第17話芸大祭初日のオークション!次回から第五章へ

「オークション会場にお越しの皆様。

どうもこんにちは。

私のことをご存知な方もいらっしゃるでしょうが自己紹介を…。

油絵科四年生の深瀬キキと申します。

展示する作品は全て本日オークション形式で販売することとなります。


まずは…私の作品群から…

一作目。

木こりのダイイングメッセージ。

十万からスタートです」



深瀬キキの描いた謎めいた題名の絵画を目にした彼女の上客達は割れんばかりの歓声上げる。


「今回もキキちゃんらしさ全開ね!十五万!」


「私が必ず買うわ!三十万!」


「キキちゃんの全ては俺のものだ!五十万!」


「倍額払う!百万だ!」


「その倍だ!二百万!」


「二百万です。これ以上はいませんか?よろしいですか?」


深瀬キキは辺りの上客を見渡すとほっこり笑顔で微笑む。


「では三十五番様二百万で落札です!」


コンコンと机を木槌で叩くと深瀬キキは一作目で特別課題をクリアしてしまう。


「では二作目に突入します。

二作目、カナリアの遺言状。

十万からスタートです」


二作目も深瀬キキらしく謎めいた題名の付いた作品を目にした上客達は先ほどと遜色ないほどの歓声を上げる。


「今度こそ!三十万!」


「負けん!六十万!」


「誰にも渡さん!百二十万!」


「今回だけは負けられない!二百四十万!」


「二百四十万。これ以上はいませんか?よろしいですか?」


司会の深瀬キキが先ほど同じ様に進行すると二度目の落札となる。


「二十一番様二百四十万で落札です!」


深瀬キキは先程と同じ様に机を木槌で叩いて落札の言葉を口にする。


「最後の作品です。

不死者からの啓示。

十万からスタートです」


「これは絶対に買いです。初めから二百万」


「青天井で行く。五百万」


「五百五十!これ以上は無理!」


「では六百万!」


「六百万!これ以上はいませんか?よろしいですか?」


辺りを確認した深瀬キキは木槌で机を叩くと落札を確定した。


「十一番様。六百万で落札です!以上が深瀬キキの作品群でした。

次の生徒にバトンタッチ致します。

では私はここで失礼致します。

落札が確定した方はオークションが終わり次第この場に残ってください。

では」


深瀬キキは葛之葉雫とバトンタッチするとバックヤードへと履けていった。


「皆様こんにちは。

初めましての方ばかりかと存じます。

私は油絵科三年生の葛之葉雫と申します。

今回のオークションで外部の方々に私の名前を覚えて欲しいと思います。


では一作目から。

朝食に愛犬と婦人。

五万からスタートです」


葛之葉雫の作品をじっくりと眺めていた上客達はウンウンと頷いて思考しているようだった。

何名かの上客が番号の札を上げると口を開いていく。


「十五万!」


「三十万!」


「他にいませんか?よろしいですね?では十番様落札です」


葛之葉雫は深瀬キキと同じ様に木槌で机を叩くと落札を確定した。


「二作目に入ります。

果物から観た世界の景色。

一作目と同じ様に五万からスタートです」


先ほどと同じ様に葛之葉雫は進行をすると上客達は作品をじっくりと眺めているようだった。


「うん。二十五万」


「三十万」


「他にいませんか?よろしいですね?では二番様落札です」


同じ様に机を木槌で叩くと最後の作品を展示する。


「最後の作品です。

光が射す蒼穹の先で出会った二人。

十万からスタートです」


一作目と二作目とは違いすぐさま番号札を上げる上客がチラホラといる。


「三十万」


「四十万」


「五十万」


「六十万」


「百万」


「他にいませんか?よろしいですね?では二十八番様落札です」


「油絵科三年の葛之葉雫でした。

名前だけでも覚えて帰ってください。

どうもありがとうございました。

落札が確定された方はオークションが終わり次第、私の下へいらしてください。

では」


葛之葉雫は僕とバトンタッチするとバックヤードへと履けていく。

僕は作品を展示しようとして口を開きかけて…。


「全て買い取ろう。合計で一億出す。どうじゃ?」


作品を観ることもなく怪しげな見た目をした紳士は手を上げる。

上手に顔を隠しているようで相手の正体はわからない。


「えっと…まだ何も観ていませんよね?」


「構わない。ご当主様から仰せつかった限度額いっぱいを提示したまでだ。

こう言えば分かってもらえるかい?」


僕はその言葉を耳にして多田家の関係者だと理解してしまう。

それに軽く苦笑の表情を浮かべると木槌を机に叩きつける。


「猛暑の中、足を運んで頂き誠に感謝致します。

最後は私、油絵科二年の野田亮平が作品を展示するところだったのですが…

既に落札と相成りましたのでこれにて終了となります。

落札が確定した方はオークション会場に残ってください。

では。

以上でオークションを終了とします」


そこで殆どの上客が会場を後にする。

落札が確定した方々は深瀬キキと葛之葉雫の下へと向かっていた。

怪しげな見た目をした紳士は僕の下を訪れると口を開いた。


「作品は後日多田家に搬入してください。

お金の方は必ず入金させて頂きます。

それからご当主様からのメッセージです。


「これで箔が付いただろ?お前の名前も外部に知れ渡ったはずだ。

卒業まで後二年半。

精進することだ。

外部から購入したいと言ってくる者が出てくることだろう。

しかしながらまずは多田にだ。

それをゆめゆめ忘れぬこと。

では今後も励めよ」


とのことでした。

では後日。

多田家にてお待ちしています」


謎めいた怪しげな見た目の紳士は深く頭を下げるとその場を後にする。

彼女らも手続きを終えたようで僕の下へとやってくる。

上客達は深瀬キキに軽く挨拶をすると会場を後にする。


「野田!あんたどうなってんの!?一億!?」


「本当だよ。どうなっているの…この中で私が一番売上下だった…」


「あぁ〜…それは支援者が買ってくれたと言うか…」


「観もしないで一億を払うの?」


「どれだけの資産家なのよ…」


「信頼の証だと思います。僕の作品なら何でも買うと言ってくれているんだと思います」


「凄いね。私達…人物画を描いてもらったけど…良かったの?」


「そうだよ。物凄い価値があるものを無料で譲ってもらったとか…私達罰があたらない?」


「それは構いません。もらってください」


「そんな安売りして良いの?」


「自分の価値を見誤って無い?」


「そんな事無いですよ。それにお二人には普段から感謝しているので…」


「そっか…じゃあ遠慮なく」


「ありがとうね。野田くん」


僕らはその後個展会場を掃除することとなった。

深瀬キキは使用許可を得るために大掃除を条件付けられたそうだ。

僕らが昨年度に勝手に作った場所なので掃除の手はあまり行き届いていない。

目立つ箇所はあらかじめ掃除していたのだが…。

見えない所はまるで掃除が出来ていなかった。

僕らは一日掛けて大掃除を済ませる。

残りの四日間は芸大祭を楽しむのであった。



後日。

僕は真名とともに多田家に絵画を搬入した。

多田家当主とお祖父様は絵を確認するとウンウンと頷いている。


「一つずつタイトルを聞いても?」


お祖父様が先んじて口を開くと僕は一作目から順番にタイトルを口にしていく。


「流星、風が運ぶ幸福。クチナシにキスする少女。神を隠した神威。

以上の三作品です。

いかがでしょうか…」


タイトルを口にすると多田家当主とお祖父様は薄く微笑んで頷く。


「どれも似つかわしいタイトルだな。大金を叩いた甲斐があったというものだ。

おめでとう。これからも精進したまえ」


「ありがとうございます」


「うむ。では月一の食事会を行うとしよう」


そうして僕らは月一の食事会を大広間で行うのであった。

真名の母親とお祖母様に根掘り葉掘りと旅行での出来事を聞かれながら…

僕と真名は土産話をして過ごす。

食事の時間は二時間もしないで終わりを迎える。


「それでは本日もお世話になりました」


「いえいえ。私も多田家以外で亮平様にお会いできて嬉しかったです。

またのお越しを心待ちにしております」


「あの時の紳士は爺や様でしたか…ここで会うときとは雰囲気や言葉遣いまでまるで違って…気付きませんでした。ではまた来月に」


使用人の好々爺に深く頭を下げると僕と真名は自宅であるアトリエへと帰宅する。

言い忘れていたが僕の口座には一億という巨額が入金されていた。

身の程以上の大金を手にした僕はかなりの動揺を覚えていた。


「これからもっと稼ぐんだから。

いちいち気にしないの。

もっともっと稼ぐようになるわよ」


真名は何でも無いように微笑むと僕らの生活水準は少しだけ上がるような気がしていた。

これ以上の贅沢で幸福な日々は始まろうとしている。



そして…

自らの絵画にとてつもない金額を付けられた僕は…

遂に覚醒へと至るのであった。


次回から第五章へ!

覚醒に至った亮平は…

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