第5話恋人成分チャージ!
ふっと感じたことがあり僕は筆を置いた。
現在、二年生の一年間を利用して自由制作の時間に入っている。
葛之葉雫には家庭があり彼女を思って少しの休暇のようなものを打診した。
しかしながら僕や深瀬キキにもそういう時間があってもいいのでは?
などと愚行したのだ。
僕らは成績トップであり芸大側でも評価がし辛い立場になったため好きに制作することを許されたのだ。
言い換えるのであれば信頼されていると言うこと。
僕らならば監督する講師がいなくてもプロの画家と同様に課題合格することを信頼されているのだ。
それならば僕と深瀬キキにも少しの自由時間があっても良いのでは無いだろうか。
では何故そんな事を感じたかと言えば…。
僕自身が最近、恋人である真名に対して少しだけ冷たかったような気がしたからだ。
それに自らのレベルやスキルアップのために紅くるみの裸婦画を描いた。
この事により確実に真名は不安になっていることだろう。
本日真名は休日だった。
僕を見送ってくれて家で家事をしているようだ。
僕はそんな事を思い出すと深瀬キキに対面する。
「すみません。今日はもう帰ります」
唐突な僕の一言に彼女は明らかに動揺しているようだった。
「どうして?何も思い浮かばない?」
「そうじゃないんですけど…ちょっと大切な用事を思い出しました」
「そう。それなら仕方ないわね。じゃあまたね」
「はい。いきなりすみません」
「良いって。大切な用事なんでしょ?」
「はい。何よりも」
「じゃあ早く行きなさい」
深瀬キキに深く頭を下げると別れの言葉を口にして僕は帰路に就くのであった。
近所で繁盛しているケーキ屋に入店すると特別な日では無いのだがケーキを二つ購入して帰宅する。
「ただいま」
急に帰ってきた僕を目にした真名は明らかに驚いた表情を浮かべている。
「どうしたの?体調悪い?」
心配するように駆け寄ってくる真名に首を左右に振って応える。
「ケーキ買ってきたんだ。後でゆっくり食べよう」
「え?今日って何の日だっけ?」
「何の日でも無い普通の一日だよ」
「ん?じゃあなんでケーキ?」
「なんでだろう。今日は真名さんと二人きりで過ごしたいって思ったんだ」
「え…そっか…嬉しい」
「家事手伝うよ」
「うん…」
そうして僕らは午前中に家事の全てを終わらせると昼食を頂きながらゆっくりとした時間を過ごしていく。
何にも縛られない僕らだけの二人きりの時間がゆっくりと確実に過ぎていく。
十五時辺りに庭でケーキと紅茶を頂きながら長閑な時間は過ぎていった。
夕方辺りにはソファで隣り合って腰掛けると映画を眺めながら僕らは肩を寄せ合っていた。
お互いの体温を感じながら優しさや安らぎや確かな温もりに包まれながら。
僕らは少しの間、眠りに着くのであった。
「それにしても亮平くんが筆を止めて帰ってくるなんて…想像も出来ないことが起こったよ」
「そう?僕はいつでも真名さんを想っているんだけどね。最近は絵のことばかりにかまけて…ないがしろ気味だったから」
「そんな…だって亮平くんは画家になるんだから。そんなこと気にしないでいいのに。それに私は愛されているって理解しているから」
「うん。それでももっと態度で現すべきだって感じたんだ。最近は不安にさせること多かったでしょ?」
「それは…確かに不安ではあったよ。でも信じているから」
「そっか。真名さんの心が広くて…僕は救われているよ」
「私だって亮平くんのお陰で…今があるんだよ?」
「そうかな?真名さんは僕じゃなくても…」
「そんな事言わないで。私が亮平くんを選んだんだから」
「そうでしたっけ?僕が選んだんですよ」
「違う…。ってこの話題は平行線だね。どっちも同じタイミングで選んだってことにしましょう」
「そうだね。僕は本当に幸せものだよ。真名さんが居てくれて」
「私もだよ。亮平くんがいるから…ずっと幸せだよ」
「これからはちゃんと幸せにするから」
「うん。私も安心感のある女性で居続けるね」
「別に無理はしないで良いんだよ?我儘言ってくれても良い」
「分かってる。私だってそこまで出来た人間じゃないから」
「そんな事は無いと思うけどね」
「そんなことあるのよ」
僕らは夕食をいただきながら他愛のない会話を繰り広げて心の距離を縮めていく。
いつも以上に濃厚な二人きりの一日が過ぎていく。
夕食の片付けをすると僕らは揃って風呂に向かう。
いつものように一緒にお風呂に入ると同じタイミングで脱衣所に出る。
全身をバスタオルで拭くと真名の髪をドライヤーで乾かしていた。
真名は気持ちよさそうな表情を浮かべて僕にもたれかかっている。
頭を撫でるように髪を乾かしていく。
数十分の甘い時間が過ぎ去っていくと僕らは再びソファに戻る。
夜の時間が訪れて僕らはお互いを求めるようにいちゃいちゃとした時間を過ごしていた。
本格的に行為に入りそうだったので寝室に向かう。
そのまま本日はいつも以上に相手を求めるような行為が激しく行われると夜が明けるまで僕らは眠りに付かないのであった。
「おはよう。なんだか吹っ切れた顔しているわね。何か特別なことでもあった?」
芸大キャンパスの作業室に入ると深瀬キキは僕の顔を見てその様な言葉を口にした。
「特別なこと…う〜ん。日常を取り戻してきただけですよ」
「へぇ〜。今までは非日常だったの?」
「そうですね。芸大側からの課題に追われすぎて…本来の自分を見失っていたかもしれないです」
「ふぅ〜ん。牙が抜けたんじゃないなら良いけど」
「いやいや。更に鋭くなったはずですよ」
「どうして?」
「恋人の御蔭です」
「なるほど。野田は恋人一筋なんだ?」
「当然です」
「だから女生徒の誘うような視線も無視しているんだね」
「そうなんですか?そんな視線に気付きませんでした」
「じゃあ鈍感なんだ」
「どうですかね。僕は恋人以外眼中にないので」
「そっか…なんだか簡単に振られた気分だわ」
「そうなんですか?深瀬さんにはもっと良い人いますよ」
「はいはい。じゃあ早速今日からもまた作業に入るわよ」
「了解です。深瀬さんは進みましたか?」
「まぁね。こんな感じ」
そうして僕と真名は恋人の愛情をたっぷりとチャージすると今日から再び前へと進み出すのであった。
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