第3話それぞれの進んだ道の先で待っている不幸と幸福
過去の騒動で明らかとなった元野球部員とマネージャーの淫行。
この件に関係のある生徒または無関係の生徒を含めて退学謹慎に追い込まれた生徒の総数は100名近かった。
全生徒へ聞き取り調査の結果。
殆どの野球部員が紅くるみと一度以上は関係を持っていたことが明らかになっていた。
紅くるみとは無関係だが不純異性交遊をしていた生徒を含めると退学謹慎処分に追い込まれた生徒はざっと100名近かった。
野球に力を入れていた学校のHPには部員の名前と写真が掲載されている。
それは学校側の配慮であったのだが今回ばかりは悪い方向へと進んでしまった。
学校側の配慮とはプロのスカウトマンが名前と顔を覚えられるようにとのことだったのだが…。
今回はそのせいで50名近くの野球部員は身元バレしてしまったのだ。
それがどういう意味を持つのか…。
今回はそんなお話。
「あ!お前のニュース見たことあるぞ!ってかあれぐらいの女子を囲んで楽しんだって…プライドはないんか?」
肉体労働先の二つ上の先輩は俺の顔を見ると思い出したかのように表情を明るくさせた。
「いや…その話はやめてください…」
「いやいや。何言ってんの?罪を犯したやつに拒否権なんてないし。世間話の延長じゃん。過去のことなんだし話してみろよ。気が楽になるかもしれないぞ?」
「えっと…。
くるみは…誘ってくるのが上手なんですよ。
条件を付けてきて…それを達成できれば童貞を卒業できるって全員が躍起になっていました。
それに高校内でのくるみの立場は相当高くて…
まさに高嶺の花って感じだったんです…」
「ふぅ〜ん。それで50名近くの部員が喜んで関係を持ったってこと?
酷い女子だな〜。恋人もいたんじゃないの?」
「いましたよ。でも恋人には一度も抱かれたことがないんです」
「どういうこと?」
「恋人から完全に拒否られていたらしいです…だからその反動で沢山の生徒と寝たんだと思います」
「へぇ〜。最悪だな。でも同時にお前らも最悪じゃん。他人の恋人を寝取ったんだろ?同じ様に裁かれて当然だわな。今後はしっかりと反省しな」
「はい。そうします…」
それ以降も俺は職場で腫れ物を扱うような視線を送られ続ける。
何処に行っても女性は寄り付かずに恋人や女友達などできるわけもないのであった。
家族が寛容で見放さなかった事が唯一の救いだった。
俺を連れて海外へと移住を決意してくれたのだ。
「この国では私達家族の居場所はないだろう。別の国に行くぞ」
父親にその様な言葉を言わせてしまったことを深く後悔した。
母親もそれに同意するように頷いて俺達家族は海外逃亡を果たす。
俺は再び高校からやり直すわけもなく職を探していた。
「もしかして…向こうで問題起こした野球部員?」
英語圏の人間だったが不慣れな日本語で俺に対応する相手に苦い表情を浮かべざるを得ない。
仕方なく頷いて応えると相手は首を左右に振る。
「この国では性関係で問題を起こした人には厳しい世の中だよ。
職に就くのも難しいと思う。
例えばキッチンカーとか飲食店を自ら開業して経営することぐらいしか出来ないんじゃない?
それか顔を変えて名前を完全に伏せて働くか…
こっちは現実味ない話だけど…
一般企業や有名企業には絶対と言っていいほどに就職できないよ。
それは断言できる。
就職案内所に通っても無意味だと思うけど…
自営業で開業して…でも素性がバレたら客も寄り付かないよ。
この国でも君たちがしたことは受け入れてもらえない。
ごめんだけど…僕もこれ以上君とは関わりたくないな…」
就職案内所で俺は完全に過去を悔いていた。
俺達のしたことはそれ程、世間から煙たがられる行為だったのだと理解していた。
もう俺達に行く先は無いのか…。
そんなことを悔い改めながら帰宅して両親に話をつける。
「まぁ細々とでも良いから仕事をしなさい。キッチンカーで飲食店を開くでいいじゃないか。少しでもいいから社会に触れていないと…」
父親の言葉に頷くと俺は開業の為の手続きなどを調べると後日、キッチンカーの飲食店を開業するのであった。
もちろん身バレをして、まるで客が寄り付かないのである。
それはまた後ほどのお話で…。
「なんであんたのせいでお母さんまで裁きの対象にならないといけないの?
私、ちゃんと言ったわよね?
身を守るために避妊具はつけろとか遊びの関係や火遊びはやめなさいって。
なんでそれを守らなかった娘のせいでお母さんまで裁かれるの?
あんたがいけないんだから…あんたがちゃんと裁かれなさいよ。
ってかいつまで家に居る気?
あんたのせいでお父さんは出て行ったんだけど?
成人したんだからもう家から出ていって?
あんたの顔見てるとイライラするのよ。邪魔だから出ていって」
私は実の母親に完全なる敵意を抱かれていた。
実の娘に対する視線ではない。
完全に糸が切れてしまった母親の言葉を真に受けてしまった私は荷物をまとめて家を出る。
就職しなければ私はこれから生きていけない。
それを理解できているので繁華街に向かうと大人の夜の店の門戸を叩いた。
「うんうん。君知ってるよ。話題の野球部マネージャーでしょ?確か性病持ちじゃなかった?うちは性病持ちNGだから…でも紹介することはできるよ」
「本当ですか!?何でも良いので仕事をしたくて…そうじゃないと生きていけないんです」
「うんうん。そうだね。生きるためには働かないとね。うーん。じゃあちょっと厳しい場所だけど…良いよね?」
「………もちろんです。働けるのであれば…」
「わかった。じゃあここに行ってみて」
相手は住所を私に送ってくるのでそちらに赴くことになっていた。
私が向かった場所はこの国では存在しないようなスラム街的な場所だった。
店の門戸を叩くと私は中に通される。
「じゃあここで働いてもらうけど。業務内容は…」
私はそれを耳にして愕然とする。
端的に言えば私は男性従業員や男性客の相手をすることだった。
男性従業員や男性客の性のはけ口となり出来高払やチップで生計を立てる事が決定しそうだった。
「いや…無理です…」
一応断る言葉を口にするのだが相手は苦笑するだけだった。
「あんな人数相手にしておいて…無理なんて無いでしょ?それに他に何処が拾ってくれると思うの?君のような悪いレッテルが世間に貼られている人たちに居場所なんて無いでしょ?むしろここは拾ってくれるんだよ?それに客の中に太いパイプがある人がいたら…養ってもらえるかもよ?」
その最後の言葉が魅力的に感じて私は最終的に了承するのであった。
ここから紅くるみの苦渋に満ちた生活は始まろうとしていたのであった。
「真名と亮平って付き合ったの?」
同僚であり恋人の姉である咲に話しかけられて私は顔を赤くして頷いた。
「そうなんだ。おめでとう。私も同じぐらい嬉しいよ。でも…」
咲は少しだけ苦い表情を浮かべると私に釘を打つ様な言葉を口にする。
「亮平を傷つけたら…許さないからね?」
「分かってる。私は絶対に亮平くんを傷つけない。約束する」
「よかった。それで最近の亮平の様子は?」
「うん。学校の授業で行き詰まっているみたいで…」
「悩んでいる感じ?」
「そうなの。成績は一番なんだけど…総評で厳しいこと言われているみたいで…最近は絵のことで悩んでばかり。お父様とお母様に亮平くんの悩みを言ったら美術館のチケットもらえて。今度一緒に行く予定なんだ」
「そっか。順調で良かったね。これからも仲良しでね」
「うん。ありがとうね」
そうして私達は本日も業務に励むのであった。
今月の作品づくりは始まったばかりだった。
前回から少ししか時間が経過していないと言うのにすぐに次の作品づくり。
アイディア不足など言い訳にならない。
毎日何処かで何かの刺激を受けてそれを作品に昇華しないといけない。
僕の日々は高校の頃とは180度変わったと思われる。
鈍色だった日々がここまで華やぐとは誰が想像していたであろうか。
澄んだ青の世界に恋の華の色まで散りばめられている今の世界を虹色と呼ぶのかもしれない。
などとポエミーなことを思考していると講義終わりに声を掛けられる。
「野田くん…」
キーの高い女性の声が聞こえてきて僕はそちらに目を向ける。
「はい?何でしょう?」
見覚えのない女性だったが僕は一応応答する。
「君の作品。観せてもらったよ」
「ですか…それでなんでしょう?」
「うん。教授に頼まれてさ。アドバイスと言うか…君の友人になろうと思っているんだ」
「友人?失礼ですけど…同じクラスの生徒じゃないですよね?」
「………」
そこで相手の女性は苦笑のようななんとも言えない表情を浮かべると自分のことを指さした。
「私のこと…知らない感じ?」
それにコクリと頷くと彼女ははぁと嘆息してから表情を明るくさせた。
「先輩で一応有名人なんだけどな…」
「先輩だったんですね…失礼な態度で申し訳ありません。ですが何故先輩が僕の友人に?」
「あぁ…実は私も孤立しているんだ。成績トップでさ。だから…つるまない?って提案」
「でも教授に頼まれたんですよね?」
「そうだよ。でも私も君の作品を観て…君なら私と釣り合うと思って…」
「釣り合うって…」
「いやいや。真剣に取り組んでいるの分かるから。一緒に刺激し合いたいって提案なんだけど…嫌?」
「嫌じゃないですよ。僕もここからどうやって這い上がれば良いのか…分かっていないので」
「そっかそっか。じゃあこれから一緒に過ごそう。私も刺激になれると思うから」
「よろしくお願いします。でも僕には恋人がいるので…恋愛感情は抱かないでください」
「………っチ。何生意気言っての?私は既婚者ですけど!?」
そう言うと彼女は左薬指にはめられている指輪をこちらに見せつけると憤慨していた。
「申し訳ありません。若く見えたので…」
「若いわよ!25歳です!五浪してやっと入学できたんだから!君みたいにストレートで入学できる人なんて稀なんだから!」
「ですか…僕は恵まれていたんですね」
「そうだよ!その間で結婚したけど…芸大入学が諦められなくて…今でも必死で頑張っているの!」
「すごいですね。尊敬します。先輩の名前は?」
「
「野田亮平です。こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあお互いの作品集を見せ合いましょう」
放課後の談話室で僕と先輩の葛之葉雫の芸術に対する談義は続くのであった。
葛之葉雫の存在のおかげで野田亮平が壁をぶち破ることになるのは…
また後日のお話で…。
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