第7話次の個展へと向かう

とある日のことである。

真名は姉である咲と二人で女子会を開くらしく夕方まで家を空けていた。

たまには息抜きをしたほうが良いと僕も真名を送り出して作業室にて作業を行っていた。

本日も油絵の続きに集中しており作業に没頭していた。

真名を見送った昼過ぎから夕方までノンストップで作業を行っていた。


夜の帳が降りる頃に真名は帰宅してきて彼女は僕にプレゼントを贈ってくれる。


「咲ちゃんと一緒にプロの画家御用達の文房具屋さんに行ってきたんだけど…

これ…良かったら…」


真名はそう言うとキレイに包装された箱を手渡してくる。


「なんだろう。楽しみだな」


薄く微笑んで包装を破ると中身を確認せずとも箱のパッケージを見た瞬間に理解する。


「高級クレヨンだ…これ…高かったでしょ?」


「高いと言っても何十万もするものじゃないから…

でもなかなか手に入らないで有名なんでしょ?

たまたま二つだけ残っていたから…私と咲ちゃんで買ったんだ」


「マジか…凄く嬉しい。

これ本当に手に入らないんだよ…本当に嬉しいな…」


「そんなに喜んでくれると嬉しいな…」


「明日から早速使わせてもらうね」


「うん。昨日まで描いていたのはどうしたの?」


「今日で描き終えたよ。だから明日から気分転換にこのクレヨンで絵を描こうと思うよ」


「そっか。出来上がった作品は多田に送る?」


「いや…今回のはアトリエから見える庭の景色を描いた作品なんだよね。

だからここに飾りたいなって」


「そうなの?観ても良い?」


「もちろん」


僕と真名はその足で作業室に向かうと出来上がった油絵を観ることになる。

真名は僕の作品を眺めて嬉しそうに微笑んでいた。

何がそんなに嬉しいのか…

僕は少しだけ心配そうな表情で真名の事を眺めていた。


「良い絵だね。

幸せな空間が広がっているって思う。

私には分かる。

アトリエに飾ろう。

私達の幸せに満ちた生活が見て取れるようだよ」


真名はしっかりとした感想を口にすると嬉しそうに愛おしそうに絵画を眺めていた。

少しだけ涙を流している様にも思える真名の肩に手を回すとそのまま抱きしめる。


「いつまでも幸せな二人で居ようね?」


「当然だよ」


真名からの問いかけに僕は自信に満ちた表情で応えるのであった。



そして翌日。

朝食を終えた僕は真名と共に庭で食休みをしていた。


「そうだ。今日はここで作業しようと思う」


「ん?良いんじゃない?私も家事をしながら亮平くんの様子が見えるし」


「うん。随分暖かくなってきたからね」


「暖かいって言うか…もう既に暑くなってきてない?」


「確かに。夏だね。日陰で作業するよ」


「うん。じゃあ私は家事に向かうね」


「分かった。昨日くれたクレヨンで作業するよ」


「嬉しい。出来上がったら観せてね」


「うん。楽しく使わせてもらうよ」


僕の言葉に真名は薄く微笑むとそのまま家の中に戻っていく。

早速僕は昨日真名から贈られた高級クレヨンとスケッチブックを手にすると作業を行う。

何を描こうかと悩みながら辺りを眺めていた。

庭先の絵は描いたので本日は何を描こうか…。

そんな事を悩みながら家の中を眺めた。


「あぁ…そうか…」


そんな独り言が漏れると僕は家の中へと身体を向けて座ると不慣れなクレヨンを手に馴染ませるようにして動かしていく。

僕が描こうと思っているのは家事を行っている真名を描くことだった。

家の中の様子を描きながら…

いつものように家事を行ってくれている真名を描いていた。

きっとこれが僕らの幸福的な日常風景なのだろう。

そんな事を思いながら僕はクレヨンを動かしていくのであった。



「一端作業止めたら?」


昼頃に真名は昼食を庭のテーブルまで持ってくると薄く微笑んだ。

深い集中に潜っていた僕だったが真名の存在はいつだって感じられた。


「うん。お昼作ってくれたの?」


「まぁね。それに外で作業するなら水分と塩分をしっかりと取らないと。

熱中症や脱水症状になるよ」


「あぁ…そうだね。喉乾いていたの忘れてた」


「ほら。スポーツドリンク持ってきたよ」


「ありがとう」


感謝の言葉を口にすると僕はスポーツドリンクを受け取る。

そのまま口に運ぶと喉の渇きを癒していった。

ふぅと息を吐いて軽く伸びをすると真名の作ってくれた昼食を頂くことにする。


「サンドイッチだ。色んな種類あるね」


「うん。家の中を観ながら作業していたから…なんとなく張り切っちゃった」


「ははっ。嬉しいな。早速頂いて良い?」


「どうぞ」


真名の作ってくれたサンドイッチを手にすると口に運んでいった。

どのサンドイッチも絶品で僕の表情はほころんでいく。


「どれも美味しいよ。ありがとうね」


「いえいえ。私もお腹空いてきた」


「一緒に食べよ」


「うん。作業が終わったら運動しようね」


「そうだね。いつまでも一緒にいるためには健康でいないとだね」


「そうそう。それに体型維持ね。亮平くんにだらしない体型だって思われたくないから」


「僕も同意見だよ」


僕らは他愛のない会話を繰り返しながら昼食の時間は過ぎていくのであった。



昼食を終えた後。

僕は再び作業に入る。

夕方あたりに作業を終えて作品を真名に見せる。


「本当に亮平くんが私のために描いてくれる絵は…どれも優しいね」


「そう思う?真名さんのために描いたってバレてるの?」


「バレていると言うか…私がそうだって信じたいだけかも」


「本当にそうだから…優しさが滲み出ているのであれば…幸いです」


「うん。絵からも十分に愛が伝わるよ。ありがとうね」


「こちらこそいつもありがとう」


二人して朗らかな空気に包まれると夕食前に軽い運動をして過ごすのであった。



アトリエには僕が真名の為に描いた絵画がいくつも存在するようになる。

真名との幸せな空間に二人きりで包まれながら…



次の個展へと向けて作品づくりに没頭する日々が迫ってきていた…。

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