第7話集団制作課題発表と総評。次回から冬休みへ

遂に十二月中旬が訪れており集団制作課題発表の日がやってきていた。

講堂に集められた生徒一同はグループで纏まっており既に課題を提出していた。

壇上に集められた多くの課題を眺めながら講師陣の総評を聞くことになる。


遅れて説明することになったことを申し訳なく思うのだが…

成績トップ組は各科各学年から一人が選出されたグループだが。

他のグループは各科各学年から数名が選出されたグループで構成されていた。

有り体に言えば成績トップ組だけ人数が明らかに少ない。

他のグループは人員に余裕があるのだ。

では何故成績トップ組だけが選ばれた小人数なのかと言えば…

それは簡単な話しで成績トップは各科各学年に一人しか居ないからである。

そして僕らは他のグループよりも人員不足のハンデを負って課題制作に励んだのだ。

何故今になってこの様な説明をしたかと言えば…。

それはこの後の教授の総評を聞けば分かるだろう。



「Aグループの課題は…

なんとも粗末な物に感じるのは私だけでは無かったようです。

これを観た時と各グループの制作状況を観ていて思ったことを口にすると…

明らかに作業員の人員不足。

一年生の限られたメンバーがここまで制作したと言っても過言じゃないです。

これは集団制作ですよ?

課題の意味を分かっていないのですか?

あなた達が将来企業に就職したとして…

集団制作は必ず通る道と言っても過言じゃないです。

自らが作りたいものを無限の時間を使って作れる人間など…

極稀に現れる限られた人間だけです。

君たちにわかり易い言葉で伝えるとしたら…

嫌いな言葉ですが…

天才ってやつだけが作りたいものだけ作る人生を送れるのです。

しかしながら限られたメンバーで制作に励んでいた一年生は素晴らしいの一言です。

各科が協力して作り上げないといけない中でよくここまで作られたと思います。

人員不足なのに課題提出が出来たことを褒めてあげたいです。

サボっていた生徒はこの後、一人一人呼び出して面談となります。

点数を付けるのであれば20点と言ったところでしょう。

ではAグループの総評を終わりとします」


固まって総評を聞いていたAグループの生徒たちはなんとも言えない表情を浮かべてバツが悪そうにしていた。

その中には香川初の姿も存在しており少しだけ誇らしそうな表情に思えた。

限られたメンバーの中に香川初は居たのだろう。

最後まで諦めずに懸命に課題に取り組んだことだろう。

僕もそんな彼女をクラスメートとして友人として誇らしく思っていた。


「どんどんいきます。

ではBグループの総評です。

まぁ…纏まっているんじゃないんですか。

けれど…それだけって言ったら怒るでしょうか?

今の様子を見るに怒る生徒が居ないということは…

この集団制作の意味や意義が正確に伝わっていなかったことがわかります。

全員で全力を尽くして知恵や知識や技術を持ち寄って作ったものをこんなにけちょんけちょんに言われたら…

普通は怒るものですよ。

それほど自分たちの作品に対して自信や自負に溢れていれば…

貶されたら怒るというものです。

怒らないで居られる君たちは、きっとなぁなぁでなんとなく課題の上澄みだけを掬って作業を行っていたのでしょう。

君たちのグループのお陰で集団制作という課題に取り組んだ成果が出たと皮肉を言わせてください。

今後はもっと講師陣が考えた課題の意味に向き合ってみてください。

私達講師陣もサボりたくて集団制作などという従来のカリキュラムから外れた課題を課しているわけではないのですよ。

それをご理解ください。

点数を付けるのであれば40点と言ったところでしょう。

では次の班の総評へ向かいます」


教授は厳しい言葉を口にすると次のグループの総評へと移るようだった。

Bグループのメンバーは苦笑し合っていたりニヤニヤと笑っていて彼らには教授の言葉が響いていないようだった。

僕は一人で勿体ないと感じながら壇上へと視線を向けた。


「Cグループですが…

奇をてらいすぎていますね。

このグループはセンス溢れる生徒を多く集めたのですが…

それが悪い方向へと進んでしまった。

そんな感じです。

私達講師陣の目は誤魔化せませんよ。

君たち以上にセンスフルなプロの作家さんの作品を毎日観ているのですよ。

君たち学生がどれだけ頭を捻って奇をてらったところで…

プロの猿真似にもなっておりません。

これははっきり言って…

全然ダメです。

もっと自分自身の力を疑ってください。

皆さんの事を貶すようで申し訳ないのですが…

君たちは自分の力はまだ大したことないと覚えておいてください。

点数を付けるならば30点と言ったところでしょう。

厳しいようですが受け止めてください。

では次の総評へと向かいます」


教授の言葉に歯を食いしばって悔しそうにしている生徒がいくらか存在していて僕は健全的だと勝手ながら感じていた。

それはそうだろう。

自分に自信がある人間ほどプライドが高いものだ。

それを大したことない。

などと口にされたら悔しくて怒りに満ちてしまうだろう。

もしくは悔し泣きをするかもしれない。

故に今の彼らの態度は健全的で正しいと僕は勝手に思っていた。


そこからも教授の総評は続いていく。

各グループは50点以上付かない点数を言い渡されて生徒たちは無理ゲーなどと口にして苦笑していた。

最後に僕ら成績トップ組の総評に入った教授は呆れるように嘆息する。


「はぁ…

それではSグループの総評に入ります。

まぁよくもやってくれたな…!

っていうのが講師陣全員の意見です。

夏休みの間に集団制作を先に行っていただけあります。

クオリティが高いのはもちろんですが…

突飛にも思えるアイディア。

抜け道を探してくるなんて思ってもいなかった。

個展を開くと言えば…

確かに一つの作品と言っても過言ではないでしょう。

一つの美術館のようなものをイメージしたんですよね。

このアイディアを出したのが一年生の野田亮平くん。

前回も作品総合原案者として作品をキャンパスに寄贈して頂いた。

今回も寄贈してくれると言う予定でしたね。

クオリティが保証された場合は取り壊さないと約束しました。

芸大側からしてみれば新たな建造物を得ることが出来ました。

これにより来年からでも個展を開きたい生徒の役に立てるでしょう。

外で個展を開く程の実力がない生徒でも芸大内で開くことが出来るでしょう。

それを外部の人間にも無料で公開して…

チャンスに恵まれなかった生徒たちの役に立つことが出来る有意義な作品だったと言えます。

何よりも文句のつけようがない事を悔しく思います。

点数を付けるとしたら…

100点をつけたいのが本音です。

しかしながらここで100点をつけたら君たちの成長の妨げになる気がしてならないのです。

ですので…

申し訳ないのですが95点です。

今回は抜け道を上手に見つけて真摯に課題に向き合ったことでしょう。

ですが次回があったならば…

抜け道ではなく正道で挑んできてください。

では以上で総評を終えます」


教授の称賛の言葉に僕らはパッと表情を明るくさせている生徒と少しだけ悔しそうな表情を浮かべている生徒で二分割されていた。

悔しい表情を浮かべていたのは、監督である奈良鶫と油絵科のメンバーたちだった。


「野田のアイディアは抜け道なんかじゃない…!」


静かに怒っているのは深瀬キキだった。

自らのことではなく僕を貶されたと感じていたのか彼女は代わりに静かな怒りに満ちているようだった。


「野田くんがいなかったらなし得なかった快挙だよ。

それ故に5点減点は非常に悔しい。

僕ら全員が野田くんのアイディアにゴーサインを出したというのに…

それを否定されたような気分だよ…」


雑賀慶秋は悔しそうな表情を浮かべると軽く涙ぐんでいるようだった。


「野田くん。気にしないでよ。

野田くんがいなかったら前回だって今回だって…あり得ないことだったんだから。

私達は本当に感謝しているよ。

それに監督としてもお礼を言わせて欲しい。

Sグループに野田くんがいてくれて…本当に良かったよ。

次があったら…またよろしくね?」


奈良鶫に励まされるような言葉を投げかけられて僕は一つ頷く。

最後に葛之葉雫が僕の肩を軽く叩くと戯けたような表情を無理に作って口を開いた。


「これでまたモテるんじゃない?良かったね。スケコマシくん」


そんなおちょくるような言葉を口にしている葛之葉雫も本心では悔しがっているのが見て取れた。

表情や仕草を見れば分かる。

僕らは長いこと一緒に作業をしてきた仲だ。

彼ら彼女らの事は少なからず分かっているつもりだった。

しかしながら僕がここでくよくよと弱音を吐くのはよろしくないと思ったので皆にエールを贈るようにして口を開く。


「Sグループにもまだまだ成長の余地があり余白は沢山あると言うことじゃないですか。

目先の点数よりも…未来で沢山の人間に称賛される作家になりましょう。

皆様の協力のお陰で今回は高得点を取ることが出来たんです。

本当にありがとうございました。

そして本当にお疲れ様でした」


そんな言葉をSグループの生徒に投げかけると彼ら彼女らは破顔して課題から解放された喜びに満ちているようだった。


「では。今学期の集団制作授業はこれにて終了とします。

明日から冬休みですが今回の課題で振るわなかった生徒は努力を惜しまないこと。

それを肝に銘じてください。

ではより良い冬休みを。解散」


教授の言葉によって各々が講堂の外へと向かっていく。

僕らも揃って講堂の外に出ると後ろから声を掛けられて振り向く。


「野田くん。合同制作の話しなんだけど…いつにする?」


香川初に声を掛けられた僕は彼女と並んで歩く。

少し思考していると前の方から深瀬キキがやってきて話しに加わった。


「私も合同制作…一緒にする約束だったわよね?」


「はい。ですが各々と制作できるほど…冬休みは時間が少ないですし…」


「分かっているわよ。私だって自由な時間は少ないから…」


「じゃあ…この三人で制作するっていうのはどうですか?」


香川初の提案によって僕らはそれに賛同することになる。


「油絵科三年の深瀬キキよ。足手まといだと思ったらすぐに切るから」


「油絵科一年の香川初です。私も先輩が無能だと思ったら切ります」


二人はバチバチと視線を交差させると火花を散らしているようだった。


「とにかく。冬休みもキャンパスに集まって作業しましょう。とりあえずグループチャットを作ったので入ってください」


そうして僕らは冬休みに三人で合同制作をすることになったのであった。



帰宅して真名にその話をすると彼女は少しだけ不貞腐れた表情を浮かべる。


「わかったけど…大晦日から三が日はちゃんと開けておいてね?お互いの実家に挨拶にも行かないとでしょ?」


「わかった。勝手言ってごめん。

課題に追われてばかりでデートもろくに出来ていなかったね。

冬休みの間に一度くらいは外でデートしよう。

クリスマスとか…

それでどうか許してくれない?」


「仕方ないわね。確かに毎日一緒にいるから忘れていたけれど…外でのデートを楽しみにしておくわ♡」


どうにか僕は真名の許しを得ると明日から冬休みだというのに合同制作が待っている。

僕はまだまだレベルアップしないといけないのだ。

このままで良い訳がない。

毎回100点を取れるような作家になるために…

まだまだ日々精進を続けるのであった。

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