第4話多田家と記者たちの協力の元…徹底的に追い込む
「今回の騒動を学校側はどの様に受け止めているのでしょうか。
未成年の少年少女の輪◯淫行疑惑を本日は報道徹底解説していきます」
本日、学校は急遽休校となり僕は朝からニュース番組を眺めている。
「これって…くるみちゃんのこと…だよね?」
当然のように僕らの交際関係を周知していた母親に問いかけられて僕は無言で頷く。
「ちょっと…確認なんだけど…亮平と付き合っている期間に不貞行為があったってことで良いの?」
母親はかなり頭に来ているようで眉間にシワを寄せながら再び問いかけてくる。
それに頷くだけでニュースの内容をしっかりと耳に入れようとしていた。
「なんであんた冷静なの?もっと怒ったほうが良いんじゃない?」
母親は当事者の僕よりも冷静さを失っておりワナワナと怒りで震えているようだった。
「そうだね。でも僕が制裁を加えなくても…社会的に抹◯されるでしょ。
僕はそんな気は微塵ももなかったんだけどね」
「どうして?じゃあこのリークした関係者はあんたじゃないってこと?」
「僕じゃないよ。姉ちゃんの友人がかなり怒り心頭だったらしいから。
色々と権力を持っている家柄の人っぽくて。
僕の代わりに何もかもをやってくれたんだと思う」
「咲の友人?どうしてその人が出てくるの?」
「ん?この事実を知って帰ってきた日に姉ちゃんに泣き事言ったんだ。
そうしたら勤務先の病院に連れて行ってくれて。
そこの精神科のナースさんなんだけど。
僕の話を聞いたら傍に居てくれるって言ってくれて。
自分のことでもないのに代わりに怒ってくれたんだ。
僕が一人では何も出来ない状況だったと思ったんでしょ。
怒らせてはいけない人が本気で怒ってしまった結果が現状だよ」
「なんで亮平のことなのに…無関係な人が怒っているの?」
「分からない」
「それはしっかりと確認しておきなさい。
それと母親としては亮平を傷つけた人たちが追い込まれているのは良い気味よ。
徹底的にやってほしいわね。
こんな腐りきった行為が横行しているだなんて…信じられないわ。世も末ね」
「真名さんには確認しておくよ。ちゃんと感謝も告げる」
「そうだ。それよ。今度ちゃんとお礼がしたいと伝えておいてくれる?」
「母さんが出てくるの?」
「当たり前でしょうが。息子の恩人に挨拶しないわけにはいかないんだから」
「分かった。ちゃんと伝えておく」
母親との会話が強制的に終了したのはインターホンが鳴り響いたからだった。
不審に思ったが母親は玄関へと向かうと記者を名乗る女性の姿があったようだ。
「すみません。息子は傷心中で…今はちょっと…」
断りの言葉を口にしていたが記者はどうやら多田家の名前を口にしていた。
その名前が聞こえてきたので僕は急いで玄関へと向かう。
「すみません。少し聞こえてきたんですけど。多田家からの依頼でしたか?」
記者の女性はそれに大きく頷くと勇気をくれるような力強い視線を送ってくれる。
「母さん。家に上げてもいい?さっき話した恩人の方の依頼人なんだって」
「わかったわ。母さんはこれから仕事だから。お茶を出したりお菓子を出したり…」
「分かっているよ。そんな子供じゃないから」
「そうね。じゃあ行ってくるわ」
母親は記者の女性と入れ替わるようにして玄関の外へと向かっていった。
「どうぞ。上がってください」
「失礼します。何のアポもなく申し訳ございません」
「いえいえ。真名さんがもしかしたら言っていたかもしれません。
僕が覚えていないだけで。
上がってください。何もないところですが」
「お邪魔します。ご謙遜を。
特大のスクープがここには眠っているじゃないですか。記者としての腕がなります」
「ですか。玄関じゃあれなのでリビングにどうぞ」
そのまま記者の女性をリビングに通すと僕はアイスコーヒーを淹れてお菓子をいくつか差し出した。
「ありがとうございます。早速ですけどインタビューに移っても良いですか?」
「どうぞ。話せることなら何でも」
女性記者は僕に名刺を差し出すのでそれをしっかりと眺めて名前を記憶した。
「女子マネージャーのK・kさんとはいつからお付き合いを?」
「えっと。一年生のクリスマスだったと記憶しています」
「なるほど。男女の関係にはあったんですか?」
「それは無いです。
周りにはお硬いとか色々言われましたが。
母親が厳しい家庭なので女性を傷つけるような責任の取れない行動は取るなと口酸っぱく言われていたので。
僕はその一歩は踏み出せなかったです。
もちろん手を繋いだりキスぐらいはありましたけど」
「それだけですか?それ以上は決して無いと?」
「無いです。それは断じて無いと言い切れます」
「ではK・kさんの行動は信じられないですか?」
「いや。それは信じられます。
交際中に何度も迫られました。
それを断るたびに脅しのような言葉も投げかけられていました」
「脅し?」
「はい。してくれないなら部員の誰かとしようかな〜。
みたいな軽いノリだと思っていたんですけど。
あの感じだと大会前から身体の関係を持っていた生徒は居たかと思います」
「そうなんですね。それを訴える気は無いのですか?」
「僕の一存では何も出来ないですよ。まだ自宅で生活している一高校生に何が出来るというのですか」
「では何か出来たのであれば…したいですか?」
「それは誘導尋問ですか?」
「違います。力になりたいんですよ」
「どうして?」
「多田家の依頼と言うのもあります。
私の記事が世間に広まったら…それは嬉しい限りです。
その規模や効力が大きければ大きいほど報酬だって上がりますし。
自己承認欲求って言うんですか?
私の根本にもその様なジャーナリズムがあるわけです」
「なるほど。力になって頂けるとして多田家の人たちも尽力してくれると言うことですか?」
「もちろん。亮平さんのご了承を頂けたら。多田家と私共で全て恙無く執り行わせて頂きます」
「ですか。現状でも不本意に彼ら彼女らが追い込まれています。僕は望んでいたわけではないのですが…」
「だめですよ。
自分を傷つけた相手を許すのは難しいことなのは理解できます。
素晴らしい判断をしているとも思います。
ですがそういうのは尾を引きます。
大人になってもトラウマのように胸の奥でずっと燻っているんです。
仕返しを最大限に出来る時にすることをオススメします。
だめな大人の貴重な意見だと思ってください」
「じゃあ…お願いしても…」
「もちろんです。
今日はそれが聞きたかったんです。
真名様も亮平さんに直接は聞きにくかったでしょう。
私を使って間接的に了承を得たかったんだと思います。
どうか真名様を恨まないでくださいね?」
「恨むわけ無いじゃないですか。真名さんは僕の恩人ですから」
「そうですね。素敵な方に出会えてよかったですね。自らの幸運に感謝してください。普通の高校生なら泣き寝入りをすることしか出来なかったはずですから」
「そうですね。本当にその通りだと思います」
「では今日はこの辺で。また後日多田家で会うこともあると思います。その時もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
そこまでの長いやり取りを終えると女性記者である
席を立った彼女を玄関まで送り届けると彼女は深く頭を下げて家を後にするのであった。
「記者の不破雪菜さんが家に来ました。話しをしてさっき帰ったところです」
多田真名にチャットを送るとすぐに返信が来る。
「良かった。それでどうなった?」
「えっと…徹底的にやってもらうことにしました」
「良かった。これで本気出せるわ」
「でも…どうしてそこまで親身になってくださるんですか?」
「ん?それは咲ちゃんの弟だからっていうのもあるよ」
「他にも理由があると?」
「まぁ。そうなるけど。でもそっちはおまけみたいなものだから」
「そうなんですね…」
「勘違いしないで。
私は本当に亮平くんの立場になったと考えた時…泣き寝入りなんて御免だって思った。
多田の力を使えばどうにでも出来るって感じたんだ。
だから99%は亮平くんを思ってだよ」
「あとの1%を聞いても?」
「うん。
それはお祖父様も高校の理事長をやっているの。
野球部と言えばこの国では神聖視されている部分があるでしょ?
亮平くんが通っている高校はお祖父様の高校のライバル校でもあるのよ。
そんな野球部のスキャンダルを知ったら…
週刊誌に売って全員を退部、退学、出場停止に追い込めるって思ったのよ。
1%はお祖父様のためと言うか…
少しだけ利用させて貰ったのは確かだよ。
でも本当に亮平くんが傷付いていたでしょ?
私だったら絶対に許さない。
だから私の勝手で動いてしまったけど…そこは本当にごめんなさい。
亮平くんが望んでいた結果じゃないかもしれない。
でも問題を起こした少年少女を放っておくほどのお人好しでもないの。
私を冷たいって感じるかもしれない。
でも罪には罰なんだよ。
そこに大人も子供も関係ない。
悪いことした人には制裁を。
それが当然のルールでしょ?
此処から先も徹底的に追い込むから。
でも亮平くんは何もしないで。
私達に任せてよ。
亮平くんは得意な絵を描いて。できればもっと私の絵を描いてほしいな」
長文のチャットが届くと僕はそれを一つずつ咀嚼して飲み込んでいた。
ウンウンと頷いて分かった気になっていたが。
実際のところどれぐらい分かっていたのかは定かではない。
「事情はわかりました。また近いうちに一緒に過ごせればと思っています」
「うん。今日は夜勤明けだから会えるけど?どうする?」
「会いたいです」
「分かった。迎えに行くね」
「お願いします」
そうして本日は急遽、多田真名と過ごすことが決定するのであった。
次回予告。
二度目の多田家へ。
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