第2話 日曜日の外出と虎のぬいぐるみ

 そう日の経っていない日曜日、僕は自転車に乗って近くの大きな書店を目指していた。国道バイパスの側道は舗装状態が悪く、小石に乗り上げたりアスファルトが大きくはがれて生成された穴を避けたりと割に忙しい運転を強いられていたが、それでもすっかり涼しくなった秋風に爽やかな感触を得て僕は走る。

 赤とんぼが飛んでいるな、とわざと口にしてみる。車が走り抜ける国道と違って、側道はそんな戯れを許すくらいに交通量に乏しい。

 もう九月だからアキアカネだろうな、とぼんやり考えながら僕は収穫が半分ほど済んでいる田んぼの横を進む。

 夏の終わりから晩秋まで存在する赤とんぼが、実は時期によって入れ替わっており、ナツアカネとアキアカネという二種類が存在するという事実はあまり知られていない。知ったところで何があるわけでもないのだが、そういう無駄な知識ほど蓄積されていき本当に必要な勉学が疎かになるのはどうしてなんだろうか。

 メンテナンスという言葉とほぼ無縁に近い僕の自転車は、ギシギシとチェーンを軋ませながら走る。中学生の頃に買ってもらったこの自転車は、その頃にはサイズが大きくて合わないと感じたものだったけれど、高校に入る頃には丁度いい感じに馴染んできた。年に一回程度、購入した町の自転車屋に持って行ってチェーンを締め直して貰うくらいの調整しかしていないが、特にパンクすることも転倒してフレームを曲げることもなければそんなものなんじゃないだろうか。

 元々は白だったフレームも経年劣化でクリーム色に変わり、申し訳程度だったタイヤの溝も僅かにその痕跡を残すくらいに消滅している。ブレーキも不吉な音を立てるばかりでなかなか効かなくなったし、荷台に巻いてあった梱包用のゴム紐も劣化して伸縮性を失い、だらしなくしがみつくだけの代物に変化している。

 そろそろオーバーホールが必要かな、と頭の片隅で思う。大事にしている実感はないが粗末に扱うつもりもないので、たまに手入れをしても罰は当たらないだろう。

 こういう場合、自分の小遣いだけでは足りない恐れがある。タイヤをチューブごと、しかも前輪後輪共に変えたら一体幾らかかってしまうのか。ブレーキパッドだって、パッドだけならともかくその上の金具から変えれば相応のお金がかかる。ゴム紐なんかどうでもいいけれど、くすんだボディは洗っただけで元に戻るものか?

 ペダルを乱暴に踏み込みながら、とりあえず母親の機嫌を伺いながら資金を調達すべし、と僕は思った。通学に必要なものだし、趣味の品でもないのだから公金の支出は当然のことだ。

 本来なら、この自転車は中学に入学した妹に譲渡し、新しいもの……マウンテンバイクを買ってもらう予定だった。カタログも取り寄せ、期待に胸震わせた夜もあった。だが購入まであと一週間を切った時に僕は翻意する。妹こそ新車を、僕は古いのをそのままにという申し出に両親は驚きを隠せない様子だった。

 それまで子供用の可愛らしい、僕に言わせればちょっと微妙な趣味の自転車に乗っていた妹は、元々大人用に近い僕の自転車が自分の物になることすら喜んでいたのだが、それがお下がりでなく新車になるということで大喜びした。確かに中古よりは新車がいいだろう。

 僕の翻意は別に深い意味があったわけではない。マウンテンバイクは荷物を運ぶのに向かないし、籠を付けてしまえばその見た目は珍妙になる。だったら無理に乗り換える必要もないし、それなら妹の自転車を歳相応のものにしてあげたら良い。

 そんなわけで妹は自分の新車を手に入れ、僕は自分の自転車に乗り続けることになった。馴染んでしまったものを別のものに入れ替えるというのは、なかなか難しいのだ。

 お前も妹に乗られていれば、もっと掃除とか手入れとかしてもらえたかもな、と心の中で自転車に話しかける。まぁ諦めてくれ、でも最低限に近いくらいには構ってやるからさ。

 いくつかの信号を越え交差点を渡り、風の中を走り抜けて目的地の書店へ向かう。店舗前の露天駐輪場はなぜかいつも混んでいて停められた試しがない。少し行った先に駅があるので、無断駐車していく連中が後を絶たないのだ。

 最初から表に停めることを諦めている僕は、書店の裏側にある屋根付き駐輪場へ自転車を入れて空調の効いた店内へと足を進める。それほど勉学に熱心でない僕が書店に来るというのは、コミックの単行本か趣味の雑誌を買うくらいであまりアカデミックな動機ではない。

 今回は大規模な連載中断と再開を経たコミックの、久しぶりの新刊が出たというので買いに来たという程度の話だ。

 書店の中には、独特な匂いと雰囲気があると僕は思う。インクの匂い、紙の匂い。静かに積もった知識と歳月が織りなす沈黙と静寂、それらが雑多に混じり合ったような匂い。

 そんな匂いと雰囲気が僕は割と好きだったので、家の近所に書店があった頃は用もないのに通うこともあった。駅前の再開発のお蔭で個人書店はほぼ壊滅し、スーパーマーケットに併設されたビデオレンタル店に統合された書店が新規開店したが、そこにはそういった重く湿った雰囲気はさらさらなかった。雑誌とコミック、そしてゲーム中心で天井の高く明るい店内にはどうにも馴染めない。

 なので、国道沿いにある大規模書店へごくたまに行く、という程度に僕と書店との縁は薄まっている。必要だから行くだけであって、そこにはもうあの重苦しい安心感は存在しない。たまに、初めて訪れる町の個人書店に立ち寄ってそんな雰囲気を味わう、それだけでもう満足しているのだ。

 綺麗な店内に客の姿はまばらで、静かに流れるクラシックが客層の高さを印象付けようと一人奮闘しているようだった。残念ながら学術書や専門書のコーナーに人はおらず、児童雑誌やコミックのコーナーが一番人気のようだ。

 ビニールで包まれ棚に平積みになっている単行本を僕は一冊手に取った。手書きのポップに【話題作、久々の最新刊】と書かれていてもまだ山積みになっているあたり、単行本が出たことに気づいていない読者が多いのかそれとも大量に発注しすぎたのか。

 実際僕ももう惰性で読んでいるに過ぎなかったが、それでもきっちり結末までは付き合うしかないなと半ば諦めに近い境地でもいた。ここまで既に単行本で十冊以上を費やしており、それでも未だ物語はその全貌を見せていない。

 僕はわざとため息を軽くつくとレジに向かう。と、割と込み合うレジ前に並ぶ列に、見たことのある後姿があった。

 「よう櫻井」

 「あら長谷川くん」

 意外そうな顔をして櫻井みなみは振り向いた。その手にあったのは、僕も買おうとしているコミックの単行本だ。

 「へぇ、櫻井もそれ読んでるんだ?」

 「あ、いえその……駄目?」

 取り乱して恥ずかしがる櫻井みなみの姿を僕は初めて見た。半年以上同じ教室にいても、涼しげに微笑む顔しか見たことがないという事に気が付く。

 「いや、駄目じゃないよ。ただ意外だっただけ。櫻井も漫画なんか読むんだ」

 「うん、あ、その話はまたあとで」

 彼女は順番が回ってきたのでそそくさとレジへ向かう。その後ろ姿を見て、そういえば私服の櫻井を見るのも初めてだなと僕は思った。

 会計を済ませ、僕は単行本の入った紙袋を受け取って併設されているゲームセンターの方へ足を向けた。別にゲーマーというわけでもないので、UFOキャッチャーがひしめく一角へと向かう。

 格闘ゲームはコマンドを覚えられないので好きではない。シューティングゲームも、画面いっぱいにばらまかれた弾幕を避けることが難しく、画面内の敵を一掃するボムをいきなり多用してあっさり追いつめられるというのが定番になっている程に得意ではない。ガンシューティングやリズムゲームに至っては、周囲の目が気になりすぎてまともにプレイできない。

 それに引き替えUFOキャッチャーは素早い判断力も決められたコマンドも必要のない、ある程度の思考力と財力さえあればそれなりに楽しめる素晴らしいゲームだ。僕はゲットできる商品よりも、ゲットする行為そのものに喜びを見出しているので、いくらか費やした時点で無理と判断すれば深追いはしない。僕が欲しい物は達成感であって、敗北感と徒労感は全く必要ない。前述のアーケードゲームで得られるのはまさに後者のみであって、前者を求める僕は必然的にUFOキャッチャーのみに向かうことになる。

 ふらふらと歩いていると、ガラスケースの中にどこかで見たことのある形の銃が飾ってあった。松本零士作品によく登場するコスモドラグーン、宇宙戦士の銃のレプリカだ。

 この手のアイテムは比較的いい加減にできていることが多く、それは主に予算の都合に伴う簡略化によるものだった。材質は安くスカスカなプラスチック、梱包も簡単な紙箱に針金で固定されているだけ。塗装の品質でそれなりの水準には見せているものの、やはり景品として作られた品物の宿命と言うべき安っぽさからは逃れようもない。

 しかし、本格的な物になれば数万は下らない価格が付く物体を、それに似た物でしかないとは言え千円程度でゲットできる可能性というものには抗えない。どうせ数万はする本格的レプリカと言えども実物のように機械人間と戦うことはできない文鎮である。ならばプラスチック製のお手軽モデルガンで我慢するのもいいではないか。

 僕は財布から千円札を一枚取り出すと、おもむろに両替機へ突っ込み百円玉へと変える。一回二百円、五百円を投入すれば三回プレイできる。この場合、まずは一回プレイしてアームの状態を見るのがセオリーだ。

 百円玉を二枚、投入口へ続けて落とす。カシャンカシャンと軽い音がして、残り回数のLEDが0から1へ変わり、矢印の印刷された操作ボタンが点滅を始める。

 さてと。

 僕は心の中で呟いて、まずはUFOを右へ移動させる。最初は調子を見るためなので、変な小細工をせず箱の中心を狙うのだ。思った位置でボタンを離し、UFOが止まる。その位置を上目で確かめ、予想していた場所とさほどズレていないことに安堵する。

 次に奥行き移動だ。隣のボタンが点滅しているので、僕は慎重にそのボタンを押す。ぐぐっと揺れる感じでUFOが奥へと移動する。思ったより加速がなく、ボタンを離しUFOが止まった位置は箱のほぼ中心だ。僕は心の中で快哉を上げる。

 X軸とY軸を確定されたUFOは、そこから垂直に落下を開始する。ここで、本当にまっすぐ落ちてくれているのかを確認することが肝要だ。場合によっては手前、もしくは奥にズレながら降りる場合があるから、次からはそのズレも計算に入れなければならないからだ。

 降り切ったUFOのアームが締まり、景品の箱を抱える。これが持ち上がった時、そして落ちるときに箱の重心を見切らなければならない。ぬいぐるみなら重心を予測することは簡単だけれど、このような箱タイプの景品は見えない中身の配置によって重心のポイントがズレていることが割とあるのだ。

 そして、持ち上げの際に最も重要な確認……そう、アームの握力を確認する。これがユルユルの場合、どれだけ理想的なポイントで景品を掴んだとしても、簡単にゲット出来ることはない。箱のへこみをなぞるだけで掴もうとしない、やる気に欠けたアームではこれまでの観察も全く意味がない。その点、この台のアームは割とやる気に満ちていて、しっかりと箱を抱え込んで持ち上げることに成功した。

 重心も見事に真ん中近くを引き当てており、ゆらゆらと心許無げに揺れるアームに箱はゆっくりと運ばれていく。しかし移動の途中でアームが力尽きたのか、ずるっとその掌から箱は零れ落ちる。スローモーションで零れ落ちた箱は、そのままの勢いで筐体左手前にある景品搬出口へと滑り落ちてくれた。

 心の中で快哉を叫ぶ。なんと一回で取れてしまった、こんな幸運は戦略・戦術共に高度になった最近のUFOキャッチャーではほぼ有り得ない。

 「おめでとう」

 突然背後から声がした。振り向かなくても、それが櫻井みなみの声だということくらい僕にだって判る。

 「ありがとう」

 振り向かず、僕は屈んで景品を搬出口から取り出すと据え付けのビニール袋に放り込んで一息ついた。視線を右に移すと、UFOキャッチャーのガラスケース内部を覗き込む櫻井みなみがそこにいた。

 「うまいものね、そう簡単に取れるようには見えなかったけど」

 「偶然だよ、初回はアームの調子とか動きを見るためにやるんだ。だから、一度で取れるのは本当に偶然さ」

 「そうなんだ。長谷川くんはこういうの得意な方?」

 「他のゲームに比べたら得意かも知れないけど、そんなに上手いわけでもないかな。取れないものはどう頑張っても無理」

 「ふうん」

 櫻井みなみは、その澄んだ瞳を僕に向けた。何かを期待している目だ。

 「これ」

 彼女が指さす先、ガラスの向こう側には幾重にも積まれたぬいぐるみが煌びやかなライトに照らされていた。

 「この虎」

 ウサギやライオンやリスに混ざって、涙目をしている虎が転がっている。頭でっかちなくせに伸びをしているお蔭で実に取りづらそうなぬいぐるみだ。

 「もう千円も使ってるんだけど、全然駄目なの」

 「あー、これは難しいかもね」

 僕はその虎をじっと見てみる。伸ばした手足の左右がそれぞれ交差しているので、そこにアームが入ればなんとか行けるかも知れない。しかしアームの力が弱ければ、隙間に入らず弾かれてしまうだろう。正直に体躯を掴みに行っても、柔らかく滑らかな生地では掴み切ることが難しい。

 恐らく櫻井みなみは正面から正直に挑んで、資金を浪費したに違いない。僕はひとつため息をつくと百円玉を一枚投入口へ入れた。こちらの景品はあまり人気がないのか、一回百円というリーズナブルな価格設定になっている。

 アームを移動させ、とりあえず想定した重心が中央に来るようUFOを操作する。僅かに右にずれたが、まぁ許容範囲だろうと思っているうちにUFOがアームを広げて降下を開始した。がくん、と接地を認識したUFOが効果を止めてアームを狭めた。寝そべる虎の胸の下へとアームの先端が潜り込み、そしてUFOは厳かに上昇を開始した。

 するん、という擬音がぴったりくるくらいにアームはぬいぐるみの表面を優しく撫で上げるだけで、持ち上げようという気はさらさらないようにあっさりと上昇した。これは無理だと僕は心の中で舌打ちする。

 「なるほどこれは普通じゃ無理だ」

 僕は呟いて、百円玉をもう一枚投入する。

 「ね、取れないでしょそれ」

 「ちょっとアームが緩過ぎるね」

 交差している前足の間にアームの先端が入り込むようにUFOを移動させる。引っ掻けて少しづつ移動させるという方法が有効かどうかを試してみるつもりなのだけれど、しかしこれは一定以上の掴む力が保証されている場合に有効な手段であって、これほどまでに緩々なアームに対して有効かどうかは未知数だ。

 がくん、とUFOの降下が終わる。アームの先端は僕が望んだよりも深く足の間に入り込む。そして上昇フェーズに入るUFO。アームに力が入らず、そのまますり抜けようとするアームのひじの部分が奇跡的に虎の顔面にヒットした。顔面に邪魔されてそれ以上広がることのできないアームは、虎の前足を下から支えるように持ち上げ始める。後ろで櫻井みなみが小さく嘘、と言ったが厳然たる事実だ。まぁ僕が意図した動きとは違うのだけれど、それでもアームは虎の顔面と前足を可動部分以外で支えているので緩さなど意にも介さずに虎の体を持ち上げる。それほど軽くないぬいぐるみがその重量を以てしてアームに自らを固定しているという、本来ならばほぼ有り得ない光景が展開していた。

 UFOが一番上まで上昇し、虎はそのアームにすがりつくようなポーズでガラスケースの中に立ち上がる。ゆっくりと取り出し口まで引きずられて行った虎は、小さな段差を乗り越えた衝撃でごとりと搬出口へ転がり落ちた。

 小さくファンファーレが流れる中、僕は屈んで虎を取り出すとまるで空想上の生き物でも見るかのような神妙な面持ちで僕の後ろに佇んでいた櫻井みなみに差し出した。

 「はい」

 「なんで取れたの?」

 櫻井みなみはうわ言のようにそう言った。

 「いや、偶然だよ。もう一度やれと言われても無理」

 虎を受け取った彼女は、神妙な顔のまま僕と虎を交互に見比べる。その行為にどういう意味があるのかは全く判らないが、とにかく彼女は納得していないようだった。

 「うまいことアームがひっかかっただけさ、たまにあるんだよこういうの。どうにも説明のできない、再現の無理な取り方っていうのが」

 「そうなんだ」

 納得いかない顔をしている櫻井みなみを見ていても仕方がないので、僕は別の台の景品を見るために移動する。あまり欲しいと思える景品がなかったので、そのままビデオゲームの筐体が並ぶ一角へと向かい、どんなゲームが稼働しているのかをなんとなくチェックする。別にプレイするわけでもないし、特に詳しいわけでもないけれど、動いている画面を眺めるのは楽しいというだけだ。

 しばらくの巡回を終えて店内を見回すが、既に櫻井みなみの姿はなかった。僕が軽く肩をすくめて店を出、清涼飲料水の自動販売機の前に立ってラインナップを眺めていると後ろから声がする。

 「さっきはありがとう」

 僕はぎょっとして振り返った。そこには、さっきよりも恥ずかしげに俯く櫻井みなみの姿があった。肩から提げた麻のバッグからはさっきの虎が涙目の顔を覗かせており、シックな装いとはいまひとつ調和していないように思えた。

 「これ、貰っていいんだよね?」

 虎の頭をぽんぽんと軽く叩く櫻井。

 「あ、ああ、どうぞ」

 「良かった。欲しかったの」

 「そうか、それは良かった。でもそんなので喜んでもらえるとは思わなかったな」

 「そうかな?それが何であれ、誰かが自分のために努力してくれたなら、それはとても嬉しいものよ」

 「そっか、それはなんていうか、ありがとう」

 櫻井みなみはふふっと軽く笑って、自転車にひらりと乗った。

 「じゃ、また学校でね」

 「ああ、それじゃ」

 僕は櫻井と別れて自宅へと帰るべく自転車を走らせた。帰り道、私服姿の櫻井もまた完璧な美少女そのものだな、などと考えてみた。こざっぱりとした私服は流行とはまったく異なる地平にあって、それでも良く似合っていたように思う。あれはセンスだなと物知り顔で納得してみた上で、そんな思考の行きつく先には全く意味が無いことに気づいた僕は、軽く頭を振ってそれら雑多なあれこれを思考領域から追い出した。

 さっさと帰って買った本を読もう。だいたい、日曜の昼間はいつも僕が【学校で使う資料検索】という名目で買い与えられたノートパソコンでだらだらと遊んでいるのだが、今日は妹がクラシック演奏会の配信を見たいというので利用を譲り、書店に出かけることにしたのだ。たまにはこういう日があってもいいだろう。

 通りがかった河川敷のグラウンドでは、少年野球のチームが練習に精を出していた。いがぐり頭の野球小僧たちが張り上げる声を背中に聞きながら、僕は自転車を家へと走らせる。

 飼い主が投げるフリスビーを猛ダッシュで追いかける茶色い犬、堤防の斜面を段ボールの切れ端に跨って滑り降りる少年たち。実にのどかな秋の日の一幕を駆け抜けて、僕は家へと帰った。

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