第2話簡単に見返すことが出来る

「亮平くんは学校に行けそう?」


夜勤の途中に私に連絡を寄越したのは多田真名だった。


「多分ね。真名と仲良くなれることを喜んでいたよ」


チャットを返すと巡回の為にナースステーションを後にする。

無事に担当患者の部屋を見回ると再びナースステーションに戻る。


「かわいい。私と仲良くなれるだけで立ち直ってくれるなら嬉しいよ」


多田真名からのチャットに私も軽く微笑んで返事をする。


「本当に助かったよ。何があったか私には話してくれなかったけど。真名に任せていいんだよね?」


「もちろん。私に任せて。亮平くんは明日も学校行くの?」


「らしいよ。三年生最後のコンクールの為に部活に行くんだって」


「部活?何部なの?」


「美術部。一応部長らしいよ」


「へぇ〜。今度作品見せてもらおう」


「見せてくれるかわからないよ。私は見たこと無いから」


「頼み込むよ」


「そう。仲良くしてあげてね」


「もちろん。じゃあ夜勤頑張ってね」


「ありがとう」


そうして私と多田真名はチャットのやり取りを終える。

私は翌日の朝九時辺りまで勤務に励むのであった。



「行ってきます」


丁度家に帰ってきた姉に挨拶をすると僕は玄関へと向かう。


「大丈夫?」


姉からの問いかけに僕は薄く微笑んで頷いてみせた。


「問題ないよ」


強がりにしては表情が晴れていたと思う。

それも全て多田真名と仲良くなれるという事実が僕の背中を押してくれているようだった。

靴を履いて玄関の扉を開けると姉は僕に口を開く。


「いってらっしゃい。気を付けてね」


「うん。行ってきます」


再び挨拶をすると僕は学校へと向けて歩き出すのであった。



無事に学校に到着すると美術室に籠もっていた。

コンクールの為の作品と受験のための絵の勉強を並行して行っていた。

作品づくりは夏休みも後半ということでもう少しで完成となっていた。

少しだけ手直しを施して一ヶ月近くかけて完成させた作品を遠くから眺める。

中々に目立つ良作が出来たと思うと美術部顧問の先生に報告へ行く。

顧問は僕の作品を見るとウンウンと頷いて笑ってみせた。


「よく出来ているわね。

じゃあ搬送の手続きは私の方でしておくわ。

後は受験の方だけど。本当に予備校は行かないの?」


「はい。先生に教えてもらうのが一番だと思っているので」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど…」


「自信持ってください。先生ほど絵が上手な人を他に知らないです」


「そう?じゃあ私も期待に応えないとね。ここから本腰入れて頑張っていきましょう」


「よろしくお願いします」


深く頭を下げてこれからも指導をしてもらう約束をすると15時辺りまで受験の絵の勉強をして過ごすのであった。



ふぅと一息吐いた所でスマホに通知が届いていることに気付く。


「今学校?近くにいるんだけど。一緒に帰らない?」


多田真名から連絡が届いており僕の心拍数は急激に跳ね上がった。

すぐに荷物を鞄にしまうと顧問に別れを告げて学校の外へと向かう。

グラウンドでは野球部が大会優勝したというのに練習に励んでいる。

そこにはきっと僕の元恋人の姿もあっただろう。

けれどそんな事も気にならないくらい僕は全速力で校門まで急いでいた。

校門の前には誰にでも分かるほどの高級車が止まっていた。

その中には超絶美人の多田真名の姿がある。

外周ランニングをして帰ってきたであろう野球部投手陣やサッカー部員やバスケ部員や陸上部の生徒たちは多田真名のことをジロジロと伺うように魅入っていた。


「誰の彼女だよ」


「誰かの姉だろ」


「ってかめっちゃ高級車じゃん」


「セレブかよ」


「あり得ないぐらいの美人なんだが」


「誰かの彼女なわけ無いよな?」


そんなこそこそ話が聞こえてきていたが僕は車中に居る多田真名に手を振る。

多田真名もそれに応えるように手を振ってくれる。

助手席のドアを開けて中に入ると運動部の生徒たちの怒号の様な嘆きが聞こえてくる。


「また亮平だよ…」


「ってかなんであいつ…」


「モテすぎだろ」


「くるみちゃんの次はセレブ美女かよ」


「次々とカーストトップの人達と付き合いすぎだろ」


「ありえねぇ…」


嘆きの言葉がいくつも聞こえてきて僕は少しだけいい気分だった。

野球部の連中が項垂れるような自分たちのしてきた行いを恥じるような表情を浮かべている。

もしくは辱めにあっていると思っていたかもしれない。

くるみを寝取って高笑いしていたのに僕はそれ以上の美女と既に仲良くなっている。

その事実を目にして自分たちを滑稽に思っただろう。

それを感じた僕は軽く苦笑する。


「ね?わかったでしょ?私といれば簡単に見返すことが出来るよ。

でもその為に亮平くんにしてもらうことがあります」


車を発進させると多田真名は僕を諭すような言葉を口にする。


「何でしょうか?」


「それはズバリ!

私と釣り合いが取れるような男性になること。

まず見た目から。

もう少し大人っぽい見た目にしないと釣り合いが取れないでしょ?

このまま私と過ごすとなれば何処に行っても私はナンパされると思うよ。

そんな時に隣りにいる亮平くんがバッチリと決まっていれば。

誰も文句言わないと思わない?」


「ですね。それはそう思います。でもどうすれば?」


「任せて。私が色々と予約しておいたから」


「予約?」


「うん。まずは個室の美容室。その後はスタイリストの友達にコーディネートしてもらって…」


「待ってください。そんなお金無いです」


「心配しないで。私の奢りだから」


「でも…悪いですよ…」


「良いのよ。私がしたくてやっていることだから」


「そうですか。じゃあ甘えさせてもらいます」


「そうしてくれると助かるよ」


そして僕と真名は揃って都会の個室美容室でイメージチェンジをしてもらう。

その後は真名の友人であるスタイリストにコーディネートをしてもらって時間は過ぎていく。


「そう言えば咲ちゃんから聞いたけど。美術部なんだって?」


「はい。そうですね」


「今度作品見せてよ」


「えっと…」


「お願いっ♡」


「わかりました。写真でならいくつもあるので見せますよ」


「やったぁ♡ありがとうっ♡」


真名に写真フォルダに収まっている作品群を見せると彼女は呆気にとられた様な表情を浮かべている。


「これ…本当に亮平くんが描いたの?」


「はい。おかしいですか?」


「いや…上手すぎない?」


「そんなことは…」


「いやいや。本当に。上手いよ。私の絵も描いてほしいぐらい」


そんな言葉を口にして甘えたような視線を送ってくる真名に僕はドギマギしてしまう。


「良いですよ。描きたいです」


「やったぁ♡じゃあ今から家来る?」


「え?良いんですか?」


「もちろんだよ。じゃあ行こっ♡」


そうして急遽僕は多田真名の家にお邪魔することが決定するのであった。


次回。

多田真名の家にて…

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