第24話 勇者、300万案件の謎に迫る。
◇
くだんの用心棒案件。現場となる酒場は、訓練校とちょうど真逆の位置となる東ジャイロの外れにあった。
商業が栄える東ジャイロで、まるでこの地帯だけが切り抜かれているかのように閑散としている。看板から察するに、この店の周辺には七、八軒の飲食店や商業店舗が存在していたように見受けられるが、現在は閉鎖してしまったのか、営業の気配はおろか、人の気配すらない。
「へえ。アンタたち
そんな僻地で俺らを出迎えたのは、恰幅がよい酒場の
建物の年季の入り方はなかなかだったが、きっとひと昔前はそれなりに繁盛していたんだろうなと、そんな雰囲気を感じさせるホールの広さや、机椅子の数、充実した営業道具の数々。……しかし今や、ほとんどのキッチン用品には白い布が被せられ、カウンターや所々の机には破損箇所が目立つ。
「ひとまず座っておくれ。本来ならこの時間は営業時間なんだけどねえ。見ての通り、今じゃ人っ子一人寄り付かない。事実上の開店休業状態だから、どこに座ったって構わないよ」
女将に促され、一同は各々イスに腰掛ける。
「開店休業状態か……この辺りは皆、妙に閑散としているようだが、他の店も同じような状況なのか?」
さっそく王子が疑問を切り出したが、女将さんは王子の素顔を見ても特別驚いた様子はなかった。きっとシド先輩のイヤカフが効いていて、他人の空似レベルに見えているのだろう。彼女は王子の質問に淡々と答える。
「いや、執念深く営業を続けてるのはうちぐらいなモンだよ。周りはみんな、『ある組織』の圧力に屈して、すでに廃業しちまってねえ……」
「『ある組織』……?」
思わず口を挟んで首を傾げる俺に、女将さんは神妙に頷いた。
「ああ。今回依頼したい内容っていうのが、そいつらのことさね」
俺はカウンター椅子に座る王子をはじめ、ソファにだらけて座るシド先輩や、王子を護るように傍らに立つアリアに視線を投げてから頷き、ごくりと喉を鳴らしてから続きを促す。
「詳しい話を聞かせてもらってもいいっすか?」
「もちろんだとも。奴等はどうも怪しい商売をしているいかがわしい悪徳組織みたいでねえ……。急にこの辺りの土地にやってきたかと思えば、人気ある東ジャイロの、開発次第では一等地ともなり得るこの辺りを買収して拠点にしたがってるんだ」
「ふむ……」
「そうはいっても、この辺の店舗はうちと同じで老舗が多いからね。立ち退きに難色を示した途端、手のひらを返されてあの手この手の嫌がらせさ。店は壊されるわ、人は奪われるわ、心は壊されるわ……おかげで近所の営業仲間はみんな廃業。懇意にしていたうちの常連さんたちもめっきり寄り付かなくなっちまったし、最後まで居残って抵抗していたうちも、もうそろそろ限界でね」
「そんな……」
単純な俺は、話を聞いているだけでも腹が立って、拳を握りしめてギリと奥歯を噛み締める。
そんな俺に不憫すぎる苦笑を浮かべた女将は、どこか遠い目をして続けた。
「まああたし自身、年のこともあるし、愛弟子に店を譲ってそろそろ引退どきかなとは思っていたんだ。んだども、その愛弟子までアイツらに奪われちまったから、もうどうしようもなくてね……。それで、どうせあんな奴らに土地や権利を奪われるぐらいならせめて一矢報いて、前途有望な冒険者に財産託してから隠居しようと思って、用心棒の張り紙を出したってわけ」
――なるほど。
それを聞いて、ようやく破格の値段である『三百万ベニー』の理由に腑が落ちた。
「そういうことだったんすね。ってことは、女将さんの
「ああ。もちろんその悪党ども……『ブリッツコーポレーション』っていう悪徳組織をぶっ潰して欲しいんだよ」
メラメラと闘志を燃やすように言う女将さん。
ふむ、と頷くしかない俺と違って、王子やシド先輩は状況を把握したように、なにやら納得顔で頷いているんだけども……。
「シド先輩、知ってるんすか?」
俺はとりあえず近くにいるシド先輩に聞いてみる。
「ブリッツコーポレーション……今噂の『イエローグループ』の大元だな」
「『イエローグループ』?」
「〝優良〟冒険者養成学校『イエローアドベンチャーズカレッジ』とか、〝優良〟ギルド『yellow horn』だとか……結構有名なグループなんだけど、コーハイくん、知らねえの?」
「でたー優良! ん〜、俺は全然知らないっすね」
「相変わらず軽いな♡ まあ、その名前聞いて逃げ出す奴が多いくらいには、厄介な〝優良〟連中って感じ?」
ゆったりソファにのけぞって、長い足を組むシド先輩。
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