リアード=レジェンス 編

第6話 住宅街の天使

 これからどうしようかと考えた時、私の耳に、子供たちの賑やかな笑い声が聞こえてきた。


(今の時間帯だと、住宅街へ行けば、ちょうど子供達が遊んでる時間ね。

 みんなと会うのも久しぶりだし、一緒に遊んでこようかしら♪)


 そう思って、住宅街へ足を運んでみたが、子供たちの姿はなく、辺りはしんと静まり返っている。


(なんだか妙に静かね。

 いつもなら子供達が道端で遊んでいるのに……)


 その時ふいに、今日が何の日だったかを思い出した。


(そう言えば……今日は、私の誕生日だったわ。

 この日だけは、お城の外に出た事がなかったから分からなかったけど、

 私の誕生日を祝って、商店街に市が立つって、前に侍女たちが話してたっけ。

 珍しい物がたくさん露店に並んで、大道芸人も来るとか……みんな、そっちへ遊びに出掛けているのかしら)


 しばらくその辺りを歩いて回ってみたが、子供の姿どころか、話し声も聞こえない。そろそろ諦めて、どこか他の場所へ行こう……と、私が思った時だった。


「ねぇ、そこの綺麗なお姉さん」


「……え?」


 突然、背後から声を掛けられた。

 驚いて振り向いた先には、一人の少年が立っていた。橙色の髪を顎下まで伸ばし、エメラルドグリーンの瞳キラキラと光って見える。


(……天使、さま……?)


 あまりの可愛さに、思わず感嘆の溜め息が出る。

 先程まで誰もいなかった筈の場所に忽然と姿を現した少年。

 それは、まるで天使が空から舞い降りてきたかのようだ。


「……お姉さんって、私のことかしら?」


 辺りに私以外誰もいないのを確認してから尋ねると、天使は、うん、と可愛らしく頷いた。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」


 天使が首を少し傾げながら訊ねた。

 その高くて甘い声は、砂糖菓子のようだ。


「いいわよ、私で解る事なら。

 それで……何を聞きたいの?」


「この近くにね、エルマーニュ=コンフェスっていう貴族がいると思うんだけど……

 僕、彼の家を探してるんだ。お姉さん、知ってたら教えてくれない?」


「エルマー……?

 ……えっと、もう一度言ってもらえる?」


「エルマーニュ=コンフェス。

 この辺りに住んでるって聞いたんだけど……」


「エルマーニュ=コンフェス……?

 うーん、どこかで聞いた事があるような……」


 私が必死に思い出そうとするのを天使は、じっと見つめて待っている。


「あっ、確か……この近くに大きな屋敷があったわ。

 たぶんそこに住んでる人の事じゃないかしら」


「お姉さん知ってるの?」


「ええ。

 良かったら、そこまで案内しましょうか?」


「本当? 嬉しいなぁ♪

 そうしてもらえると、すごく助かるよ」


 天使の満面の笑顔に、私は、見事にノックアウトされた。


「実はね、僕、道に迷っちゃって……

 道を聞こうにも誰もいないし、すごく心細かったんだ」


 天使は、不安げな表情をして見せたが、すぐにぱっと顔を輝かせて私を見つめた。


「でも、お姉さんが優しい人で良かった~。

 案内までしてもらえるなんて思ってなかったからさ。

 ありがとね、お姉さん♪」


(うっ……こ、この子……可愛い過ぎるっ!!)


 こうして私は、天使のように可愛い少年と住宅街を歩きだした。


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