第二章 孤独な戦い 幸せを謳歌する二人

第1話第二章開幕!

「我が校としましては、今回の騒動で理事並びに校長の辞任解任を迫られることとなりました。

私共の教育が行き届いていなかったと真摯に受け止めると同時に現職から退くことをここに宣言します。

ですが、この様な社会問題まで発展したケースは稀な上に私共の職まで奪ってしまった元生徒たちを訴えることを学校側は決定しました。

週刊誌の続報により彼ら彼女に反省の色は無いことを確認いたしました。

弁護士を雇って情報開示請求をしたところ元生徒たちで間違いないことを知りました。

加えて彼ら彼女は現在四月ですのでその殆が成人したということもあり正常な判断ができる人間であるということも理解しております。

それ故の訴えなわけです。

学校側としても元生徒と争うのは本意では無いのですが、著しく我が校の名誉を傷つけたということで苦渋の決断ですがこの様な形を取らせて頂きます」


僕は高校を無事に卒業して本日より晴れて芸大へ入学することが決定していた。

一発合格で芸大に進むことが出来たのは奇跡の様なものだと感じていたが、真名や多田家の人間は当然とでも言うように祝福をしてくれた。

僕が順調に道を真っ直ぐに進む中、反比例するように彼ら彼女は順調に道を外していた。


「もうやめてよ…。私が悪かったから…。これ以上追い込まないで…」


紅くるみからその様なチャットが届いていたが僕は適当に返事をするだけだった。


「僕は何もしていないよ。

許してくれないのは世間だし。

自分たちに反省の色がないことを世間は知っているんでしょ。

だから許してくれない。

僕はとっくに許せているけど。

僕以外が黙っていないんだ。

それを僕がどうこうすることは出来ないことぐらい分かるでしょ?

後、もう関わりたくないから連絡しないで。じゃあ」


そんな冷たくも突き放すような言葉をチャットに打ち込むとスーツに身を包んでいた。

ネクタイをしっかりと締めて少ない荷物を持って家を後にする。

本日は芸大の入学式だった。

家を出た途端、見慣れた高級車が止まっており僕はそちらへと急いだ。


「真名さん。どうしたんですか?今日は仕事じゃないんですか?」


「おはよう。有給取ったの。乗って」


「とりあえず乗らせて頂きます」


助手席に向かうとドアを開けて中に入っていく。


「一緒に行こう。保護者ってことで入学式に参列するよ」


「え?そんな芸大生いますかね?悪目立ちしそうでは?」


「いいじゃない。私と一緒に居たくない?」


「そんなことないですけど。むしろ良いんですか?僕といてあらぬ噂をされても」


「亮平くんはもう成人したからね」


「それって…」


「まぁそういうこと。私はその気があるってことだから。考えておいて」


「わかりました」


そこから僕らは普段通りの二人に戻ると都会の芸大キャンパスまで向かうのであった。



入学式に参列している保護者は殆いない。

けれど僕と同じ様に彼氏彼女らしき存在を連れてきている生徒がちらほらいたことが救いだった。


「〇〇芸術大学。今年度入学者115名。

受験者11158名の中から選ばれた存在である新入生のこれからの活躍に期待します。それでは本校が誇るオーケストラの演奏で新入生を歓迎したいと思います」


そこから音楽科の在校生と教授である指揮者がクラシック音楽を演奏していき僕らはそれにただ圧倒されて感動していた。

芸術大学なので僕が選考した油絵科の他にも様々な科が存在している。

その一つに音楽科もあったわけだ。

僕と真名は荘厳なクラシック音楽に身を委ねて入学式を堪能する。


「それでは〇〇芸術大学。これにて入学式を閉幕とさせて頂きます」


大きな拍手に包まれて僕らはホールを後にする。

本日はこれにて予定の全てが終了となっていた。

後は帰宅するだけ。

けれど折角真名がいるのであればデートをしたいと思うのも当然な思考回路だった。


「この後どうしましょう」


真名に問いかけると彼女はその言葉を待っていたとでも言わんばかりに僕の手を引いて歩き出した。


「行きたいところあるんだよね。付き合ってくれる?」


「もちろんです」


そうして僕らは再び真名の高級車に乗り込むとそのまま高速道路に乗り込んで都会から離れていくのであった。



都会から少し離れた海のある街で僕と真名は過ごしていた。


「そう言えば元カノから、これ以上はやめてくれ。なんてチャットが来たんですけど。僕らはもう何もしていないことを告げたら返事が来なくまりました」


「そうなんだ。

勝手な娘だね。

でも本当にもう私も何もしていないから。

ここまでの社会問題にまで発展したならば勝手に週刊誌の記者やネット記事が火を消さないように燃料を投下するんだよね。

もう世間は絶対に許してくれないでしょ。

この間の記事見た?

オンラインゲーム内でのチャットが公開されていたんだけど。

実はあの中に不破雪菜さんがスパイで入り込んでいたんだよね。

ギルドメンにしてくださいって頼み込んで潜入していたらしくて。

それでギルメン限定のチャット欄が公開されたってわけ。

今頃彼ら彼女は喧嘩でもしているんじゃない?

身内の裏切りを感じているかも。彼ら彼女もそろそろ分裂するでしょ。

それでそれぞれが孤独を感じる。

そこで初めて反省の様なものを感じるんだと思うよ。

独りになって仲間が居なくなって初めて人は自らの行いを顧みるわけだから」


真名は浜辺で海を眺めながら悟ったような言葉を口にしていた。

僕も海を眺めながら彼ら彼女の行く末を思っていた。

これからどの様にして人生を切り開いていくのだろうか。

お節介にもそんなことを感じてしまうのであった。



そこから僕と真名は街で食べ歩きをして過ごしたり、水族館や町並みを観光して日頃の疲労をリフレッシュしていた。

日も落ちてきて真名の高級車に乗り込んだ僕らは帰路に就いている。


「こんな日々がこれからも続いてほしいな…」


真名は僕を試すような言葉を口にしてちらりとこちらへ視線を寄越した。


「僕もそう思います」


そんなどっち付かずな答えに自分自身で苦笑してしまう。


「違いました。

僕は真名さんに救われて。

恩人だって思っています。

でも同時に好きって感情が存在していて…でも僕で良いんでしょうか?

真名さんの様な高貴な生まれの人に釣り合うほどの自信がないです」


正直な気持ちを打ち明けると真名は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「もちろん。私は亮平くんがいいよ。付き合おう?」


真名からのストレートな言葉に僕は脊髄反射するように頷く。


「こちらこそ。よろしくお願いします」


深く頭を下げて告白の返事を口にする。

真名は嬉しそうな表情を携えたまま僕を乗せて帰路を急ぐのであった。



「誰が裏切ったんだよ!」


「ふざけんな!また俺達が標的にされてんぞ!」


「ってかくるみだろ!?お前が一番怪しいわ!」


「私じゃないって!週刊誌に伝手なんて無いから!」


「じゃあ誰だよ!言えよ!」


「この間、入った新人じゃね?いつの間にかアカウントなくなってるし」


「だから知らないやつ入れるのはやめようって言ったじゃねぇか」


「いやいや。女性っぽかったからオフで会ってしようって言ってたのお前だろ?」


「は?ふざけんなよ。全員その気だっただろ!俺のせいにすんな」


「じゃあ誰を責めれば良いんだよ!」


「なんか雰囲気悪いから私抜けるわ。じゃあね」


「俺も」


「じゃあ俺も」


そうして紅くるみと元野球部メンバーはここで疎遠になっていく。

ここから彼ら彼女に待っている孤独な展開を知りもせずに。

仲間で固まっていれば罪を擦り付け合いながら傷を舐め合っていられたのに。

ここから彼ら彼女に待っている本当の孤独な戦いは始まろうとしていた。

一方では野田亮平と多田真名が交際関係になったことをまだ誰も知りはしないのであった。

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