第3話成績トップ組には支援者が居る。普段の生活。甘い時間
「油絵科成績トップ組の皆さん。お揃いで…別々の作品づくりですか?今回の課題を理解していないわけでは無いですよね?」
厳しいと評判の教授が僕ら油絵科成績トップ組の集まる教室に姿を現すと訝しんだ表情を浮かべている。
「はい。理解しています。
ですが私達は夏休みの間に一度同じ課題を行っていますので…
今回は挑戦的な方法で課題に向き合おうとしています。
今回も野田くんのアイディアなんですよ」
雑賀慶秋が苦笑するように教授に向き合うと会話を広げていた。
教授は僕の方へと視線を向けると元から厳しい顔なのだろうが不器用に微笑んでいた。
ウンウンと頷いた教授は僕に向けて口を開く。
「流石だね。野田くんの活躍は私も楽しみにしているよ。あの御方もきっと喜んでくれる。これからも励みなさい」
「ありがとうございます。精進致します」
教授は再度頷くと教室を後にする。
残された僕らは再び作業に入るはずだったのだが…。
「あの御方って?」
葛之葉雫は首を傾げて僕に問いかけてくる。
深瀬キキも雑賀慶秋も疑問に思っていたのだろう。
作業の手が止まっている。
「あぁ〜…支援者の方のことですよ。教授も知り合いなのだと思います。それだけの意味ですよ」
「野田もやっぱり支援者いるんだ。居ると居ないじゃ活動の幅が変わってくるもんな〜」
深瀬キキは呑気な表情で当たり前のように支援者の存在を仄めかしていた。
「ここに居る人達は全員支援者がいる感じですか?」
「もちろん。
僕は卒業したら正式にスポンサーがつくことが決定しているんだ。
キキちゃんも既に大量の支援者が居るよね。
海外にも伝手やコネがあって。
そういう意味ではキキちゃんが一番凄いんじゃない?」
「雑賀様…!そんなこと無いです!雑賀様のほうが凄いですよ!卒業したら企業がスポンサーに入るなんて…私はまだまだです!」
「葛之葉さんはどうなんですか?」
「支援者は居るけど…実家なんだよね」
「実家?」
意味の分かっていない僕だけが首を傾げていると他の二人は呆れたような表情で嘆息した。
「野田…あんた世間知らず過ぎ。葛之葉って名前を聞いて何か思い浮かばないの?」
「えっと…なんですかね…わからないです」
「うちもまだまだだね。頑張って世界中に知られる企業にならないと」
深瀬キキの問いかけに首を左右に振った僕を見て葛之葉雫は苦笑するように微笑んだ。
「え?待ってください。そんなに大企業なんですか?」
「大企業ってほどじゃないけど…有名ゲームをいくつも開発している会社ではあるね」
「待ってください。本当に僕は世間知らずっぽいですね…それを聞いてもわからないなんて…」
「野田はたまに見かける絵しか描いてこなかったタイプだね。普通はゲームしたり漫画読んだりって刺激を受けて頑張るんだけど…孤高な挑戦者だったんだ。凄いね」
「そうですけど…皆さんもそういう類じゃないんですか?」
「そんなわけあるか〜。野田だけじゃない?雑賀様だってゲームしたり漫画読んだりしていましたよね?」
「もちろんだよ。葛之葉グループのゲームも何度も遊ばせてもらった」
「悔しいけど…私も。雫は卒業したらそのまま親の会社に就職する感じ?」
「ですね。いつかは自分の会社を持ちたいですが…」
「就職するには芸大卒業が条件なんだっけ?そうじゃないと周りの社員に実力を疑われるから…お金持ちも大変だね〜」
「そうでもないですよ。
私は幸せな方です。
旦那も浪人の私を養ってくれて…活動を応援してくれて。
本当に恵まれていると思います。
旦那や家族のためにも芸大卒業は絶対に果たさないといけない。
後二年。
頑張り続ければ…
将来安泰な人生が待っているので…
改めて自分が恵まれた環境に生まれたことを感謝しているところですよ」
「入学出来れば卒業が確約されているわけじゃないからね。
毎年の進級試験に四年生の最後には卒業試験がある。
一定のラインを越えていないと留年もあり得るからね。
皆も精進していると思うけど…今後も頑張ろうね」
雑賀慶秋のまとめの言葉に僕らは返事をして応えると再び作業に向かうのであった。
僕が知らないだけで成績トップ組の生徒は少なからず支援者の存在が居るらしい。
後にネットで調べた結果…
葛之葉雫の実家はゲーム制作会社で今でも最前線で活躍しているみたいだ。
そんな会社に卒業したら就職できる葛之葉雫は確かに将来安泰だな。
などと簡単に想像すると帰宅した自宅で真名にその様な話しを世間話程度に言って聞かせていた。
「へぇ〜。
やっぱり芸術家の卵の内から囲いたい人は居るよね。
と言うよりも四年生の彼と三年生の彼女は殆どプロの作家と言っても差し支えない感じだし。
二年生の彼女は元からスキルがあったんでしょうね。
会社の従業員を黙らせるために最低でも芸大卒業を言い渡したということなんでしょう。
その成績トップ組は本当に実力があるんだね。
やっぱりスキルのある人間は凄いなぁ〜。
私も絵が描けたら…何を描きたいって思うんだろう…」
真名はもしものことを想像するようにして宙を見上げていた。
僕は黙って真名の空想の妨げにならないように努めていた。
彼女は薄く微笑んで苦笑してみせると僕の目を見つめる。
「やっぱり私だったら…亮平くんを描き続けると思う。どれだけ想像してみても…私がもしも絵が上手だったら亮平くんだけを描く。そんなもしもの未来が見えたよ」
「そうですか…嬉しいですけど…沢山のものを描くほうがきっと健全的ですよ」
「うんん。永遠にキャンバスに残しておきたいと思えるのは…亮平くんだけだから」
「………」
僕らはそこで見つめ合うと良い雰囲気に流されて惹かれ合うようだった。
甘い時間が流れていてこの先のステージへとお互いが進みたがっている。
そんな事をお互いが理解していたことだろう。
このままキスをして…。
そんな野暮な言葉が脳内で流れているようだった。
お互いが手を取り合って絡み合うように握ると僕らは顔を近づけていく。
震えているお互いの唇が触れるようにしてキスをすると僕らは貪りあうような大人のキスをしていた。
このままいくとこれ以上の行為まで発展するだろう。
それをお互いが理解していたはずだ。
だが僕はそこで行為を止めることになる。
何故だろうか。
酷く胸が苦しくて次に進むことに恐怖を覚えていた。
冷静になったと言うよりも不安や恐怖が胸を渦巻いておりキスを途中でやめてしまう。
しかしながら真名は全てを理解しているようで僕の頭を両手で包むとそのまま自らの胸に引き寄せるようにして抱きしめた。
「分かっているよ。
この先が怖いんだよね。
元恋人にされた仕打ちを思い出してしまうんでしょ。
それはきっとトラウマのようなものだと思う。
少しずつ慣れていこうね。
無理に先に進み続けると心が壊れてしまうから。
それにね…?
私もまだ少し怖いんだ。
普段は優しい亮平くんが本能に身を委ねて乱暴に豹変する姿は見たくないって思ってしまうの…
もしかしたら優しく抱いてくれるかもしれない。
でも…少しだけ怖いのは私も一緒だから。
大丈夫。慌てる必要はないよ」
「ありがとうございます。完治したと思っていたんですけどね…どうやらまだまだみたいで…申し訳ありません」
「そんなに謝らないでよ。
私だって…怖いって思っているのは一緒なんだから。
同じ歩幅でこれからも先に進みましょう?
それで良いでしょ?
私達のペースでこの先も進んでいこうよ。ね?」
「はい。そう言ってくれてありがとうね。これからもよろしくお願いします」
「えぇ」
そうして僕らはその後もいちゃつくようにして肩を寄せ合って過ごすと映画などを観て過ごすのであった。
甘く切ない時間が過ぎていくと僕らはそのままソファの上で眠りこけてしまう。
明日を迎えたら僕の画力が一段階レベルアップしているはず。
そんな夢のような幸せな空想に包まれながら。
僕と真名の二人の時間は朝目覚めるまで続くのであった。
「何が救世主野田よ…彼さえ居なければ…私が毎回成績トップなのに…このまま許すわけにはいかないわ…!」
油絵科成績二位の女生徒である
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