第7話年末年始の日常

世界には年末が訪れている。

僕と真名は大掃除をしながら今年の溜まった汚れを落としていた。

全ての部屋の隅々までを掃除していた。

もちろんエアコンのフィルター掃除や窓拭きなど見えないところを含めて様々な場所を掃除して過ごしていた。

殆ど一日掛けて大掃除を済ませると夕飯は久しぶりにデリバリーのピザを注文していた。


「夕飯作る時間なかったから…ごめんね?」


何故か真名は謝罪の言葉を口にするので僕は首を傾げた。


「なんで謝るの?何も文句ないよ」


「ホント?それなら良かった…」


「それよりもお疲れ様。ビールでも飲めば?」


「え…あ…良いの?」


「昨日買い物行った時に買ったの知っていますよ。冷蔵庫の奥の方に隠したでしょ?」


「あぁ〜…バレてた?」


「はい。なんですぐバレることするんですか?」


僕は問い詰めるわけではなく純粋に疑問に思ったことを口にすると彼女は少しだけ複雑な表情を浮かべる。


「うーん。何ていうか…亮平くんはまだ飲めないでしょ?

だから隠すのかも。

これでも亮平くんが道を誤らないように気を遣っているんだよ?

二十歳越えないで飲酒なんて…違法だし…

いつか振り返った時に確実に黒歴史になると思うな。

悪いことはするべきじゃないでしょ?」


「なるほど。僕を思って隠してくれていたんですね。

でも安心してください。

僕だって二十歳を越えた人と付き合うってなった時から覚悟していましたよ。

相手は飲酒や喫煙をする可能性があるって考えていました。

真名さんは飲酒だけですけど。

僕は自分自身に言い聞かせて無責任な行動は取らないように心がけています。

二十歳越えてから…一緒に飲みましょう」


「良かった。亮平くんがしっかりしている人で…」


「普通ですけどね…僕の周りには悪さを働こうとする人がいませんし。

周りに流されるような環境じゃないことに感謝しています」


「そっか。友人関係は自分で決めているんだから。亮平くんがしっかりしているってことでしょ?」


「そうだったら良いんですけど…」


「きっとそうよ」


そんな他愛のない会話を繰り返しながら真名はキッチンの冷蔵庫へと向かった。

そのまま中から缶ビールを取り出すとコップに注いで一口嗜んでいた。


「やっぱり疲れた後は格別に美味しいわね」


真名は少しだけ砕けた態度で冗談のような言葉を口にした。


「結婚したら態度がもっと砕けたものになったのが嬉しいです。

僕に心を許してくれたんだなって感じます」


「そう?結婚する前と変わっった?」


「少しだけですけどね。僕にしかわからない程度ですよ」


「それなら良かったけど…気をつけるね?」


「何をですか?そのままでいてください」


「うん。本当に亮平くんで良かった…」


「何を言いますか。僕の方こそですよ」


二人で少しだけいちゃつくような会話をしながらデリバリーのピザが届くのを待つ。

そしてお目当てのピザが届くと僕らはそれを食べながら映画などを観て過ごす。

夜はだんだんと深くなっていく。

僕らはいつものように二人きりの甘い時間を過ごしていくのであった。



大晦日がやってきていた。

僕と真名は両家に挨拶に向かう。

クリスマス当日に結婚の挨拶と報告に向かっていたため本日は少しの時間で帰宅することになった。


「すまない。年末年始はいつも多忙でな。

折角足を運んで頂いたのに少しの時間で申し訳ない。

何か困ったことがあればいつでも報告すること。

じゃあ悪いが先に急ぐのでな。

良いお年を」


多田家当主である真名の父親は軽く挨拶をするとすぐに次のスケジュール先に向かうようだった。

僕らは深く頭を下げることぐらいしか取れる行動がなくて後はその場で立ち尽くしているだけだった。


「折角起こし頂いたのに申し訳ありません。

当主に代わり私からも謝罪の言葉を言わせてください。

申し訳ありません」


使用人の好々爺は僕らに深く頭を下げてくる。

僕らは微笑んで頷いて謝罪を受け入れるとそのまま多田家を後にする。

その足で野田家に向かうのだが…。


「野田くん…ってもう野田じゃないんだったね…

じゃあ亮平って呼んで良いかい?」


実家に顔を出すとそこには雑賀慶秋の姿が存在している。

それに少しだけ驚いたような表情を浮かべる。


「雑賀先輩。もちろんですよ。名前で呼んでください」


それに微笑んで応えると彼は僕の目を真っ直ぐに見つめて同じ様な表情を浮かべる。


「僕のことも慶秋って呼んで欲しい。

お祖父様が付けてくれた名前なんだ。

僕はこの名前に誇りを持っているから…名前で呼んで欲しい」


「わかりました。それで?慶秋は姉ちゃんと?」


「うん。咲さんと挨拶に来たんだ。亮平もでしょ?」


「そうだね。姉ちゃんは?」


「えっと…亮平たちも来るって予想していたんだと思う。

お昼ご飯を買いに行ったよ」


「慶秋を置いて?」


「うん。すぐに亮平が来るって言われたから」


「そんな連絡のやり取りはしていないんだけどな…真名さんはした?」


僕の言葉に真名は首を左右に振って応えた。

それを目にしてまたしても姉の鋭い勘が当たったことに苦笑する。


「咲さんだから…仕方ないよ。本当に勘が鋭い人だから」


「だね。付き合って間もないけど…姉の勘が働いところに遭遇したことあるの?」


「もちろん。僕らが付き合うって話になった時も…

咲さんに言われたんだ。


私達は絶対に付き合うって…

私の勘は外れないって言われて…


僕もその時にはその気だったし…

本当に勘が鋭い人だって思ったよ…」


「そっか。最初は驚くよね。今後もそんなことが起こると思うけど…」


「うん。覚悟しているから大丈夫」


そんな話をしていると丁度姉が帰宅してきて買ってきた昼食をテーブルに広げた。


「お寿司買ってきた。大晦日だし良いよね?」


姉は母親に尋ねており僕らは少しだけ表情を崩していた。


「お寿司なら年始にも食べられるけど…」


母親の何とも言えない返事に僕らは苦笑する。


「お寿司はいつでも食べたいのよ」


姉の暴論のような言葉に再びその場の全員が苦笑する。

しかしながらお腹が空いているのと僕らもお寿司はいつでも食べたい。

そんな事を思いながらありがたく昼食を頂くのであった。




「二人は大晦日何処で過ごすの?」


僕は姉と慶秋に世間話のようにして問いかける。

実家を揃って出た僕らは車に向かっていた。


「うん。咲さんと二人で僕のマンションで過ごすんだ」


「そっか。仲良しで良かったよ」


「うん。二人以上にお似合いのカップルになりたいよ」


「それはどうでしょうか」


などと微笑んで見せると彼らは僕らに向けて真面目な表情で口を開く。


「結婚おめでとう。結婚式はちゃんと呼んでくれよ?」


「もちろん。二人もそのうちでしょ?」


そこで微笑んで見せると姉が割って入る。


「結婚おめでとう。でも慶秋くんを焦らせないで。

今は絵画に集中しているところなの。

私のことで心労をかけたくないの。わかるでしょ?」


姉は僕にその様な言葉を口にして苦い表情を浮かべる。


「ごめんごめん。そんなつもりじゃないから」


「分かっているけど。二人共お幸せにね」


「そっちこそ」


僕らはそんな言葉を残すと車に乗り込んだ。

運転席でエンジンを掛けた真名は僕の方を向いて微笑んでいた。


「二人共幸せそうだったね」


「本当にね。姉のあんな顔見るの初めてだったから…動揺した」


「そうだね。咲ちゃんって恋愛に興味無さそうだったもんね」


「そう。だからびっくりしたよ。慶秋のことちゃんと想っているんだって…

嬉しいのと同じぐらい動揺した…」


「まぁ。今まで良い人が見つからなかっただけで…咲ちゃんはモテるから」


「そうだね…」


僕らはその様な会話をしながら車を発進させる。

僕と真名は自宅であるアトリエへ。

姉と慶秋はマンションへと帰宅するのであった。



大晦日の夜は年越しそばを食べながら僕らはテレビを流し見していた。

ゆったりとした時間を過ごしながら…。

僕らの大切な一年は終わりを迎えようとしている。

除夜の鐘が外で鳴り響いている。

その心地の良い音色に身を委ねながら…。

僕らは早朝まで眠りに着くのであった。



早朝の日が昇る前に僕らは家を出る。

近所の小高い山に向かうと僕らは登頂する。

初日の出を待ちながら温かなスープを飲んでいた。

今か今かとその時を待っていると…

初日の出は上がり僕らは新年が明けたことを祝福するのであった。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


二人揃ってその様な言葉を口にすると本日は自宅で二人きりの時間を過ごすことになる。

そう約束している。

僕と真名の一日中いちゃつく時間は過ぎていくのであった。



三学期が訪れたら…

もうすぐ深瀬キキも卒業していく。

彼女は卒業試験の為に制作に取り組む。

僕は三月十五日で二十歳を迎える。

いつか彼女らともお酒を酌み交わしたい。

などと気が早いことを想像しながら…。

僕は冬休みも筆を動かして精進するのであった。

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