第22話 勇者、四人目の仲間を迎える。

 考えがまとまったのか、やがて椅子から立ち上がった王子は、跪くアストリアの目の前に立つ。


 アストリアがやや緊張した面持ちで頭を深く垂れた。


「アストリア・シュトラール」


「はっ」


「お前の言い分はわかった。違和感のない話の流れからしても、おそらくお前は嘘をついていないだろう。……だが、その全てを鵜呑みにして今すぐ信じるというわけにはいかない」


「……はい」


「失踪したアストリアの件については、事実確認が終わり次第、俺が内々に処理を進めておく。無論、処分に関してもその後だ。判断を下すまでの間……お前には、俺の手伝いをしてもらおうと思う」


「……っ!」


「!」


「え。ってことは……?」


 目を瞬く俺とアストリア。シド先輩がキョトンとしたように首を傾げると、王子は俺に視線を移して、率直に尋ねる。


「人数が足りなかったのだろう?」


「へ? あ、はい、まあ、それはそうっすけども……」


「これで四人だ。受けられるクエストの範囲が広がる」


「……!」


「なっ」


 まさかの発言に、俺とアストリアは目をひん剥き、


「えー。マジでいってんの⁉︎」


 シド先輩はやや不満そうに口を尖らせる。


「ああ、冗談ではない。今のアストリアの状態で聖女としての回復や神聖魔法が使えるのかどうかは別として、我が国の騎士団員であれば剣の腕も確かなはず」


「……っ」


「体格差の問題があるから慣れるまでに時間はかかるだろうが……必ず役に立ってくれると思うぞ? なあ、アストリア」


「……。……はい」


 王子に視線を投げられ、わずかに躊躇いながら口篭ったあと、素直な返事を返すアストリア。


 すかさずシド先輩が問いを挟んだ。


「なーんか怪しいんだけど……ちゃんと白魔法、使えんの?」


「……い、いや」


「まー、無理だよねえ? だって、元の体が『聖なる力を授かる前の騎士』ってことは、白魔法を使えない単なる騎士ってことでしょ?」


「……っ」


「魔法っつーのはさあ。みんな簡単に扱ってるように見えるけど、あれ実際、使いこなせるようになるまですんげー修行したり努力したりしてんだぜ? 体が聖女になったからって、魔法未経験者の盾役タンクがそう簡単に魔法なんて扱えるはずがないもんな」


「……」


 押し黙るアストリアから察するに、おそらく図星なのだろう。


 俺も魔力ゼロだからわかるが、魔法の匂いとか感覚とか全くわからない。未知なる領域だ。


 いやそれにしても……。


「てかシド先輩、魔法に関してもずいぶん詳しいっすね……?」


「俺、こう見えて博識だし頭いいから♡」


「そうなんすか⁉︎」


「ナニキミ、俺のこと頭の悪いヤツだと思ってたの?」


「まさか! 馬鹿とは微塵も思いませんでしたが、だいぶふざけた人なのかなと!」


「いうねー、キミ♡」


 俺の不躾な発言に、シド先輩はひとしきりけらけらと笑ったあと、俯いて何も言わないアストリアに、嬲るような言葉を投げる。


「とまあ俺のことはさておいて。果たして唯一の取り柄である〝剣〟だって、その体・・・でまともに扱えるのかどうか。俺が気になってるのはソコだけだねー。貴重な残り一枠なんだし、剣も扱えない、白魔法扱えないじゃ単なるお荷物ゴミにしかならない」


「……っ」


「し、シド先輩、言い過ぎですってば! っていうかシド先輩だって剣も魔法も使わない、一曲5000ゼニーもする歌が武器の吟遊じゃないっすか。いやむしろポンコツヒーラーの王子だって魔法も剣もない、ただのスポンサーっすよ……!」


「ぶっ。キミってホント、何気に言うよねー」


「おい。誰がポンコツヒーラーだ」


「あっ。すいません、つい勢いで本音がっ……」


 やべえ。フォローしたつもりが全然フォローになってないっていう。


 俺が一人でアワアワしていると、やがてフウと一息ついた王子が、場を取りまとめるように言った。


「シド、お前の不満はわかる。だが、人間誰しも善し悪しがある。あくまで試しの編成だと思って、様子を見ようじゃないか」


「……へいへい。ま、人手不足は確かだし、とりあえず心配だったから不安要素を先に言っといたってだけー。後の判断は、リーダーのコーハイ君に任せるわ」


「えっ⁉︎ 俺リーダーすか⁉︎」


「違うの? だって、ギルド創るとか面白えこと言い出したのキミじゃん」


「そ、それはそうっすけど……って、まあいいや。俺は全然問題ないっすよ。その人も困ってるだろうし、体が慣れるまで俺がカバーすればいいだけの話っすから」


 相変わらず軽率な俺は同意するように王子を見ると、王子は軽く頷き、


「では決まりだな。アストリア、お前は今日から『アリア』と名乗れ。国民に『紅き騎士・アストリア』の名は知れ渡っているはずだから、妙に思われれば何かと差し支える」


「……は、はい」


「今しばらくは俺らと共に行動し、その体で、自らがアストリアであることを証明してみせろ」


「……はっ。仰せのままに」


「よし。じゃあ飯を食おう。腹が減った」


 かくして四人目の仲間を得て暫定パーティを結成した俺たち。


 喧嘩っぱやく戦うしか脳のない無知な俺、ふざけた吟遊、ポンコツヒーラー、聖なる魔法の使えない聖女といったどうしようもない底辺編成である気がしないでもないが、まだ見ぬ初クエストに向けて、ひとときの憩いを味わうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る