第15話 勇者、資金繰りに奔走する。

 ◇



「――……で? アテって?」


 二人目となる仲間、シド先輩を連れて職訓に戻った俺は、就労支援課に直行する。


 いずれギルド創設の際に必要となるであろう〝金〟の部分の『アテ』を、今一度確認しておくためだ。


「これっす」


 俺はきりりとした表情で、掲示板の一角を親指でクイっと指した。


『全土指名手配中賞金首の捕獲、200万ベニー』


 冒険者とか関係なしに街中に貼ってありそうな案件と、


『とある酒場ギルドの用心棒(※命の保証はありません)300万ベニー』


 完全に闇っぽい感じの案件。ここへきて一番最初に目に入れて脳内ツッコミしていた例のアレだ。


「いやいやいやいや(笑)」


「今先輩、カッコ笑いついてましたよね⁉︎ 俺マジなんすけど⁉︎」


「いやだって一攫千金狙いすぎだろー。マジな顔で自信ありげに言うから一体どんな秘策かと思えば……。発想は嫌いじゃねえが現実的でもねえっていう」


 シド先輩、腹抱えて大爆笑してるんだが。


「えー……でも、ギルド創設って相当物入りですよね? 場所代に人件費に維持費に雑費に税金に……って、それらを稼いでる間に、下手すりゃ大怪我するかもだし。いくら四人集めたとして普通のクエストで稼いでたんじゃ、ギルド創設まで相当時間かかるじゃないっすか」


「まあなあ」


「それに何より……俺自身にも色々と物入りで金が必要だから、コスパが悪いとちょっと厳しいんすよ」


「なにキミ。借金でも背負ってんの?」


「いや、実家に弟たちを残して訓練生やってるんで、できる限り仕送りしてやりたいんすよね」


「へえ……?」


 興味深そうに俺を見るシド先輩。俺は両方の求人案件の志願者用コピーをペリリとむしり取りつつ、


「だから、とりあえず話の内容だけでも詳しく聞いてみようかなあと」


 コピーを握りしめた俺は、意を決して就労支援課の窓口の方へつま先を向けた。


 今日は小さいばあさんじゃなくて、昨今では珍しくなった若い女性が窓口についている。


「……そう。ま、おもしれーから別にいいけど♡」


 シド先輩は少し面食らってるようだったけど、でも特にこれといった文句も言わず、窓口まで俺に付き従い、一緒に話を聞いてくれた。



 ◇



 俺が目処を立てた案件は二件とも外部案件だったため、職訓側とこれといった受注契約を交わすことなく就労支援課を後にする。


 賞金首の捕獲は捕え次第専門の施設に突き出せば良くて、酒場の用心棒については免許不要で人数も不問。東ジャイロにある現地に赴き、マスターと直接やり取りをすればいいそうだ。


 俺は案件の依頼内容が書かれたコピーに視線を落としたまま、東ジャイロに飛んで、後者の案件元である酒場を目指す。ひとまず詳細を聞いてみようという算段なのだが、職訓の話だと、報酬が報酬だけに問い合わせ自体は多いのだが、現地で話を聞いた段階で辞退を申し出る者や、受注しても条件達成ができず任務放棄する者が相次ぎ、未解決のままの難航案件になっているのだとか。


「酒場の用心棒ねえ……戦士ノーキンが好きそうな案件だな」


 もちろんシド先輩も一緒だ。先輩の声色は、なんだか楽しそうだ。


「酒場の『用心棒』ってことは、きっと酔っ払いから店を守ればいいってことだろうし、謎解きとか凝ったクエストよりもやることが単純でワンチャン狙えそうじゃないっすか」


「まあなァ。だが、破格の300万ベニーだぜ? そう甘い話じゃねえと思うけども」


「やっぱり甘いっすかね……? そこは確かに不安なんですが、でもまあ街中の酒場だし……出てくるっつっても、きっと強面の大男とか、剛腕のチンピラとか、そんな感じじゃないかと思うんすよね。俺、知り合いの酒場で何度かそういうヤツを追い払った経験があるんで、自分一人でもいけそうな感じなら王子やシド先輩に負担をかけることなく、なんならクリアできたりするんじゃないかなぁとか、そこそこ甘いこと考えちゃってます」


「まあ、詳しい話を聞いてみない限りは何とも言えないわな。って、王子……?」


「ああ、王子ってのはもう一人の仲間のことで、えっと、いわゆるニックネームみたいなもんっていうか……」


「待て! 待ちやがれ!!」


 ――と、メモを懐にしまいながら、街角を曲がろうとしたその時、ふいに前方の路地から男の野太い叫び声が聞こえて、俺とシド先輩の二人は顔を見合わせる。


「邪魔だ、どけ! そっち行ったぞ、捕まえろ!!」


 声の出元に視線を向けると、バタバタバタと騒々しい足音と共に、フードを深く被った小柄な人間が一人と、その後ろを追うように三人のやさぐれた風貌の男達がものすごい剣幕で走ってくる。


「あん? なんだァ?」


「追われてる……んですかね?」


 訝しげに眉を顰めるシド先輩と、首を捻る俺。


 追ってる側の男たちの風貌が見るからに山賊っぽいこともあって、ただならぬ気配を感じる。


 しかしゆっくりと観察しているような暇もなく、先頭にいた小柄なフードの人物は、前からやってきた俺とシド先輩の存在に気がつくなり、まるで盾にでもするかのように、これ幸いと俺の背中に隠れた。

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