第40話 勇者、思い悩む。
「どうせなら『魔法科の回復魔法コース』所属にして、回復魔法の一つでも覚えてくれりゃあ無能聖女の器が役に立ったのに♡」
とここで、ホールの中央部から飛んできたシド先輩の茶々に、アリアがムッとしたように口を尖らせる。
「それじゃあ取得できる冒険者免許も『回復職』のものになっちまって、公に剣が握れなくなるだろ。イルさんの指示で一応サブで『回復魔法』の科目はとってるし、いいんだよそれで」
ああそうか。どうりでさっきから魔導書を広げてうんうんと唸っていたわけだ。
いやしかし……。
「まあなー。ゆうてもアンタ、さっきっから微塵も魔法詠唱成功してないじゃん。せっかく大聖女の器をかぶってるっつーのに、どうやったらそんなに器の無駄遣いができるんだよ?」
けらけら笑うシド先輩の指摘はもっともで、アリアは魔法の才能が皆無の模様。微塵も回復には期待ができなさそうだ。
「うるせえほっとけっつの! 今まで剣一筋で生きてきたんだし仕方ねえだろ。人には向き不向きってもんがあんだよ、なあアッシュ……⁉︎」
「わ、ワカルワー。ま、まあ、回復職としては思いのほか薬の調合が得意な王子がいるし……アリアには剣で活躍してもらえれば、それでいいんじゃないっすかね」
魔力ゼロの俺、涙目のアリアに完全同意してウンウン頷きつつ、さりげないフォローを入れておく。シド先輩はアリアに向かってこき下ろすような笑みを浮かべたのち、
「まあ、期待するだけ無駄そうだしな♡ どうせ王子も、回復の即戦力を期待してるっていうより、ここで聖魔法を会得しておけば、いずれ体が戻った際に聖騎士を目指すお前自身のためになると思っての指示なんだろーし」
と、相変わらずの考察力で、王子の意図を的確に見抜いていた。
話を振られた王子は、ふっと口元を緩めて頷く。
「よくわかってるじゃないか。騎士団にいては実務が忙しくてなかなか魔法の訓練も難しいからな。せっかくの機会だと思って存分に学び、己を高めるといい」
「!! ……はっ。不肖アストリア、殿下のためにも、ヴァリアントのためにも、誠心誠意学ばせていただきます!」
王子の一言で急に態度を改め、意を決すように魔導書を握りしめるアリア。
シド先輩は鼻で笑ってたけど、アリアは構わず俄然やる気だ。
そんな仲間達のやりとりを脇目で眺めながら、俺は書類を握りしめたまま、ぼんやりと考えを巡らせた。
(元大魔法使いの吟遊に、王国騎士団の剣士に、ヴァリアント王国の王子に、ガキの頃から酒場業務を叩き込まれてきたマスターのラウル……か)
「……」
「……ん?」
「あ、いや……」
ふいに俺は、妙に漠然とした不安に駆られて、力なく苦笑する。
それに気づいたのだろう王子が、首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。
「どうかしたのか?」
「……」
「言ってみろ」
「いえ。その……王子も、シド先輩も、アリアも、なんかすげえよなって思って」
「……?」
「いやほら。アリアは由緒正しき王国騎士団の副騎士団長、シド先輩はなんかすげえ魔術師団の元大魔法使い。王子においてはヴァリアント王国の王太子とか。それぞれみんな、すげえ肩書き背負ってるじゃないっすか」
「……。まあ、そうだな」
「それに引き換え俺は、大した出自もない平凡な村人出の戦士で……。王子やシド先輩、アリア相手に、『ポンコツヒーラー』だとか、『剣も魔法も使わない吟遊』だとか、『聖なる魔法の使えない聖女』だとか。挙げ句の果てに『魔王ぶっ倒す』だとか散々調子のいいことを宣っておきながら、結局は仲間に助けられっぱなしで、ろくすっぽ役に立ってねえよなあって」
「……」
「なんか、急に情けなくなったっつうか……」
へらりと笑いつつも、改めて口にしてみれば余計に自分の不甲斐なさが露呈するようで、なんだか妙に居た堪れない気持ちになってきた。
「……」
王子はそんな俺の表情を一瞥した後、妙に感慨深そうな声色で「ふむ」と唸った。
「……?」
「お前、軽率に見えて、案外気にしいな性格なんだな」
「ちょ。確かにノリは軽い方すけど……そりゃあ俺だって年頃の男子なんで、あれこれ悩むし、不安にだってなりますよ」
ズバリと指摘され、むすりと口を尖らせる俺。
王子はふっと口元を緩めると、ソファで寛ぎながら小型端末をいじるシド先輩や、魔導書と向き合うアリア、厨房で料理メニューについて話し合いを始めたラウルとマゼンタばあさんに視線を流した後、ポツリとこぼした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます