第10話話しが脱線したようだが繋がっている

亮平が世界に羽ばたくお話の前に…。

今回は別の二人のお話。

と言えば分かる通り。

想像している二人のお話なのである。



「慶秋くん。亮平に会いに行ったんだって?」


恋人である咲は休日に僕の住むマンションへ訪れては朝食を作っていた。

僕は様々な作品集を眺めてインプットという名の勉強に励んでいた。


「うん。なんだか行き詰まっているみたいだったからね。

助言するつもりで行ったんだけど…

まるで無意味だったみたいで…」


「まぁ…姉が言うのも変だけど…亮平は昔から変わっていたから」


「変わっていた?」


「うん。何に悩んでいるのか何に行き詰まっているのか。

周りにとってはそれでいいって思えることでも亮平は何か気に食わないみたいで…

幼い頃は特に生きづらそうにしていたよ。

上手に言葉が出てこないし。

何を伝えたいのか何に疑問や文句があるのか。

自分でも良くわかっていなかったんだろうね。

感覚的に違う。

みたいなことが多くあったんだよ」


「そうなんですね。確かに今回も何に悩んでいるのか。

僕にはさっぱりでしたから。

あそこまでの高みにいる人間でも悩んだりするんだなぁ〜。

なんて他人事のように思ってしまいました」


「それぐらいの対応で良いんじゃない?

一緒に深く悩んであげる必要はないわよ。

昔から自分でどうにかして悩みを解決するタイプだし。

それに今は真名がいたり多田家の人間のサポートがあるでしょ?

慶秋くんは自分の作業に没頭するほうが良いと思うわよ。

いくら後輩で友人だと思っていようとも。

まずは自分の活躍を第一に考えないと」


「そうですね。その通りです」


「それで?慶秋くんは何かに悩んで亮平に連絡したの?」


「まぁ…そんな感じですね。でも大丈夫です」


「本当に?私に話してみたら?」


「………」


そこで僕は言葉に詰まってしまう。

もしかしたら勘の良い彼女だったら気付いているのかもしれない。

けれど僕自身の口から直接聞きたい様で追随する言葉を口にすることはない。

どうしたものかと悩んだ僕は少しだけ逃げるような形で別の提案を口にする。


「そろそろ同棲しませんか?」


僕の提案に咲は苦笑するように微笑むと軽く嘆息する。


「そんなことで悩んでいたの?」


「………」


再び言葉に詰まった僕に彼女は先を促すようにして手を差し伸べてくる。


「えっと…気が早いのかもしれないんですけど…」


「うんうん。順序を飛ばしたくなかったんだね。それで?」


「言いたいこと…もう分かっていますよね?」


「分かっているよ?でも慶秋くんの口から直接聞きたいな」


「じゃあ…」


そうして僕は意を決して用意していた言葉をしっかりと口にするのであった。



「僕の人生で初めて好きになった人が咲さんです。

今後他に好きになる人はいないです。

僕には咲さんしかいないって思えます。

だから…

もし良かったら僕と結婚してください」


直接的な言葉をしっかりと口にすると咲は朗らかな表情で美しく微笑む。


「もちろん。私も人生で初めて好きになった人だよ。

私からも…

私で良ければ結婚してください。

と言わせてください」


お互いがプロポーズの言葉を口にして顔を見合わせる。

表情を崩した僕らはお互いに抱き合うとキスをする。

そうして僕と咲は婚約を果たすのであった。



後日。

両家にて挨拶を済まして僕らは婚姻届を役所に提出する。

それを受理して貰い…

僕らは晴れて夫婦となるのであった。




姉と慶秋が結婚したことを僕は遅れて知ることになる。

真名は当日に知ったようだったが僕は作業に没頭しすぎていて他のことに集中できなかったのだ。

一日中作業室に籠もっては海外の美術館での個展に向けて新作を作り続けていた。

ここで評価されればかなりのアドバンテージになるはずだ。

それを理解していた僕は締切までひたすら作業をしていた。

いつまでも何処までも続くような深い集中。

溢れてしまうほどのアイディアを一つ残らずに掬い上げて作品へと昇華する。

とにかくキャンバスに今までの全てをぶつけていた。



どれだけの日々だっただろうか…

僕は真名の事だけを想ってキャンバスに筆を走らせていた。

日々の作業の中でも真名との時間だけはいつでも大事にしていた。

他のことには手がつかなくても…

真名との時間だけはいつでも大事にしていたのだ。

その御蔭か僕の作品は明らかに今までよりも段違いにレベルアップしていたことだろう。

真名という存在のお陰で僕は今日も生きている。

芸術家としてもそうだし一人の男性としてもそうだ。

彼女がいなければ僕は今頃路頭に迷っていただろう。

そんな事を深く理解すると同じぐらい深く感謝をするのであった。



締め切り期日が過ぎて作品を提出すると僕は集中を解き真名との時間を多く持つ。

出来るだけ二人で過ごして。

作業中に出来なかった外でのデートなどをして過ごす。

その時の何気ない会話で姉と慶秋が結婚したことを知る。

僕は簡単にだが姉と慶秋にお祝いのチャットを送る。

そうして日々が過ぎていき…。



僕の海外美術館での個展日は迫ってきているのであった。

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