第6話二度目のクリスマス。最大限の幸福な出来事

二学期が無事に終了して僕らは冬休みに入っていた。

香川初と白根桃は休みの間も作業室に向かうようだったが僕は断りの言葉を口にしていた。

今年は真名と目一杯クリスマスなどの年末行事を楽しみたかったのだ。


現在は十二月二十二日である

真名は仕事に向かっており僕は駅近くに存在するショッピングモールで時間を過ごしていた。

とある物を購入するために訪れているところで…。


「お互いのイニシャルと1225の日にちを彫ると言うことでよろしいですか?」


「お願いします」


「では出来上がりは二日後の正午辺りになります」


「分かりました。では当日に取りに来ます」


「かしこまりました。お客様のお名前を教えてください」


「野田亮平です」


「かしこまりました。お支払いの方は本日に致しますか?」


「はい。現金一括でお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


そうして僕は流れるような対応に身を任せてとある物を購入するのであった。



十二月二十三日。

真名は本日も仕事である。

僕は明日明後日を心地良く過ごすために見えるところも見えないところも掃除をして一日を過ごしていた。

夕方あたりに真名は帰宅してきて僕らは夕食を取る。

いつもの流れで一緒にお風呂に入り彼女とのイチャイチャする時間が過ぎていく。


「明日明後日は休みだよ。今年も楽しみっ♡」


真名は僕に甘えるような言葉を口にして同じ様に微笑むと彼女の頭を撫でる。


「明日は何処で何をする?」


真名は再び問いかけてきて僕は軽く思考するように悩んだふりをする。

実際は答えなど出ているのだが…。

何も悟られないように一芝居打つ。


「駅近くのショッピングモールに行こうよ。一階に豪華な料理が売ってるでしょ?

いつも美味しい手料理を作ってもらっているからさ。

たまには休みなよ。

出来た料理を沢山買ってきて家で過ごそう?

これからレストランを予約するのは無理でしょ?」


「たしかにね。でも…亮平くんは良いの?

私の手作りじゃなくて…」


「本当は手作りが良いよ?

けれど毎日手作りは疲れるでしょ?

たまには手を抜いてゆっくり休みなよ」


「うん…じゃあお言葉に甘えて…クリスマスは休む」


「そうしなよ。僕も真名さんとくっついていられる時間が増えるのは嬉しいから」


「私も同じ気持ちだよ…♡」


そこから僕らはイチャイチャとしながら夜を過ごしていくのであった。



十二月二十四日。

世界にはクリスマスイブがやってきていた。

僕らは朝早くから目を覚ますと身支度を整えて家を出る。

彼女の運転する車に乗り込んで街まで向かう。

ショッピングモールに到着した僕らは飲食店に一度向かう。

十一時から開店しているレストランで一時間ほど食事の時間を過ごしていく。

正午が過ぎて僕らはショッピングモールに存在している各ショップを覗いて時間が過ぎていく。

一階に存在しているスーパーで真名は出来た食事を購入していた。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」


真名に断りを入れると僕は一階からエスカレーターに乗り込む。

二階に到着すると僕はとある物を受け取りに来ていた。


「野田様。出来上がっていますよ。ご確認ください」


そうして僕はとある物を確認して頷く。


「ありがとうございます」


頭を下げると商品を受け取ってそれを鞄にしまう。

そのまま違和感のないように一階に戻る。

僕らは買い物を済ませるとそのまま自宅へと戻っていくのであった。



正午過ぎから夕方辺りまで僕らはゆっくりとした時間を過ごしていく。

庭先でケーキと紅茶を頂きながら長閑な時間が過ぎていく。

しばらくゆっくりとした時間を共にしている僕らはのんびりとした気分で今にも眠りについてしまいそうだった。


「あ…ダメだ!このままじゃ寝ちゃう…!」


真名は頭を振って目をかっぴらくと深く呼吸をした。

僕も倣うようにして深呼吸をすると目を開ける。


「中に戻りますか。こんな寒い中で寝たら大変ですよ」


「そうだね。ブランケット掛けているから暖かく感じるけど…」


「危なかったですね。中に戻ってゆっくりしましょう。

それにイブですし真名さんは飲んだらどうですか?」


「え?もう飲んで良いの?」


「どうぞ。イブですから。ゆっくりと羽根を伸ばしてくださいよ」


「うん…じゃあお言葉に甘えて…」


真名はそんな言葉を口にするとキッチンへと向かう。

赤ワインを手にした彼女はグラスにそれを注いでいる。

僕はジュースをコップに注いで彼女と乾杯をする。

そこから僕らは出来合いの食事を頂きながら少し早めの夕食を頂くのであった。



夕食が終わりいつものように一緒にお風呂に入る時間が過ぎていく。

ゆっくりとけれど確実に時間が過ぎていく。

僕らはのんびりとした時間を心地よい気持ちで過ごしていく。

こんな非日常の中に存在している日常に身を委ねながら…。

僕らの一日は終わりを迎えようとしていた。


しかしながら僕は本日から明日にかけて真名に渡すべきものがある。

いちゃつくような時間が過ぎていき時計の針が天辺を過ぎてクリスマス当日になってすぐのことだった。


「クリスマスプレゼントを渡したくて…」


そうして僕は彼女に紙袋を手渡した。


「何を用意してくれたの?楽しみだな…」


真名は薄く微笑んでその様な言葉を口にする。


「私からもあるんだけど…」


真名は遠慮がちにその様な言葉を口にして僕に紙袋を手渡す。


「なんだろう。同時に開けようか」


「うん♡そうしよう」


そうして僕らは紙袋の中身を開けることになる。

その中身を目にした僕らはお互いに驚いた表情を浮かべることになった。


「お互いに指輪って…同じ気持ちってこと?」


真名は少しだけ照れくさそうな表情を浮かべていて僕も同じ様な表情だったことだろう。


「うん…僕のは婚約指輪のつもりなんだけど…気が早かった?」


「うんん。私もそのつもりだから…同じ気持ち…」


「そっか…嬉しいな」


「うん。でもちゃんと言葉にしてほしいな」


真名におねだりされると僕は一度深く息を吸い込んで頷く。



「僕と結婚してください」



短くも的確な言葉を口にすると彼女は嬉しそうな表情を浮かべている。



「喜んで。やっとこの時が来たって感じ。嬉しいよっ♡」



僕らはお互いに贈りあった指輪を嵌め込み合うとそれをまじまじと眺めている。


「それと…誕生日おめでとう」


「うん♡ありがとう♡最高の誕生日になったよ♡」


そこから僕らは惹かれ合うようにして抱き合うと一日の終りの行為は続くのであった。



クリスマス当日に僕らは多田家に訪れていた。

多田家に結婚の了承を得るために赴いている。


「うむ。やっとこの時が来たかって感じだな。学生結婚だが大丈夫か?」


「もちろんです。覚悟は決まっています。僕には真名さん以外あり得ません」


「そうか。では今後も励むことだ。芸大生活に真名のこと。しっかりとな。

道を誤りそうになったら真名に相談や多田の誰かに相談するんだな。

それと亮平は多田に婿養子に来てもらうことになるんだが…

それは両親も了承しているのか?」


「それは説得します。僕の人生なので母親も許してくれると思います」


「母親?そう言えば父親はいないのか?食事会にも現れなかったな…」


「はい。父は亡くなったと聞きました。僕らが幼い頃に亡くなったと…

母親から聞いたことなのであまり深くは知らないのですが…」


「そうか…辛い話をさせてしまったな。申し訳ない」


「いえ。記憶にないので…問題ないです」


「では。婚姻届の保証人の欄を記入しよう。後は野田家の母親に話をしてきなさい」


多田家当主は初めて本当の父親らしく大きな優しさを纏った微笑みを僕らに向ける。

僕らはそれに頷いて応えると多田家を後にしようとする。


「亮平様。おめでとうございます」


使用人の好々爺は僕に声を掛けてくるので微笑んで応える。


「ありがとうございます。今後もお世話になります」


「はい。私も今後の生活を楽しみにしております」


好々爺に挨拶を済ませると僕らはその足で野田家に向かう。

野田家では母親が一人で僕らを出迎えた。


「結婚の話?」


玄関から家に入った僕らに母親は的を射た言葉を口にした。


「なんで分かったの?」


「わかるでしょ。息子のことだから」


「そっか…それで僕は婿養子に行かないといけないんだ。分かってくれる?」


「大丈夫よ。野田は咲に任せるから。雑賀くんは次男らしいし。お兄様が家を継ぐでしょう。彼は野田に婿入してもらうわ」


「そう。勝手してごめんね」


「いやいや。多田家の娘さんと付き合ったと聞いた時から咲に任せるつもりだったわよ。気にしないで」


「ありがとう」


「じゃあ保証人の欄にサインしましょう」


そうして僕と真名は婚姻届にサインを貰うと必要事項を記入していく。


そして後日。

僕らは役所に婚姻届を提出に向かい…

それを受理してもらうと晴れて夫婦になるのであった。



ここから僕と真名は夫婦として末永く幸福に身を委ねていくのだろう。

この先の人生を楽しみに思いながら…

僕らのクリスマスは終了して。

本格的に年末がやってくるのであった。

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