第14話旅行二日目。未来を想像する二人

旅行二日目。

僕らはホテルの部屋で目を覚ますとそれぞれが順番にシャワーを浴びて身支度を整えていた。

身支度を整える中で僕らはお互いに行きたい場所を想像していたことだろう。

真名はメイクを施したり髪型を整えていたりしていた。

僕も同じ様に髪型を整えると外着に着替えてソファに腰掛けていた。

言葉は分からないが何気なしにテレビを眺めながら真名の支度が整うのを待っていた。


「ねぇ。今日の服装どう思う?」


いつもより明らかにはしゃいでいる真名を目にして僕も同じ様に微笑むと感想を口にする。


「凄く似合っているよ。景色も相まっていつも以上にキレイだよ」


「そう?いつも以上に褒めてくれるねっ♡」


「僕も旅行でテンションが上っているのかも。けれど普段も思っているんだ…

もっと日頃から言葉にした方が良いんだなって思ったよ…」


「良いのよ。いつでも想ってくれていることぐらい分かっているから。

信じているわ。安心して」


「本当に真名さんで良かったよ。僕の恋人が真名さんで本当に良かったって…

今更ながら心から感謝しています。

本当にいつもありがとう。

あの頃の僕を救ってくれて…本当にありがとう。

いつも支えてくれて…本当にありがとう」


「どうしたの?もうホームシックになっているの?」


真名は照れくさそうな表情で微笑むと誂うような言葉を口にしてくる。


「いや…僕は普段から世間話ばかりで…感謝の言葉を言う機会が少なかったよ。

もっと普段から言うべきだって…そう思ったんだよ。

旅行中でロマンチックな場所でもないのに…急だったね。

本当にホームシックなのかも」


僕も同じ様に最後の部分を戯けた表情で冗談を言うようにして応えてみせる。


「ふふっ。いつも褒めてくれるのも嬉しいけれど…

こういう特別な時にしっかりと褒めてくれる方が私は嬉しいよっ♡

私こそ本当にありがとうっ♡」


僕らはそこで微笑み合うと真名は支度が整ったのか僕の手を取った。


「行こうっ♡」


僕は惹かれる様に手を握るとそのままホテルの部屋を出る。

エレベーターに乗り込んだ僕らはスマホを操作して行き先を調べていた。


「行き先は?」


お互いが同じタイミングでその様な言葉を口にして思わず破顔した。


「私が行きたいのは海岸沿いのカフェレストラン。

朝から営業していて。

そこで朝食を取ったら少し海で休んで…

ゆっくり街並みを眺めながら散歩でもしない?」


「凄くいいプランだと思う。

僕も海岸沿いを歩きたいって思っていたんだ。

都会の街並みも良いけど。

今日は喧騒から離れるのも良いと思うな」


「うん。じゃあ今日の予定はそんな感じで行こうよ♡

すごく楽しみだよ」


エレベーターが一階に到着するとホテルを抜けて街へと降り立つ。

僕らはバスやタクシーを使うこと無く徒歩で海岸沿いを目指していた。

ホテルから歩いて一時間程で僕らは海岸沿いのカフェレストランに到着する。

席に着いた僕らはメニューを眺めながら注文を済ませた。


「それにしてもエビアボカドのサンドイッチを注文するなんて…なんかおしゃれだね」


真名は僕の注文したメニューをなぞるように読み上げると薄く微笑んだ。

僕は真名が注文したメニューを読み上げようと思ったが理解できずにいた。


「簡単に言うとエッグベネディクトみたいなものだよ」


真名はそう言って微笑むとメニューを口にしてくれる。

しかしながらそれでも僕は具体的なメニューが浮かんでこずに首を傾げるだけだった。

数十分後に注文したものが運ばれてきて僕らは朝食を取ることとなった。


「いただきます」


お互いが挨拶をするとナイフとフォークを使って上手に料理を頂いていく。

ゆったりとした二人の朝が過ぎていくと僕らは一時間程の朝食の時間を過ごしていくのであった。



朝食を終えた僕らは海辺の砂浜で腰掛けながら地元の人間や観光客のカップルと同じ様にして海を眺めていた。


「毎日こんな感じだったら良いのに…」


僕は思わずその様な言葉を口にしていた。


「こんな感じ?」


真名は疑問に思った言葉を口にして僕の横顔を眺めていた。


「何ていうんだろ。非日常的な幸せな時間や空間のことだと思う」


「毎日が非日常なんて…無理じゃない?」


「かもね。でもお互いがそれを意識することで出来るような気もしない?」


「そうだね。でも私は安心できる日常も好きだよ。例え何も特別な事が起きない日常でも…亮平くんと一緒に居られたら私は幸せだよ」


「嬉しいこと言ってくれるね。真名さんも早くもホームシックですか?」


少しだけ照れくさくて冗談のような言葉を口にすると彼女も戯けたような表情を浮かべる。


「旅行を提案しておいて言うのも変だけど…いつもの二人きりの家って本当に幸せな空間だったんだね」


「有り難いね。僕もアトリエは本当に気に入っている場所だよ。真名さんと二人きりのあの家が好きだよ」


「そうだね。いつまでも二人で居たいね。

その時はもう少し大きな家を建てるんだろうけど…

私達にもしも子供が出来たら…

亮平くんが作業している時はアトリエで過ごしたいね。

私もあの家が大好き」


僕らは海を眺めながら未来について話をしていた。

お互いが想像する幸せな未来像を描きながら…。

僕らは食休みをしながらしばらく砂浜で過ごすのであった。



砂浜で過ごしたのは正味一時間ほどだっただろう。

僕らは海岸沿いを歩いて長閑な街並みを散歩して過ごしていた。

陽が異常に照っているような気がする。

アスファルトに照りつける陽の光が反射して僕らを焦がしていくようだった。

夏の暑さで辺りのカップルたちも異様な熱気に包まれているようで…。

辺りでは暑さなど気にせずにベッタリとくっついて歩くカップルだらけだった。

かくいう僕らもその中の一組で…。

端から見たら暑苦しいことこの上ないだろう。

しかしながら僕らはそんな事を気にもせずに雑貨屋に入ったりアイスクリームを食べ歩きしながら散歩をして過ごしていた。


昼も過ぎたあたりで一度ホテルに戻ってくると僕らは汗を流すためにシャワーを浴びた。

シャツにべっとりと汗が染み付いていて着替えも兼ねてホテルに戻ってきたのだが…

僕らはお互いがシャワーを浴び終えると夏の暑さにやられてしまったのだろう…

お互いを求めあって昼から行為が始まってしまう。

クーラーの効いた部屋で僕らは涼みながら夜になるまで夢中になっているのであった。



再びシャワーを浴びて支度を整えた僕らは夜の街へと繰り出した。

本日はステーキで有名なお店を真名が予約してくれておりそこに赴いていた。

ドレスコードがある訳では無いが、それなりの格好をして僕らはお店に入店する。


「どれぐらい食べられそう?」


真名に問いかけられた僕はお昼は軽いものだったためお腹が空いていることに気付く。


「結構いけそう」


「ホント?舐めているとすごい量が出てくるよ?」


「1㎏ぐらいならいけると思う」


「そんなわけ無いでしょ。その半分だって食べられるとは思えないわ」


「そう?じゃあ300gぐらいにしておく」


「そうしなよ。私は150gぐらいにしておくから。亮平くんが残したら食べてあげる」


「残したりしないよ」


「ほんと〜?いつも私が計算して食卓に出しているんだよ?亮平くんがどれぐらい食べられるかも把握している」


「そうなんだ…僕ってそんなに食べられない方なの?」


「そうじゃない?食は細いほうだと思うな」


「なんか若干ショックだな」


「まぁ良いじゃない。じゃあ注文しちゃうね。焼き方は?」


「レアで」


「了解」


そうして真名はウエイターに注文を済ませると僕らの会話は続いていく。


「飲まないで良いの?」


「えっと…飲んで良いの?」


「もちろん。僕は水でいい」


「ジュースとかは?」


「大丈夫」


「わかった。じゃあ私は飲むね」


そうして真名は赤ワインを注文するとウエイターが運んでくるのを心待ちにしていた。

しばらくするとワイングラスを持ってきたウエイターに赤ワインを注いで貰った真名と軽く乾杯をする。

真名は優雅に赤ワインを飲みながら頬を赤く染めていく。

暗い照明の店内ではクラシックなジャズが流れていた。

僕らはそれに身を委ねながら大人な雰囲気の時間を過ごしていく。

しばらくしてステーキが運ばれてくると僕らは他愛のない会話をしながら夕食を頂くのであった。



ホテルまでの帰り道はタクシーを利用して帰路に就く。

真名はほろ酔い気分だったし僕はお腹が弾けそうなほどいっぱいだった。


「だから無理しないで良いって言ったのに。最後の方は半ばヤケになっていたでしょ?」


真名に見透かされている自分が少しだけ恥ずかしくて照れ笑いを浮かべた。


「残すのは良くないから…」


「その為に私は少ない量にしたんでしょ?」


「分かっているけど…なんとなくムキになった…」


「ふふっ♡まだ子供っぽい可愛いところも残っているんだねっ♡」


真名は嬉しそうに妖艶な笑みを浮かべると僕の肩にもたれ掛かった。

タクシーは無事にホテルまで僕らを送り届けて…。

僕らは部屋に戻ると旅行の疲れを癒やすようにベッドで横になる。


本日は昨日以上に疲れていたのか…。

僕らは旅行最終日の早朝までぐっすりと眠ってしまうのであった。



次回。

旅行最終日。

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