第5話処分!

「真名さんのおかげで学校中は大パニックですよ。

校門には記者が並んでいて運動部と思しき生徒は一人残らず話しかけられていました。

幸いなことに不憫な目にあった恋人である僕の正体はバレていないのが救いでしたけど」


多田真名が僕の家に迎えに来て車に乗り込むと挨拶もそこそこに会話は始まった。


「狙い通りで良かったわ。元恋人からは連絡来たりした?」


「来ましたよ。私達別れたんだっけ?みたいな文章でした」


「すっとぼけている感じ?」


「でしたね。裏切りがあったのは事実だって僕は確信を持って言えますから」


「どうして?」


「付き合っている時から脅しのように言われていたので。してくれないなら部員の誰かとしようかな〜。みたいな感じで」


「なるほど。もっと追い込みたくなったわね」


真名はやる気に満ちた表情を浮かべており腕がなるとでも言うような表情を浮かべている。


「彼ら彼女らの間に同意があったと思っている?」


真名からの唐突な問に僕は少しだけ頭を悩ませていた。


「全員かはわかりませんが…あったと思いますよ」


「なるほどね。

じゃあ全員裁きの対象になるでしょ。

和◯だったとしても大会途中の宿泊先で未成年の淫行が報道されているわけだし。

全員退部、退学。

その後は保護者に対して学校側が訴えを起こすこともありえるわ。

学校の名誉を傷つけたとして。

監督やコーチ陣ももれなく辞任でしょうね。

亮平くんの元恋人も積極的に誘惑していたとしたら同じ様な罪に問われるんじゃない?

例えば、この試合で勝ったら…この試合でホームランを打ったら…この試合を0点で抑えたら…三振をいくつ取ったら…みたいな条件をつけて誘っていたとしたら同罪でしょ?

それをこれから徹底的に調査しようと思っているの。

学校側を問い詰めて真実を関係者一人一人に事情聴取をしてもらう。

必ず何処かでボロが出て事実が明らかになるわ。

亮平くんはもう何も言わなくて言いからね。

不破さんに話をしたと思うけど。

他の記者には口を開かなくていいから。大丈夫。私達がどうにかするから」


真名は車を走らせると僕に言い聞かせるように長い間話を続けていた。

僕はそれを黙って聞いていることしか出来ない。


「まぁとにかく彼ら彼女らには裁きが待っているし、この先も順風満帆に進むのは困難だと思われる。

それも当然だよね。

それだけのことをしたわけだから、ちゃんと裁かれないと筋が通らないってものでしょ?

それを可哀想だなんて思う必要はないから。

当然の報いだからね。

とりあえずこの話はここら辺にして。今日は家で何しようか?」


真名は最後まで自分の言いたいことを言い切ると赤信号で停車した車内で僕に笑顔を向けてくる。


「じゃあ今日も絵を描いても良いですか?真名さんは好きなことをしていていいので」


「私の日常風景を描くってこと?」


「はい。そうしてみたいです」


「じゃあ今日は自室に案内するよ。そっちのほうが日常的でしょ?」


「でも…良いんですか?まだ出会って一ヶ月ぐらいですよ?」


「もう良いわよ。私は亮平くんを信頼しているし信用しているから」


「ですか。ありがとうございます」


そのまま真名が運転する高級車は僕を連れて多田家を目指すのであった。



「おかえりなさいませ。お嬢様。亮平様」


使用人である好々爺は僕らを快く迎えると恭しく頭を下げた。


「お邪魔します」


会釈するように頭を下げると真名の後をついて行くようにして歩き出す。


「今日は自室に案内するけど。心配しないで。亮平くんはモラルもマナーもしっかりした家庭環境で育っているから。二人きりになっても襲ってきたりしないから」


「左様ですか。お嬢様が仰るのであれば爺は信用するまでですよ。ですが…旦那様にはご報告させて頂きます。よろしいですね?」


「構わないわ。私達にやましい事はないから。お父様に報告して頂戴。私も亮平くん

の存在をお父様に認知して欲しいと思っていたところなの」


「それほど亮平様を気に入ったのですか?」


「えぇ。その通りよ。早くお父様やお母様に紹介したいぐらい」


「左様ですか。では爺が先んじて報告しておきます」


「わかったわ。じゃあいつも通りお茶とお菓子お願いね」


「かしこまりました」


使用人の好々爺は恭しく頭を下げるとそのまま僕らが去っていくのを待っていた。

僕は真名の後を追いかけて自室まで案内してもらう。


「ここが私の部屋だよ」


真名に案内されて入った部屋はやけに豪華な様相で多田家がかなりの資産家であることを再認識した。


「じゃあ私は適当に過ごしていていいの?話しかけたりしても良い?」


「大丈夫ですよ。出来れば動き回ったりしないでもらえると助かります」


「わかったわ。じゃあ座って映画でも観ているわね」


「ありがとうございます。話しかけたくなったら自由にどうぞ」


「わかった。じゃあ早速お願いね」


「はい」


そうしてそこから僕は鞄の中からスケッチブックと筆箱を取り出す。

ソファに腰掛けている真名をスケッチしていくと途中で使用人の好々爺が姿を現した。

テーブルの上にお茶とお菓子を置いていくと本日は野暮に感じたのか何も言わずに部屋を出ていく。

映画が三時間ほどで終了するが僕の絵はまだ完成していなかった。


「もう一本観ても良い?シリーズ物で続きが気になっちゃって…」


「どうぞどうぞ。僕もまだ完成していないので」


「そう?じゃあ置き去りにしているようで申し訳ないけど…ありがとうね」


「いえいえ。僕も絵を描くのは好きなので」


「良かった。じゃあ完成を楽しみにしているね」


「はい」


そうして二本目の映画が終わる頃に僕は絵の仕上げに入る。

エンディングが流れている頃に絵が完成して僕は一つ伸びをした。


「完成した?」


「はい」


「見せてくれる?」


「どうぞ」


僕は渾身の一作を真名に見せると彼女は目を輝かせてその作品を眺めていた。


「そう言えば…うちの母親が真名さんにお礼がしたいって言っていました」


「亮平くんのお母様が私に?」


「はい。今度空いている日はありますか?」


「あぁ〜。じゃあ多田家と野田家で食事会しようよ。家に招待するから。両親と祖父母も呼んでおくから。それで良い?」


「良いんですか?それなら助かります。母親に日時を確認しておきます。後でチャットでお伝えしますね」


「分かった。私も両親と祖父母に話しを通しておくから。って言うか…今回の絵も凄いね…また貰っても良い?」


「どうぞ。気に入ってもらえて嬉しいです」


僕はそこで照れくさそうな表情を浮かべていると真名は嬉しそうに微笑む。


「かわいいね…♡」


その様な言葉にかなりどきりと胸が高鳴るのだが揶揄われているのだと思い込んで適当に頷く。

そんな甘い雰囲気の中で部屋をノックする音が聞こえてきて僕らは冷静になる。

中に入ってきた使用人の好々爺は僕に対して口を開いた。


「亮平様。本日はそろそろ帰宅された方が良いのでは無いでしょうか?」


その様な言葉を投げかけられて時計を確認するが、まだ18時辺りだった。

首を傾げていると好々爺は僕に忠告するような言葉を口にする。


「今の状況で外を歩き、別の女性と異常に仲良くしているのは最善手ではないかと。

老婆心ながらこの様な言葉を言わせてください。

真名様と一緒に居たいのはわかりますが。

長い時間一緒にいるとあらぬ噂が流れるやもしれません。

ですのでいい具合の時間でご帰宅することをオススメします」


好々爺の言っていることを理解できたので僕はそれに頷いて真名に別れを告げた。


「今日もありがとうございました。また後日会えたら嬉しいです」


「うん。またね」


そして僕は多田家を後にすると好々爺の運転で自宅まで送り届けてもらうのであった。



「週刊誌の記事は概ね事実であると調査聞き取りの結果判明しました。

我が校としては大変遺憾に思う所であります。

世間の皆様にはお詫びのしようもないとその様に思っております。

そしてこの様な事態を招いてしまった生徒一同を退部、退学の措置を取らせて頂くことになりました。

苦渋の決断ではありましたが…

本校は野球部を半永久的に廃部とします。

更に付け加えて発表となりますが。

当該生徒の保護者の皆様には学校に対する名誉毀損として訴えを起こす所存です。

今回この様な会見を開かざるを得ない状況になってしまったことを残念に思います。当然ながら監督やコーチ陣も処分の対象です。

半永久的に高校野球界から追放されるように私共も動かざるを得ないと思っています。

学校側の校則で不純異性交遊を禁止するとあります。

それを破った生徒を退学処分にするのは正当な判断だと思われます。

世間の皆様には大変不快な思いをさせてしまったことをお詫び致します。

申し訳ございませんでした。

加えて女子マネージャーの恋人であった生徒は現在心の傷も回復中とのことで。

出来ればマスコミ関係の皆様も直撃取材などを控えて頂けると助かります。

二次被害を防いで未来ある若者を助けてやってください。

当該生徒は恋人と性行為を致していなかった事が確認できましたので退学処分とはなりません。

今後とも元気に通学して頂けたらと思っています。

では。何か質問などはございますか?」


学校の理事長である爺がテレビの記者会見で今回の騒動の顛末を口にしていた。

僕は家でそれを眺めている。

やりすぎな気もしたが火消しをする時は徹底的にしないといけないらしい。

学校のイメージを損なわせた生徒を切り捨てるのは当然の判断だっただろう。

僕は少しだけ大人の気持ちをわかった気になっていたのであった。



そして後日。

多田家と野田家が食事会をする…。

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