第29話 【真実ED】一緒に生きて

 扉が開き、鈴の音が鳴る。

 私は、入って来たお客さんに向かって笑顔を向けた。


宿屋安らぎ亭へようこそ♪

 お客様、お一人ですか?」


「いや、今夜は君と二人で熱~い夜を過ごそうかと……」


「お一人ですね♪

 それでは、休憩ですと1000G、一泊ですと5000Gとなりますが、

 いかがいたしましょうか?」


「え……や、やけに高いなぁ。はは、また出直してくるよ」


「そうですか、それでは次回のご利用をお待ちしております♪」


 お客さんが扉の外へ帰って行くのを私が見送ると、背後から声を掛けられた。


「どうやら、接客の方はだいぶ慣れたみたいだね」


 この宿屋安らぎ亭の女将さんだ。


「あ、女将さん。はい、おかげさまで」


(旅で学んだ甲斐があったってものよね♪)


「あんたらが 『住み込みで働かせてください!』

 ……って、頭下げて来た時は、どうなる事かと思ったけど……なかなか様になってるじゃないか」


「本当に女将さんには感謝してます」


「見るからに身分の高そうな服装してるんだもの。

 どこかのお姫様が駆け落ちてもしてきたのかと思ったわよ」


「そ、それは……」


(そう言えば…女将さんには、深い事情を話してなかったんだよね。

 追求されなかったから今まで黙ってきてたけど……そろそろ限界かなぁ)


「……ま、人それぞれ。いろんな事情があるもんさ。

 あんたらが話したくなった時にでも話してくれればいいよ。

 だから、そんな顔しなさんなって」


「女将さん……って、私そんなにひどい顔してました?」


「あははは、気にしない気にしない。

 さーて、交代の時間だ。奥に入って食事にしな。

 今晩は、久々に腕によりを掛けて作ったからね」


「女将さんの料理は、おいしいから毎日楽しみなんです♪」


「あら、嬉しい事言ってくれるね。

 ああそうだ、ありすちゃんの旦那も呼んでおいで。

 裏で薪割りしてるだろうから」


「だ、旦那っ!?

 ……やだなぁ~女将さんったら、私たち結婚してませんよ~」


「何だい、同じ部屋で暮らしてるんだ。夫婦も同然じゃないか」


「ふ、夫婦!?

 私たち、まだそん関係では……!」


「あら、そうなのかい。

 同じ部屋で暮らし始めて、もう数週間も経つっていうのに。

 よく我慢していられるねぇ~、ルカくんは」


(きゃーーっ! 女将さんったら、何てことを……)


「まぁ、見るからに真面目そうだものね~。

 そうゆう時は、アリスちゃんの方からそれとなく誘ってあげなきゃ」


「さ、さ・さ・誘うって……何言ってるんですかー女将さんはぁ!」


「あはは、あんたらは本当におもしろいね。

 今朝もルカくんに似たような事を言ったら、アリスちゃんみたいに……

 ……いや、それ以上に動揺してたよ」


「ルカに変な事吹き込まないでくださいー!」


「はっはっは、まぁそのうちにね。

 それより早くしないと食事が冷めちまうよ」


(そのうちって? そのうちって何?!)


 私は、お腹を抱えて笑っている女将さんを尻目に、ルカを呼びに行った。


(えーっと、ルカは……あ)


「ルカ!」


 捲き割りをしていたルカを見つけて、私が声を掛けると、ルカがこちらを振り返る。


「……ん、アリスか。どうした?」


「うん。食事の時間だよって、呼びに来たの」


「そうか、わかった」


「うわー、すごい汗だね。お疲れ様」


「……アリス」


「なあに?」


「その……いつになるか、解らないけどさ。

 もっとがんばって働いて、ある程度お金が貯まったら……」


(え……こ、これは、もしやプロポーズ……?!)


「……一緒に、店でも開かないか?」


「……店?」


(……プロポーズ、じゃないのね)


「ああ。そんなに大きくなくていい。自宅の一室を店内にして……」


「自宅? そ、それって……」


「……つまり、その……俺と……」


「…………………………………

 …………………………一緒に、暮らさないか?」


「……今も、一緒に暮らしてるんだけど」


 女将さんが経営している宿屋の一部屋を間借りして。


「……ぷっ、あはは。ルカらしい!」


「え?」


(ロマンチックな言葉や、使い古された言葉なんていらない。

 ルカの言いたい事、ちゃんと私の心に届くもの)


「……アリス?」


「ふふ、私ね。ルカの考えてる事が解るのよ」


「え……そ、そうか」


「うん。だから、ね。一緒にルカの夢を叶えよう」


「……俺の夢?」


「そう。ほら、前に話してくれたでしょ。

 理想の家庭に憧れてたって」


「……ああ、あれはもういいんだ」


「え? 何で?」


「俺、その時言っただろう。他に大切なモノができたって」


「……あー、そう言えば……」


 旅の途中、そう言えばルカがそんなことを言っていたな、と私が思い出していると、突然、ルカが私を抱きしめた。


「る、ルカ!?」


「アリスがいるから。

 俺にとって、アリスが一番大切だから」


「ルカ……」


「だから……もう、今までみたいに命を懸けて守るつもりはない」


「……え?」


「お前と一緒に生きていきたい。

 お前だけをこの世に残して、先に逝けるかよ……」


「い、逝かないでよ!

 ずっと…ずっと……一緒だよ」


「ああ……」


「……ルカ、好きよ。

 私、ルカが大好き!」


(ふふ、ルカってば、真面目で硬派で……すごい照れ屋なのよね。

 顔は見えないけど、今どんな顔をしてるか、想像がつくわ)


「………………………………………………………愛してる」


「えっ!?」


 今度は、私が顔を真っ赤にする番だった。




《『私の王子様』(ルカ編)》完


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