術館の展示の仕方に感動していた。

どの様に言葉を尽くせば今の僕の感情を表現できるだろうか。

そんな事を考えさせられるほどに超越した個展だと思われた。


「凄いじゃろ?Jがプロデュースしたんだ。一流な仕事をしてくれたの」


多田のお祖父様は嬉しそうに微笑むと顎を軽く擦っていた。


「その…Jは何処にいるか分かりますか?」


「ん?連絡してみるかの」


お祖父様はスマホを取り出すとJに電話をかけているようだった。

美術館の少し離れた場所で着信音が聞こえてくる。


「あぁ…直ぐ側にいるみたいだ」


お祖父様は僕らに軽く手を持ち上げるとその足で音の鳴る方へと向けて歩き出した。

僕と真名は再び作品を眺めて感嘆のため息を吐いていた。


「本当に夢みたいだ…」


僕の何気ない一言に真名はクスッと微笑んだ。

何がおかしいのかと隣を確認すると真名は美しい微笑みを僕に向けている。


「そうだね。もしもタイムスリップできたとして…

子供の頃の亮平くんにこの事実を伝えても…

信じてくれないほどの偉業を成し遂げたわよ。

本当に妻として誇りに思うわ。

おめでとう」


「ありがとう。真名さんからタイムスリップなんて非現実的な言葉が出てくるとは思わなかったよ」


「それほど私もロマンチックな気分に浸っているし…

非現実を信じてしまうほどにテンションが上っているのよ」


「そっかそっか。真名さんも同じ気持ちだったんだね」


「当然でしょ?旦那の活躍は自分のことのように嬉しいわよ」


「ありがとう」


僕らは二人の時間を少しだけ過ごすと美術館の奥からお祖父様とJがゆっくりとした歩幅でこちらに向かってくる。

僕はJの下へと歩いて向かうと右手を差し出した。


「今回は本当にお世話になりました。

物凄く感動的な個展になると確信しました。

本当にありがとうございます」


差し出した右手をJは快く受け取った。

そして朗らかな表情を浮かべるとお祖父様と同じ様に顎のあたりを軽く擦った。


「一流には一流の仕事をするのは当然だろ?」


Jは気さくに微笑むとそんな賛辞の言葉を贈ってくれる。

それに何とも言えない表情で微笑むと頷いた。


「ありがとうございます」


深く頭を下げるとJはそれに首を左右に振った。


「それはこの国では良くない態度だ。

あまりペコペコしていると自分の価値を落とす。

毅然とした態度で感謝の言葉だけを伝えるべきだ」


「はい。改善いたします」


「よし。明日もここに来るのか?」


「そのつもりです」


「分かった。顔バレ防止はしてくるのだぞ?

それと申し訳ないのだが…

きっと中には入れないだろう。

期間中は満員で…

入れるとしても関係者入口からで少しの時間だけだろう」


「僕の顔って認識されているんですか?

それに…そんなに満員になる予定なんですか?」


「当然だろ?外のポスター見てないのか?」


「あぁ…」


そうして僕は先程のポスターを思い出していた。

顔写真がデカデカと印刷されていたことを遅ればせながら理解して…。

苦笑するように頷く。


「わかりました。変装してきますね」


「それが良いだろう。芸術の国だ。何処に居ても身バレには気を付けてな」


「了解しました」


そうして僕らは美術館を後にして車に乗り込むのであった。



車はお祖父様の指示によって目的地へと向かっていた。

街を抜けた郊外の別荘地に多田が所有する豪邸が存在していた。

海外にも別荘を持つとは…

僕はどうしようもない思いに駆られながら…

門を潜り抜けて中へと入っていく。


「おかえりなさいませ」


海外の別荘でも普段通りに使用人が僕らを歓迎してくれる。

中に入って広間に通されると僕らは少しの時間紅茶などを飲んで休んでいた。

夕方頃にお父様が帰ってきて…

僕らは海外の地でも揃って夕食を共にするのであった。



翌日のこと。

個展当日だ。

僕は完璧に変装をすると真名とともに美術館へと赴いていた。

そこには想像を絶する光景が繰り広げられている。

信じられないほどの行列が出来ており…

中は満員だった。

これでは今から並んでも僕らは入れそうもなかった。

それともチケット制なのだろうか?

僕はその辺りを詳しく聞いていなかったことを遅ればせながらに気付く。

それなので今回は外からその光景を写真に収めるだけだった。


個展当日は結局真名と街を歩いて過ごす。

ショッピングをしたり食事をしたり…


閉館時間になる頃に僕らは再び美術館の傍まで足を運んでいた。

最後尾が本日最後のグループのようで…

嬉しそうに楽しそうな表情を浮かべていた。

僕はそれだけ確認できただけで満足すると本日は美術館に入ることもなく多田の別荘へと帰っていくのであった。



そこから一週間ほどの個展期間があったのだが…

僕らは関係者入口から一度入れて貰えただけで…

通常入口から入ることは能わない。

それほどの人気を誇る個展になったことを僕は光栄に思った。



そして自宅であるアトリエに帰ってくると…

僕の海外美術館での個展のニュースはワイドショーなどで多く取り上げられていた。

それに驚きながら…


僕の日常は少しずつ変化していきそうな予感を覚えた…。

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