第3話粛清!

多田真名の家は…。

一言で言えば豪邸だった。

一等地に建つ豪邸を目にして僕は言葉を失ってしまう。


「え…なにこれ…」


そんな感想が口から自然と漏れてしまう。

真名は軽く苦笑するとガレージのシャッターが上がったのを確認して中に車を停めた。

真名が車から降りたので僕も同じ様に降車する。


「ついてきて」


彼女の言葉に従って後ろをついて行くと豪邸の中へと入っていく。


「おかえりなさいませ。お嬢様」


使用人と呼ばれる存在を初めて現実世界で見たことに驚いていた。


「ただいま。客人を連れてきたから。客間にお茶とお菓子お願いね」


「かしこまりました」


恭しく頭を下げる好々爺に軽く会釈をすると僕は真名の後をついて行く。

大階段を登っていき二階の一室に向かうと中に入っていく。


「客間でごめんね。流石にいきなり自室に連れて行くわけにはいかないからね。

それは分かってくれるでしょ?」


申し訳無さそうに苦笑して微笑む真名に僕は首を左右に振った。


「いえいえ。家に上げてもらえたのだって奇跡みたいなものじゃないですか…」


「まぁ…確かに。咲ちゃんの弟だから許してしまった部分は往々にしてあるわね」


真名は自嘲気味に微笑むとパソコンの前の椅子に腰掛けた。


「ちょっと調べ物するから。ソファに腰掛けていてよ」


「はい。その姿をスケッチしても良いですか?」


「この姿を描くの?私はどんなポーズでも描いてもらえるなら嬉しいけど」


「じゃあこのポーズで。手元を動かすぐらいなら大丈夫ですので」


「わかった。出来るだけ動かないように努めるよ」


「お願いします」


そこから僕は鞄の中からスケッチブックと筆箱を取り出して真名の姿を描いていく。

少しした所で使用人の好々爺がお茶と菓子を持って客間に訪れた。

テーブルの上にそれらを置くと僕のスケッチブックの様子を軽く眺めていた。


「お上手ですね」


そんな簡単な感想を口にして微笑んだ好々爺に再び会釈して応えると彼は真名の方へと向かう。


「何か調べ物ですか?」


「そうなの。ちょっとね」


意味深な言い方をする真名に違和感を覚えたのは僕も好々爺もそうだったかもしれない。


「爺に手伝えることはございますか?」


「う〜ん。お父様関係で雑誌記者と繋がりはある?」


「御座います。アポを取っておきましょうか?」


「お願いできる?」


「かしこまりました。ですが…お困りなのはお嬢様ですか?それとも…」


好々爺は僕の方に軽く視線を向けていたが厳しいものではなかった。

逆に心配しているような哀れんでいるような視線にも思えた。


「そう。亮平くんの心に大きな傷を与えた人たちがいてね。

だからちょっと遠回しに痛い思いをしてもらおうかなって」


「左様ですか。しかし…仕返しは新たな火種を生む原因ですよ」


「コテンパンにしてしまえば仕返しする気も起きないでしょ?」


「物騒なことを仰るようになりましたね。

ですがその通りであることも確かです。

ではやるなら徹底的にやりましょう。爺も手伝います」


「本当?それは心強いな。助かるよ」


「爺は何をすればよろしいですか?」


「えっとね…」


そこから真名と好々爺は打ち合わせをするように話し合いを行っていた。

僕はと言えば真名の姿をスケッチし続けている。

真名の後ろに控えている好々爺の事も描きたいと思っていた。

二人は長いことパソコンの前で調べ物をしており好々爺は時折メモを取っているようだった。

二人のスケッチが終了した所で冷たい紅茶を頂くことにした。

疲れが吹き飛ぶような爽やかな口当たりに心が落ち着くような香りがした。

クッキーを一つ口に放り込むと再び紅茶で口の中を潤した。

ふぅと息を吐いた所で二人は準備が整ったようで僕の元へとやってくる。


「紅茶の味はいかがでしたか?」


「紅茶もお菓子も凄く美味しかったです」


好々爺は微笑んで応えると腕時計で現在時刻を確認していた。

もうすぐ20時を迎える頃で辺りは真っ暗だった。


「お送りしますよ」


「いえ。歩いて帰ります」


「そういうわけにはいきません。お客様を安全に送り届けるまでが爺の仕事ですから」


「ですか…ではお願いします」


好々爺に頭を下げると僕はスケッチブックの紙を二枚キレイに切りとる。

それを二人に渡すと驚いたような表情を浮かべていた。


「やっぱり上手ね。もっと描いて欲しい」


真名は笑顔を浮かべて問いかけるように小首をかしげていた。


「お上手ですね。爺のことまで描いてくださるなんて。冥土の土産になりました」


二人は嬉しそうな表情を浮かべており僕も描いた甲斐があったというもの。


「亮平くん。今日はここでごめんね。夕食を食べてからまだやることがあるから」


「いえいえ。今日は本当にありがとうございました。楽しい時間でした」


「そう。私も楽しかったよ。また遊ぼうね」


「はい。お願いします」


深く頭を下げると僕は客間を後にする。

そのまま好々爺の後をついて行くと車に乗り込んで家まで送り届けてもらうのであった。


「お嬢様をよろしくお願いします。

あんなに笑顔で楽しそうなお嬢様を見るのは久しぶりでした。

加えて家の者では無い男性と一緒の部屋にいるのなんて…いつ以来でしょうか。

爺は嬉しく思います。

亮平様…どうかお嬢様を傷つけないでくださいませ」


別れ際に好々爺にその様な言葉を投げかけられて僕はしっかりと了承の返事をして帰宅する。

風呂に入ってから夕食を頂くと自室に戻った。

スマホにいくつかのチャットが届いており、その中には僕を裏切った元カノからのものも存在していた。


「私達って別れたの?今日すごい美人と一緒に居なかった?」


そのチャットにどの様に返事をするべきか…。


「野球部員から話しを聞いたよ。

先に裏切ったのはくれないのほうだろ。

僕らはもう終わっているよ。ごめん」


そんな正直なチャットを送るとベッドに横になって今日の楽しかった記憶を思い起こしていた。

次第に眠気がやってきてしばらくすると自然に眠りについていたようだった。



夏休みが明けて二学期になった頃のある日のことだった。


「◯◯高校。夏の全国大会優勝校。

大会途中に輪◯淫行が横行か!?

関係者からのリークにより女子マネージャーと部員の淫らな関係を暴露!

果てしない性欲の果に…犠牲になった哀れな恋人の存在も明らかに!」


この様な見出しの記事が週刊誌に掲載されて。

僕らの高校には沢山の記者などが押しかけてくるようになる。

ここから野球部員と元恋人であるマネージャーの紅くるみにも不本意ながら制裁が加えられることを僕はまだ知りもしなかった。


真名は静かな怒気を心のなかで燃やしていた。

友人の弟を深く傷つけた相手を粛清したいと願っていた。

それがこれから実を結ぶことになるとは…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る