第13話夏休みの海外旅行。一日目まで

夏休みに突入して数日が経過したときのことだった。


「旅行に行きたいんだけど…」


真名は珍しく甘えるような表情で提案をしてきて僕は思わず頷いた。


「良いけど…何処に?」


提案は嬉しいし甘えてくれることにも喜びを覚える。

しかしながら夏休みを利用して僕らは作業を進める予定だったため少しだけ戸惑ってしまう。

何故ならば僕だけの予定を勝手に組んでいいのかを悩んでしまう。


「海外なんだけど…三泊ぐらいはしたいって思うんだ…。

丁度私も長期的な連休を貰えたから…」


「海外で三泊ね。分かった。じゃあスケジュール組んじゃおう」


「良いの?制作の手を止めてしまうと思うけど…」


「うん。夏休み中も作業の予定だったんですけど。

明日、皆に話をつけてきます。

僕も真名さんと旅行に行きたいですし。

もっと一緒に居られたらって思っていたので」


「良かった。ありがとう。じゃあスケジュール組もう」


そうして僕らは夏休みの一週間ほどを利用して海外旅行のスケジュールを組むのであった。



「そういうわけで夏休みの一週間を利用して旅行に行ってきます。

勝手にスケジュール組んで申し訳無いのですが…

皆さんも自らの作業に没頭すると思うので…

僕が居なくても問題ないと思います…

一応許可を取らずに勝手に話を進めてしまい申し訳ありません」


僕は彼女らに謝罪の様な言葉を口にすると深く頭を下げる。

彼女らはスケジュールが組まれてしまっているために文句も付けられず仕方無さそうに頷く。


「わかったわよ。戻ってきた時に私達がレベルアップしていて焦っても知らないからね…」


深瀬キキはせめてもの抵抗とでも言うようにしかめっ面でその様な言葉を口にする。

香川初や白根桃も残念そうな表情を浮かべていた。


「でも仕方ないよね。私達も野田くんがいるからここで作業したいわけじゃないし。

居てくれたらもっとやる気が出るとは思うけどさ。

それが目当てじゃないから」


香川初は割り切った意見を口にして周りを見渡していた。


「私も皆さんの技術を吸収するように頑張ります!」


白根桃はやる気に満ちた表情で腕を持ち上げる。

しかしながら葛之葉雫は申し訳無さそうな表情を浮かべて挙手をする。


「あの…言い難いんですけど…私も一週間ほど旅行の予定がありまして…」


葛之葉雫の言葉を耳にしたこの場のメンバーは苦笑の表情を浮かべると僕らは旅行へと向かうことは決定したのであった。



旅行当日の早朝。

前日までに荷物を揃えて纏めていた僕らは支度を整えると自宅であるアトリエを出発する。


「楽しみだねっ♡」


家を出ると真名は僕に抱きつくようにして腕にしがみついた。


「僕もずっとワクワクしていました」


そんな他愛のない会話を繰り広げながら僕らは電車などを乗り継いで空港まで向かう。

朝の便で出発して夜に到着する予定だった。

飛行機内では寝て過ごしたり映画を見たり食事を取ったり。

はたまた読書をしたりデッサンをしてみたり。

様々な事をしながら僕らは十時間以上のフライトで目的地に到着するのであった。



到着した空港で僕らは入国すると異国の地に降り立った。

初めて降り立つ異国の地で僕はその光景や匂いの違いに感動を覚えていた。

打算的な話になるのだが明らかに今回の旅行のお陰で僕のスキルやレベルが上がることは確かだと思われた。


「タクシー乗ってホテルまで行こうか」


「はい。それにしても景色に感動しますね」


「ふふっ。そうだね」


真名は薄く微笑むと僕らは様々な景色などの違いを楽しみながらホテルまでの道のりすらも楽しんだ。

ホテルに到着してチェックインを済ませると部屋に案内される。

僕らはフライト時間の疲れを癒やすためにすぐにベッドで横になった。


「疲れたけど…すごい刺激になりそうじゃない?」


真名はベッドで横になりながら僕に顔を向ける。

それに対して頷くと薄く微笑んで息を吐いた。


「凄い新鮮で…僕らの関係にも新たな刺激が感じられそうですね…って何言ってるんですかね…疲れて意味わからないこと言いました」


「そんなことないよ。私達の間柄にも新たなスパイスが加わると思うよ。

私も亮平くんの意見に同意だよ」


「そうですよね。僕らの次のステージって何でしょうね」


「んん〜。交際して同棲して関係も持っていて…

次は何処だろうね。

亮平くんは学生だからさ。

簡単に結婚なんて言葉は出てこないよね」


「でも…僕も芸大生なりに稼げるようになりそうなんですよ。

今年の最終的な課題も百万を売り上げることですし。

それ以上を稼げる可能性もあります。

今はどんな刺激でも受け入れて自分の絵画へと昇華したいです。

もっと稼げるようになってから…

ちゃんとしたプロポーズをしたいです。

僕らの次のステージは結婚でしょうし…」


「そっか…しっかりと考えてくれていたんだね。

嬉しいよ。

私も覚悟は出来ているからね。

芸術家の旦那を持つという覚悟も…。

決心は出来ているから。

私は絶対に亮平くんを裏切らない。

ずっと傍にいる。

いつまでも愛し続ける。

それだけは絶対に約束するよ」


「絶対になんて言って大丈夫ですか?」


「大丈夫。私は心が移ったりしない。

亮平くん以外考えられないし…

あり得ない。

私にはいつまでも亮平くんだけが必要なの。

これだけは絶対だよ」


「わかった。真名さんとの事…

これからもっともっと真剣に考えるから」


「うん。でも無理しないで。

私は慌てていないし。

しっかりと待てる大人な女性だから」


真名は最後の辺りの言葉を薄く微笑んで口にするとベッドから立ち上がった。

彼女は軽く伸びをするとスマホと財布の入ったショルダーバックを肩にかけて僕の手を引くようにしてホテルの部屋を出る。


「夕食は何が良い?」


エレベーターに乗り込んだ僕らはスマホを操作して近所の飲食店を調べる。


「やっぱり…お肉系ですかね?」


「お肉と言ったら…ハンバーガーとか?」


「そうですね。こっちのは大きくて肉厚だって耳にしたんですよ」


「そうだね。美味しいところ知っているから。

そこで良い?」


「はい」


エレベーターが一階に到着すると僕らは揃ってホテルを出る。

真名はいつもよりはしゃいでいるようで僕の腕にしがみつきながら街を歩いていく。

ホテルから徒歩圏内に存在しているハンバーガー屋に向かうと真名は注文を率先して行う。

注文が終わり混雑している店内で番号を呼ばれるのを待っていると真名は嬉しそうに微笑んでいた。


「どうしたの?」


嬉しそうに微笑む真名に僕も同じ様な表情を浮かべて問いかける。


「ん?何でも無いけど。異国の地に亮平くんと二人でいるのが嬉しくて。

私達は何処でも二人で居られるんだなって。

またいつか違う異国にも行こうね」


「はい。早く学生じゃなくなれば良いのに…

なんて今更ながら思いますよ。

卒業したら真名さんと居られる時間はもっと増えると思うので」


「そうだね。

それでも毎日のように筆を動かしてね?

私が原因で亮平くんの足枷にはなりたくないから…」


「そんなこと絶対に思いませんよ。

真名さんの存在のお陰でどれだけ僕が救われていると思っているんですか」


「そうなの?それなら嬉しいんだけどさ…」


丁度その様な話をした所で番号を呼ばれて僕らはそれを受け取りに行く。

目の当たりにしたハンバーガーの大きさに驚きながら僕らはテーブルへと戻っていく。


「本当に美味しそうだね」


「早速食べよう」


そうして僕らはハンバーガーに齧り付くとあまりの美味しさにいつも以上に笑顔になる。

真名ももぐもぐと咀嚼しながらウンウンと頷いて僕と顔を見合わせる。


「美味しいね」


僕は端的な言葉を残すと二口目に齧り付いて一気に完食まで向かう。

ポテトと大きいサイズのアイスコーヒーを飲みながらゆったりとした夕食の時間を過ごす。


夜の街を軽く観光しながら僕らは明日に備えてホテルに戻るとシャワーを浴びていつものようにイチャつきながら眠りに着くのであった。


旅行期間残り二日。

次回へ。

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